第63話 ドミー、新たな武器を手に入れる

 「もう一つのお願い…」

 「そうです。アマーリエさんにしか頼めないものでして」


 俺は護衛としてミズアを伴い、アマーリエに会いに行った。

 用件は2つ。

 とある任務のためエンハイム城を出るライナに、Cランク冒険者20人の護衛を付けること。 

 ユリアーナからも、20人の随伴を出してもらっている。

 周辺を荒らしているゴブリンの潜伏場所とも離れているし、【強化】も施したため問題ないだろう。

 頼りにならないが、宿と一応連絡を取らねばならない。


 そしてもう一つがー、


 「盾…ですか?」

 「一応護身用として短剣も装備しますが、主兵装はそれでいこうと思っています」

 俺の結論は、プレートアーマーと盾を装備したクラス【盾持ち】となることだった。

 自分の身を守りつつ、防御に優れているとはいえないライナとミズアを援護する理想のポジションだ。

 扱いも剣よりは簡単だし、時には【男性】の身体能力を生かした突進も行える。

 

 近接戦闘を担当するミズア、遠距離からの【魔法系】攻撃を担当するライナ、防御力を生かして支援や援護を担当する俺。


 理想の布陣である。


 明日討伐する予定のゴブリンは【スキル】を持たないため、【スキル】に対する耐性はひとまず考慮しなくていい。

 というわけで、同じく盾と鎧というシンプルな装備のアマーリエに会いに行ったわけだ。


 「なるほど…それで、【男性】用の分厚い盾を探しているわけですな」

 「そうです。なければエンハイム城で探してー」

 「いえ、一つだけあります」

 「本当ですか!?」

 「現在は引退したCランク冒険者、【怪力のコルネリア】が遺したものです。身体能力がドミーさまのように並み外れておりましてな、オークも盾で殴り倒したと言われています」

 「あー、俺がもらっていいですかね」

 「…実は先日亡くなりましてな。誰かが使ってくれるなら、彼女も本望でしょう」

 「…分かりました。一度見てみましょう」



 ========



 【怪力のコルネリア】が遺した盾は、【アイギス】という名前だった。

 赤と黄で塗装された丸形の片手盾で、【バックラー】という種類に属する。

 【スキル】を発動せずとも持てるように本人が調整したらしいので、【男性】の俺でも持てるらしい。

 この世界の武器のほとんどは【スキル】を使える【女性】の利用を前提としているが、単なる物理的な盾として使うだけなら問題ない。


 「おお、結構重いですね…」

 「コルネリアの唯一の兵装でしたからな。防御範囲はやや狭いですが分厚く作られており、視界も確保できています」

 短時間走りながらの展開や、格闘攻撃もできそうな理想の盾であった。

 実際、コルネリアもそのような戦い方をしたのだろう。


 「ドミーさま、これで戦場でも功を挙げられますね!」

 随行しているミズアからの評判も上々である。

 

 「ありがとうございます。かなり理想的なものが手に入りました」

 「ふふふ…まだ礼を言うのは早いですぞ」

 「?」


 こうして笑う姿を見ると、アマーリエもまだ23歳の若さであることを実感させられる。

 話を聞いたCランク冒険者によると、彼女の前で年齢の話をするのは厳禁だそうだが…


 「さっそく、訓練を行いましょう」



 ========



 「ドミー殿!もっと盾を前に出し、敵の攻撃方向を制限してください!」

 「足元を防護するには、もっと盾を下げなければなりません!」

 「時には体当たりを仕掛け、敵を押し倒すのです!」


 安全なエンハイム城内で、まずはアマーリエとその部下数名による地獄の訓練が始まった。

 普段は穏やかな性格のアマーリエだが、この時ばかりは歴戦の戦士の風格をまとっている。


 ー敵の攻撃を逸らすか受け流す

 ー走りながら接近戦に持ち込む

 ー盾を構えながら体当たりを行う

 ー体当たりで押し倒した相手を盾で殴る


 基本はこの4ステップだ。

 これらのステップを、アマーリエやその部下とともに夕方まで練習する。


 「…半日にしては上々でしょう。応用に入っても混乱するでしょうから、今日はここまでにしておきます」

 「あ、ありがとうございます…」


 日が落ちる寸前で、なんとか及第点であるとのお許しが出た。


 「追加で練習しても構いませんが、睡眠と食事だけは欠かせないでください。それでは…」

 ベテランらしいアドバイスを授け、アマーリエは去っていく。


 「ドミーさん、正直格闘のセンスやばくないか…?」

 「戦闘系の【スキル】があれば、Bランク冒険者にも引けを取らないぞ」

 「知恵だけじゃなくて、戦闘能力もあったらやばいな…」


 部下の口は多少軽いが、誉め言葉として受け取っておこう。



========


 「ミズア、頼む」

 「分かりました、充分を気を付けますが、ドミーさまもご注意を」


 追加の練習として、ミズアとの模擬戦も行う。

 【竜槍】はあらゆる防御を貫通してしまうので、かなり手を抜いてもらった状態だ。


 といってもー、


 「ドミーさま!後ろに目を付けてください」

 「空中からの攻撃に対応する必要があります」

 「ここはガッと来たところをバッと受け流す感じです」


 …少しAランク目線過ぎた。

 いや、こちらの精進が足りないのである。


 「おー、やってるわね」

 「おお、帰ったかライナ。【アーテーの剣】はどうしていた?」

 「それがねー」


 俺は、帰還したライナから事情を聞く。


 「…なるほど。助力は期待できないか」

 「こっちの足を引っ張りそうだから、むしろいなくていいのかもね」

 「そうだな。それでは始めよう」

 「…始めるって何を?」

 「決まってるだろ」


 おそらく、俺はアマーリエのような笑顔を浮かべていたに違いない。


 「訓練だよ」



========



 ーあの時のドミー、ラムス街のアメリアみたいだったわ…


 朝になってライナがぽつりとつぶやいたように、俺は某ムキムキマッチョの番兵のごとく、肉体を痛めつけながら訓練を行った。

 盾の使い方…でなはく、ライナとミズアとの連携をである。


 「ここは右斜めから行った方が良いでしょ!」

 「…バキッ!のあとにズゴ!です」

 「いや、ここは俺が全力疾走してだなー」


 数時間過ぎるともはや会話が噛み合っていなかったが、それでも連携の強化は実感できた。

 

 俺は走り、ライナは【ファイア・バースト】を放ち、ミズアは【竜槍】を振るう。

 

 ある程度形ができたと判断し、深夜になる前に中断。


 【癒しの薬草】で3人の肉体疲労を癒した後、十分な食事を取って就寝する。

 襲撃を警戒し、最低1人は起きて警戒態勢を取りつつ、交代を繰り返しながらではあるが。

 アマーリエとユリアーナにも監視を強化してもらったが、結局刺客は現れなかった。


 そしてー、


 いよいよゴブリン討伐の朝を迎える。


 


 

 

 


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