第57話 ドミー、都市を無血占拠する(後編)
「マンハイムの者たちに告ぐ!私は1,000年に生まれるとされる【男性】である!連合軍の代表として交渉に参った!代表者と合わしてくれ!」
俺は着こんだフルプレートのバイザーを上げ、城壁の人間に呼びかけた。
「交渉は我らも望むところであるが、なぜ【男性】なのだ!」
城壁が少しざわついているのが見える。
ほぼ伝説化しているだけでなく、【スキル】がないとされる【男性】が来るとは思わなかったのだろう。
こちらに注目が集まるのを感じる。
「私にしかできないことがある故、使者として選ばれた!代表者と会えば分かる!」
ある意味、嘘ではない。
「2人ほど迎えにこられよ!何なら、隅々まで触って確認しても構わない!」
しばらく城内で協議があったようだがー、
「…ゆっくりと来るのだぞ」
言葉通り、迎えが2人現れた。
農具を武器のように構えた、2人の【女性】だった。
痩せてはいるが、野良仕事で鍛えられた肉体をしている。
俺はゆっくりと入城し、背後で城門が閉じられる音を聞いた。
「どうした?そんな遠くにいては、武器を持っているかどうか確認できないぞ」
2人は農具でフルプレートを何度か突いていたが、俺はわざとそれを咎めた。
それもそうだと2人は近づくがー、
「あっ!?」
「くうううううん!」
一瞬の隙をついて2人に触れる。
最近は、うまい【絶頂】のさせ方が分かってきた。
どうやってかって?
少し捻ってぐっと押す!
追加の衛兵が来る前に、俺は支配下におさめた2人に声をかけた。
「騒ぐな。俺が交渉に来たという事実に変わりはない。そのまま、俺を代表者に会わせてくれ」
俺は視界の端で、ミズアとライナがそれなりの高さがある水車小屋にうまく飛び乗ったのを確認してから言った。
どうやら、うまく潜入できたらしい。
【竜槍】を手にし、俺の【強化】を受けたミズアは、ライナを抱えつつ高速で移動することができる。
念のため、わざと俺が【男性】だとばらし、城壁の注意を一瞬そらしておいた。
「ただ、念のため聞きたいことがある。誰一人殺さず、傷つけないためにな…」
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「そなたが…使者としてきた【男性】か。名は?」
「…デルと申します」
俺が通されたのは、町中央に位置する会館だった。
会館といっても、昔存在した砦を改修したものらしい。
それなりの規模があり、その内の1室である大広間に俺は通される。
左右には、それなりの武装をした【女性】 たちー今回の騒動を起こした幹部だろうかーが控えており、その奥には椅子にもう一人の【女性】が座っていた。
年齢は4〜50代、紫のマントに身を包んでおり、鋭い目つきをしている。
「そうか…なぜ使者としてそなたが選ばれたかは知らんが、我々の要求はー」
「待て!」
鋭い目つきの【女性】をした女性は俺と交渉を始めようとするが、左に控えていた人物に制止される。
こちらは30代程度だろうか、腰には立派な剣を携えている。
「この男、もしや都で噂となっている【奇跡の腕を持つ男ドミー】ではないか?怪しげな術を使うと言うぞ!」
「なに…!?」
「では、我らも?」
たちまち周囲に動揺が広がる。
なるほど、さすがに情報通ではある。
だが、もう遅い。
俺は足でドンと床を踏み、大きな音を鳴らす。
それが合図だった。
事前に切り裂いていた窓のよろい戸から、ミズアが音もなく姿を現した。
背中には、ライナを抱えている。
「お前はー」
剣を抜いて反応を示そうとする者もいたがー、
「ファイア」
機先を制し、ライナが小さな声と共に【スキル」を放つ。
といっても、威力はほとんどない。
俺が一つ注文をつけたからだ
ー威力はいらない。その代わり、失明しない程度に強力な明かりにしてくれ。
俺はフルプレートのバイザーを降ろし、目を閉じる。
その直後、まぶたを貫こうとする強力な刺激が襲う。
なんとか耐えきり目を開けるとー、
「ぐああ…」
「くそおおおおお…」
室内のほぼ全員が、もがき苦しんでいた。
もちろん、俺たち3人を除いて。
「潜んでるものは」
「後ろの衝立に2人いる」
そばにいたミズアに指示を出す。
見ると、動揺しながらも槍を構えた兵士が2人。
「はっ!」
ミズアが急速に接近し、柄で武器を破壊して無力化した。
「みなさん、動かないでください」
ライナが【ルビーの杖】で、未だ苦しんでる参加者を威嚇した。
「すぐ、終わりますから」
そう言うと、部屋の扉に閂をかけ、外部からの援軍を遮断する。
仕上げだ。
俺は、この騒動を起こした首謀者のもとに向かった。
鋭い目つきをした方ではない。
左にいて、俺の正体を見破ったものだ。
「な、なぜ…?」
震え上がって動揺している。
仕方ない、影武者があっさり見破られたのだから。
ー町長の場所ですか?奥に影武者を置いて、左に控えています。立派な剣を携えている人です。
ーしかし交渉なんて無理ですよ。来たものを人質にする作戦なのですから。念のため、後ろの衝立に腕利きを2人忍ばせています。
先ほど【絶頂】させた衛兵2人からの情報である。
なんでも、街の全員で力を合わせるため、作戦を開示したらしい。
悪いとは言わないが、仇となったな。
「さて」
俺は、笑顔で言った。
「少しお手をお借りしますよ」
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