第56話 ドミー、都市を無血占拠する(前編)

 「く~~~そ~~~、たかが田舎者の分際で~~~」

 「こうなりゃ、都市を落としてあいつらを懲罰する!」


 マンハイムの住民から入城を拒否されてからしばらく後。


 連合軍は集結し、会議を行うこととなった。

 Bランク冒険者集団【アーテーの剣】の20人と、それ以外のCランク冒険者80人である。

 Cランク冒険者集団は大小さまざまなチームに別れているが、その内の1つ【モイラの誓い】に所属する私とゼルマが、元締めとして統率している。

 バランスが悪くいさかいの起きやすい構成だが、ドミー殿も言ったように、軍の復活を恐れるムドーソ王国があえてこうしているのだった。


 「落ち着きなされ、ヘカテーさま。エリアルさま」


 一応の上司なので、敬語で話しかける。


 「うるさいぞアマーリエ!万年Cクラスの癖に」

 「そうよ~~~最近あのドミーとかいうキモい奴とつるんじゃってさ~~~」

 「あんたたち、最近ヘカテーとエリアルさまに生意気だわ!」

 「そうだそうだ!引っ込んでろ」


 ヘカテーとエリアル含む、【アーテーの剣】の連中にけん制される。

 この人たちは、いつもこうだ…

 

 「…私の立場はこの際どうでもいいでしょう。それより、マンハイムの住人が言っていることは本当なのですか?物資の代金を支払わなかったと」

 「いや~?ちゃんと首都の役人に請求するように言ったけど~~~?」

 「ということは、やはり支払わなかったんですね」

 「…うるせえ、あの場ではお前も反対しなかったろうが」


 やはり、あれはまずかったか。

 私は、1年前のことを思い出す。


 去年【ブルサの壁】の壁へ警備任務に向かった際、【アーテーの剣】に所属する者が、失火で物資を燃やしてしまった事件があった。

 2人で酒を飲みながら行った火遊びが物資に燃え移るという、弁解のしようがない失態である。

 それによって物資が想定を超える速度で消費され、途中で尽きてしまったのだ。

 度重なる予算削減により、追加購入する軍資金もない。

 対策を協議することとなったのだがー、


 -とりあえず、後からギルド本部に請求してもらう形にして、物資を接収してしまいましょうよ~~~

 -それは…大丈夫なのですか?

 -ムドーソ王国を守る連合軍のためだぞ?それぐらい協力して当然だろ。なあ?エリアル

 -当然よね~~~後でやっておくから大丈夫だよ~~~


 衰えたりとはいえ、戦闘用の【スキル】を保有する100人の集団に抗うのは難しい。

 マンハイムの住民が、恨めしい顔でこちらを見ていたのを思い出す。

 さすがに帰還してからギルド本部にかけあったと思っていたが、過大評価だったか…

 私も同罪だな。


 「こうなりゃ~~~エリアルの実力見せちゃおうかな~~~」

 【リバイアサンの杖】を構え、エリアルは酷薄な笑みを浮かべた。

 たちまち周囲に水流が漂い、主の命令1つで攻撃できる体制を整える。

 こう見えても、【遠距離系スキル】の使い手としてそこそこ腕が立つ。

 才能を持つのが、常に善人とは限らないのだ。


 「おい…そういや、あのドミーとかいう奴はどうしたんだ。ライナとミズアとかいうやつも」

 やっと気づいたか、もう明かしてもいいだろう。

 「すでに、マンハイム城内に向かいました」

 「はあ!?」

 「え~…どゆこと?」


 「3人で城を無血開城すると申したので、行動の自由を与えています」



==========



 「今回は、マッサージから始めるって雰囲気じゃなさそうね」

 「そうだな」

 「マッサージとは、なんですか…?」

 「それはね、ドミーが女装ー」

 「ストーップ!それ以上は言うなよ」

 「ぷくくくく…」

 「…?」


 俺、ライナ、ミズアの3人は、マンハイムの城壁を遠くから見つめている。

 石で作られた簡素な城壁の中に、約500人の住民が住んでいるらしい。

 農具で武装しているのは、約100人といったところか。


 「しかし、まがりなりにも軍隊を堂々と拒むなんて、ムドーソ王国の権威も地に落ちたものね」 

 「エルンシュタイン王即位以降、軍事だけでなく内政も滞りがちだからな。暴発する人間が現れても仕方ない。ろくな軍隊がいないとなれば、なおさらだ」

 「どのようになさいますか?このミズア、覚悟はできています」


 ミズアは【竜槍】を構えなおした。

 そういえば、言ってなかったことがあるな。


 「ミズア、俺たちがこういうことをする時にはルールを設定している。なんだか分かるか?」

 「あ、はい…確か、『人を無暗に殺傷しない』でしたよね」

 「そう、それともう1つがー」

 「『成功と失敗を分かち合う』でしょ?」

 「ライナ…」

 「何よ、あの時は私とドミー2人だったから『成功と失敗を私と分かち合う』と言ったわ。でも、今は違うでしょ?」


 俺の心情に配慮したのか、ライナは微笑んでいる。

 思えば随分遠くまで来たものだ…

 「ありがとう…じゃあ動き方だがー、」



==========



 「…シンプルすぎるわね。ドミーは危ない橋を渡るけど大丈夫なの?」

 「だから、2人は何かあったら駆けつけられるようにしてくれ。いけるな?ミズア」

 「分かりました、最善を尽くします」

 「よし。じゃあミズア、【クイック絶頂ポイント】を設定したいのだが…」

 「じゃ、じゃあお腹でお願いします」

 「好きだなお腹…分かった」

 

 打ち合わせも終わり、いよいよ作戦が始まる。

 ライナは腋を、ミズアはお腹を俺に見せた。

 ライナは堂々としているが、ミズアはおずおずとしている。


 俺は、その2つに手を伸ばした。

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