第55話 連合軍、足止めを食らう
「…ははははは!ドミー殿も冗談が過ぎる」
「あ、アマーリエ!?」
「空想の話は聞かなかったことにする。お互い、その方が良いだろう」
アマーリエは、俺に背を向け、歩き出した。
ゼルマも、慌ててそれに付いていこうとする。
だが、途中でアマーリエは途中で歩みを止めた。
「…あえてその話に乗るとして、連合軍を乗っ取ろうとするなら、やっていただきたいことがあるな」
どうやら、俺に言いたいことがあるらしい。
「なんでしょうか」
「まずは、ドミー殿の【スキル】の力を、もっと示す必要がある。治癒の力を持つことははっきりしているが、それだけでは司令官としてふさわしいとは認めにくい」
「…もう一つは?」
「ドミー殿自信が、武を示すことだ」
「武…」
「そうだ。結局、軍隊の指揮官というのは立派な戦士が好まれる。配下のライナ殿は優れた実力を持つそうだが、それならライナ殿が司令官となればいい。そうではないか?」
「なるほど」
「もちろん限界はある。だが、工夫のしがいはあるだろう」
「…善処します」
「最後にお聞きしたいが、もっと強引にことを進めても良いのではないか?」
「まあ、色々な事情があります。それに…」
「それに?」
「無用な血は流さないと、誓っているので」
実際、アマーリエに語ったような策を実行して、ムドーソ王国を強制的に打倒する道もあるかもしれない。
だが、それは暴虐な王エルムスの死後に起こった悲劇を再現する内乱の発生だ。
最悪、ムドーソ王国全土が血で染まる可能性もある。
ライナは、それを許しはしないだろう。
==========
「…というわけでミズアは【従者】として連合軍に加わることとなった。これからも、よろしくな」
「あ、ありがとうございます」
「よかったわね!ミズア」
俺、ライナ、ミズアで歩きながら、これまでの経緯を語る。
接触禁止令が強化されたのか、【アーテーの剣】との距離はさらに遠くなった。
だが、アマーリエとゼルマ率いるCランク冒険者たちとの距離は、少し縮まっている。
もしかすると、先ほどの対談で、俺に対する評価が上がったのかもしれない。
新たな仲間を加え、姑息な悪女をやりこめ、手を結ぶには至らずとも興味を持ってくれた人物を得た。
王国の無血占領という大きな目標に向かい、小さいながらも、一歩ずつ前進しつつある。
この過程を、今は楽しもうではないか。
「ね、ねえ…」
その時、ライナが声をかけた。
顔を赤くし、少しもじもじしている。
「【ビクスキ】の効果が切れたんだけど…」
「あー…」
【絶頂】後30分ほど続く【強化】の効果が切れた、というわけである。
ライナは【強化】がなければ貧弱なステータスとなってしまうので致し方ない。
がー、
「ドミーさま。その…ミズアもお願いします」
仲間を加えたことで、手間が2倍になっている。
「この前のように、お腹がいいです」
「私は…もう。言わなくても分かってるでしょ?」
1時間に1度でも良いのでは…とはいえない雰囲気である。
「よし」
俺は覚悟を決める。
野望に突き合わせている以上、従うものの願いは叶えなければならない。
でなければ、支配者にはなれないだろう。
「あの木陰だ」
「やったあ!」
「さすが、ドミーさまです」
「あの3人、またいなくなったぞ。何してるんだろうな…」
「放っておけ。この前の恩は一応返したしな」
「そういやこの前幽霊を見たんだ。動物やモンスターじゃない、甲高い声が森に響いててよ…」
Cランク冒険者たちに不審な目で見られていると知ったのは、それから少し後のことである…
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それからさらに数日後。
緩慢な進軍ではあったが、連合軍は3つ目の都市、マンハイムへと到着する。
ここで物資を調達し、数日行軍すれば【ブルサの壁】にたどり着く予定だ。
しかし、ここで思わぬ事態が発生する。
「な~~~に~~~住民が都市に入るのを拒否しているですって~~~」
「なぜだ!」
集団の先頭を歩く【アーテーの剣】が都市に入ろうとしたところ、拒否されたのだ。
都市を取り囲む簡素な城壁には、農具などで武装した住民たちが待機しており、徹底抗戦の構えだ。
「都市に入りたいだと?笑わせるなこの役立たずめ!」
動揺している連合軍に対し、城壁の上から住民たちが罵倒する。
「お前たちは昨年もここに来たが、提供した物資の代金も支払わず立ち去った!」
「近隣を荒らすゴブリンの群れの討伐も断ったじゃない!」
「おかげで、田畑や住民に多くの被害が出たぞ!」
「「「エルンシュタイン王に伝えろ!!!我らが収める税金を無駄遣いせず、もっとましな集団を派遣しろとな!」」」
弱体化しているとはいえ、国から派遣された軍隊の入城を拒否し、あまつさえ武装している。
住民たちにどれほどの覚悟があるかはわからない。
だが、これは実質的な反乱であった。
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