第53話 ドミー、悪女2人に要望を呑ませる


 「ちょっと~~~~~人が増えるなんて聞いてないんだけど~~~~~」

 「…責任者に隠れて勝手な真似するんじゃねえよ…」


 ミズアが大きな声を上げて【絶頂】してから数時間後。

 進軍を再開した連合軍の責任者、【アーテーの剣】のヘカテーとエリアルに、俺はミズアが隊列に加わると報告した。

 当のミズアとライナは、後方で待機させている。

 多分、連れてくると面会すらしてくれないだろう。


 妙に語尾が長いエリアルと、常に不機嫌そうに話すヘカテーのコンビ。

 ライナ含む他のメンバーを、Bランク冒険者であるという選民思想で多数排斥したいわくつきだ。

 今までは俺たちを遠巻きに眺めているだけだったが、どうやら傲慢な態度は相変わらずらしい。

 ライナは「こらしめてやったわ!」と胸を張っていたが、人間とはそう簡単には更生しないものだ。


 「勝手にメンバーを増やすのは~~~~~ギルドからの報酬を水増しする行為~~~」

 「ムドーソ城に帰ったら、お前らを規約違反で訴えるからな!!!」

 「まあ、待ってくださいよ」


 俺は冷静に、2人の傲慢さに対処した。

 「何もギルドメンバーを水増ししたわけじゃありません…ミズアはあくまで【従者】ですよ」

 ミズアの同行を認めさせる秘策はあるが、ひとまず言葉遊びーレムーハ大陸では【チント】と呼ばれるーを使って遊んでみることにした。


 【従者】。

 ギルドがもっと大規模組織だった頃の名残。

 冒険者のそばにはべり、様々な身の周りの世話をする係だ。

 冒険者は【従者】を何人か雇用し、戦場へと向かうのが一般的であった。

 組織の縮小、装備の軽装化、給与削減に伴い、【従者】を雇うこともなくなっていったのだが、制度として廃止されたわけではない。

 というのが、俺の言い分だった。

 

 「そんなのは〜〜〜言い訳〜〜〜絶対ダメ〜〜〜」

 「屁理屈をいうな!!!」


 まあ、さすがに素直に引き下がりはしないか。

 ならばー、


 「それでは、他の人にも意見を聞いてみましょう。みんな、入ってきてくれ!」

 「み、みんな〜〜〜?」

 「お、お前に味方なんてー」


 その時、俺の背後から十数名ほどの集団が入ってきた。

 連合軍の8割を占める、 13のCランク冒険者組織。

 その内の約20人ほどである。

 先頭にはー、


 「アマーリエ、ゼルマ!あんたたち〜〜〜!」


 Cランク冒険者組織の元締めを務める、アマーリエとゼルマの姿がいた。



==========


 「勘違いはしないでいただきたい。別に、ドミー殿に従ったわけではない」

 「そうよ。ただ、この人には1つ恩義があってね。今日はそれを返すだけ」

 「恩義だと…」


 アマーリエとゼルマの言葉の意味を、ヘカテーは理解してないようだった。

 それに対し、アマーリエとゼルマ以外の参加者も、怒りの声を上げる。


 「よくも忘れられるな!」

 「あんたらBランク冒険者のミスのおかげで、【カリュドーン】に襲われて瀕死だった冒険者がいただろ!」

 「ろくな治療もせず放っていきやがって、ドミーさんが治療しなきゃ死んでた!」

 「あ、あれは〜〜〜その〜、助からないと思ったし…」

 「なんだと?!人間の皮を被った悪魔め!ドミーとやらも得体が知れないが、あんたらよりはましだ!」 

 「みんな静かに!とにかく、Cランク冒険者80人は、そのミズアとかいうメンバーの同行を指示する。ここいるメンバーは、その代表だ」

 「うぐぐぐぐ…勝手にしなさい〜〜〜」

 「お前ら…覚えとけよ!!!」


 いくらCランク冒険者とBランク冒険者に実力の差があると言っても、人数にして4倍の差は埋めがたい。

 こうして、この議論はなし崩し的に終わり、ミズアの同行は決定した。


 無論、これは俺が仕組み、事前に根回しを行ったものだ。

 アマーリエとゼルダも、どこかで構成員の命を救った俺に恩義を返しておかないと、顔役として面子が立たないからな。

 接触禁止令の出ている俺の手に触る、のは流石に難色を示したが、メンバー1人の口利き程度なら…ということとなった。


==========



 「アマーリエさん、ゼルマさん。助かりました」

 「仲間の命を助けてもらった恩を返しただけだ。礼には及ばない」

 「これで貸し借りは無し。イラストリアの爆発騒ぎも、あんたらが噛んでるんでしょ?別に邪魔はしないけど、こっちを巻き込むのは…ちょっと困るわね」

 「ははは…まさか」

 ありゃ、きっちりばれてる。


 このまま終わるのもあれなので、一つ質問でもするか。


 「お二人は、どうすれば俺の手を触ってくれますか?」

 「…直球ね」

 「逆に聞くが、それでドミー殿は何を成し遂げたいのだ?」

 「それは簡単なことです」

 

 俺は堂々と言った。


 「この連合軍を乗っ取り、ムドーソ王国軍復活の中核としたい」

 

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