第43話 【奸臣】ランケ、苦悩しながら起動する
「【竜槍】が起動した…だと?」
「はっ、探知と監視に当たらせていた【支援系スキル】使いが、そのように言っております」
「…」
家臣の報告を聞いたのは、【男性】ドミー含む連合軍が出発して数日後の夜だった。
夜の日課である、剣の練習をしようとした矢先のことである。
思わず、右手に持っていた【七宝の剣】を取り落とす。
【馬車の乱】で死んだ元同僚、エンギの遺品だ。
「ランケさま、危のうござりまする」
「ええい、触るな!剣ぐらい、自らで拾える」
宣言通り【七宝の剣】を取り戻すが、ずっしりと重い。
「…いかがなさいますか?」
「すぐ対策を取らねばならぬ。あれは【青の防壁】すらも破る強力無比な神槍。いまムドーソ城内は連合軍もおらず丸裸。攻め込まれたら戦争が起きるぞ!」
「それでは、
「…」
だから申したのじゃエルンシュタイン王、半端な恩赦は危険を招くと…
幼い王への不敬とならぬよう、心の中で毒づく。
だが、そのような結果を招いたのは、他ならぬ自分だった。
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ー【竜槍】も返還してやればよいではないかランケ。元々は、ムドーソ王国に忠節を尽くした忠臣であるぞ。
【馬車の乱】の関係者に恩赦を施すと決まった際の問題点。
乱の首謀者であり、【竜槍】を代々受け継いできたメクレンベルク一族の処遇だった。
山岳地帯に潜んでいるという情報は掴んでおり、和解ができるならそれに越したことはない。
何せ、エルンシュタイン王が【守護の部屋】の利用を嫌って以来、ムドーソ王国には軍事力が不足しているのだから。
だが、完全なる和解となれば、メクレンベルク一族は受け継がれた【竜槍】の返還を求めるだろう。
敗死したメクレンベルク家当主、ユッタと親交があったエルンシュタイン王は、返還に乗り気だった。
だがー、
ー正気か!?ランケ殿。
ーひとたび【竜槍】を返せば、必ずや我らに槍を向けるに違いない。
ーその時は、貴様が【馬車の乱】を主導したとしてメクレンベルク一族に差し出すぞ!
このように、エルンシュタイン王以外の群臣は猛反対であった。
群臣は王の代理人たるこのランケに圧力を加え、王を説得するよう迫った。
しかしー、
ー…ランケよ。我は王なのに、なぜここまで提案を無視されるのだ…?そんなに、我は軽視される存在なのか?
日ごろから政治的実権を奪われていることが不満だった王はへそを曲げ、説得は失敗に終わった。
王と群臣の板挟みになったこのランケはー、
ーな、なればこうしよう。【竜槍】は返還する。だが、ムドーソ城内には入れない。そして、【竜槍】に新たな後継者が現れれば一族ごと抹殺できるよう、監視をつける。
ーまさか、
ー国家に与える危険を考えれば、もったいないとはいえまい。
という妥協案を提出した。
そして、一度は王の提案を聞くふりをしてメクレンベルク一族に【竜槍】を返還する。
もちろん、監視として
このランケの記憶では、放置して今日に至るまでの1256日の間、メクレンベルク一族から届いた嘆願書286通を全てもみ消している。
エルンシュタイン王は何度か文句を言ったが、やがて押し黙った。
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「
家臣の報告を受け、まずは安堵する。
「メクレンベルク一族最後の生き残りが病に犯されたと聞いて油断しておったわ。これ以上、王朝にあだ成す者が増えてはかなわんからのう」
「明日、遺体を回収しに人を遣わします」
「うむ、下がってよい」
「はあ…やはり、地獄から戻ってこぬか?エンギよ。不得手なことをするのは、疲れる…」
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ミズアが【竜槍】を引き抜いてからしばらく後ー。
静まり返った【廃兵院】に迫る、巨人がいた。
いや、それはよく見ると巨人ではない。
胴体や足がなく、巨大な顔と2つの手のみで浮遊し、移動しているのだ。
顔は耐【スキル】耐性を持つ黒い鉱石【テトラグル】を利用した球体型。
所々赤く輝いており、内部に秘められたエネルギーの禍々しさを物語っている。
視界確保を目的とする眼球を球体の前後上下左右に6つ付けており、それぞれが敵対者を発見可能だ。
2つの手も【テトラグル】を利用した黒い色が特徴だが、随所に見られる輝きは緑で、目はついていない。
その代わりに、計10本の指先には大きな穴が空いており、そこから緑色の【遠距離系スキル】を連射する仕組みだ。
これぞ、ムドーソ王国随一の建築士、カエナオが遺したもう一つの遺産。
本人の意思に関係なく改造された戦闘兵器。
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