【挿絵付き】第40話 ドミー、廃兵院にて第2のヒロインと出会う

ードミー殿に案内したい場所があります。【廃兵院】という場所です。

俺は、ロスヴィータからの懇願を受けて、【廃兵院】という場所に向かうこととなった。

その道中で、【馬車の乱】の経緯と軍の没落に至る話を聞く。


「なんというか…あんたも辛かったな」

「我らのことは、もはやどうでもいいのです」

先頭を行くロスヴィータは振り返らない。

だが、その背中は力なく見える。

「所詮、権力闘争に破れただけのこと。王は我らを虐殺しましたが、我らも王に反逆しました。その事実は覆りませぬ。ただ…」

そして、空を見上げた。


「乱には参加していないユッタさまの忘れ形見、ミズアさまだけでも幸せになっていただきたいのです。あの子には、誰にも恥じることなく、自らの運命を切り開く資格がある。なのに…」



==========



ロスヴィータの話をまとめると、このような経緯であった。

【馬車の乱】で敗死した将軍メクレンベルク・フォン・ユッタは、直前に一人娘メクレンベルク・フォン・ミズアをロスヴィータに託した。


ー王はきっと、我らに恩赦を下さる。

ーそれまで、逃げ延びてくれ…


ロスヴィータは自らが片腕を失う重傷を負うも、わずかに生き残った部下を引き連れ、ムドーソ城から脱出を果たした。


そのまま僻地へと潜んでいたのだが、新たな王エルンシュタインによって、これまでの罪を許すとの布告が出る。

和平の証として、ユッタの遺品であり、メグレンベルク家代々伝わる強力なAランク武装、【竜槍】も返還された。


ロスヴィータ一行は、【竜槍】と共に喜んでムドーソ城へ向かおうとしたのだが、貴族たちの反対のせいか首都には入れず、郊外の宿場町イラストリアでむなしく時を費やすこととなる。

そして、そのまま追加の布告がでることもなく、ロスヴィータたちは付近の捨てられた教会を【廃兵院】と名付け、そこで王の許しを待ち続けた。

現在に至るまでー。


そんな展望の見えない中でも、成長しつつあったミズアは希望であった。

いつかムドーソ軍が復活した時、メクレンベルク氏のみ扱える【竜槍】を使役できるミズアが、軍の名誉を回復してくれるだろうと。

しかしー、


「ミズアが、1年前から不治の病になったと…」

「そうです…我らのお世話が行き届かないばかりに。ユッタさまに申し訳が立ちませぬ…!」

ロスヴィータは、不意に涙を流した。

俺は、あえて気づかないフリをする。


「ミズアの具合は、どうなんだ?」

「最近は起き上がることもままならず…このままでは」

「そうか…」

「現在は14歳となり、本来であれば【竜槍】を使役できる年齢となりました。ですが、【竜槍】は持ち主を選びます。ミズアさまが病弱なためか、力を示そうとしないのです」


俺にすがりたくなる気持ちもわかる。

ラムス街の人間に、【奇跡の腕を持つ男】の噂を流させておいて良かった。

そうでなければ、ロスヴィータたちは永遠の絶望に苛まれただろう。



==========



「着きました、ここが廃兵院です」


やがて、俺は捨てられた教会を利用した【廃兵院】へとたどり着いた。

そして、【廃兵員】の名称の意味を知った。


「ろ、ロスヴィータさまですか?隣に、御客人でもいらっしゃるのですか?」

目をつぶされたもの。

「あんたが、ドミーさんかい?ああ!すまない、片足ではどうしてもな…」

足を失ったもの。

「あああ…怖い。怖いよお」

悪夢に苛まれるもの。


【馬車の乱】を辛くも生き延びたものの、それによって廃人と化した者たちの居場所。

それが、【廃兵院】だった。


「…お見苦しいとこをお見せしました」

「気にしなくていい。後で全員治療する」

「はあ…」


俺は、ここで苦しむ人間を全員助けられる力がある。

だが、流石にロスヴィータには冗談と受け取られたようだった。

実際、【奇跡の腕を持つ男】の話も半信半疑なのだろう。

それはそうだ。

俺だってそうなのだから…



==========



やがて、俺はとある病室へと案内された。

他の部屋よりも、明らかに掃き清められている。

そこに、ミズアはいた。


ライナが太陽とするなら、ミズアはさしずめ月である。


ーシルクのように透き通った白い髪。

ーサファイアのように青く輝く瞳。

ー14歳にしては成長が早く、思わず息を飲むほど美しい肢体。


だが、その表情に力はなく、滝のような汗を流しており、呼吸をするのがやっといった状況だ。


病床のミズア

https://imgur.com/a/WPB7vy3


「…」

やがて、ミズアは俺に気づいたようだった。

「あなたは…」

そこまで言いかけて、激しくせき込む。

「えーと…俺は、ドミーといいます」

できるだけ安心させようと、微笑みながら言った。

「今から、あなたを救う者の名前です」









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