第34話 【ドミー団】の行軍
ー4年前、【ランデルン渓谷】の領主ランデルン一族が一夜にして全滅、滅亡せり。
ー【スキル】には【近接系】、【遠距離系】、【支援系】、【憑依系】の4系統が存在する。基本的に、系統の違う【スキル】を使いこなすのは難しいが、1つだけ方法がある。
ーエルムス王は、800人の【遠距離系スキル】保持者を使いこなし、10,000人のオーク騎兵を破った。
ー国境線上で生息している巨大な【シオドアリ】は、体躯は巨大だがおとなしい。そのため、とある天敵が侵入してきても、対抗することは難しい。
「うーん…」
「何読んでるの?」
「いや、ラムス街の【メーティスの泉】で買った本なんだが…」
ダメだな、読みづらい。
俺はぱたりと本を閉じ、地面に寝転ぶ。
予想はしていたが、全身にプレートアーマーを着込むのは結構疲れる。
「本というよりかは、誰かが書いた報告書や記述の寄せ集めって感じだな…分かりづらい」
「ああ、粗悪品ねそれ。ちゃんと買う前に読まなかったでしょ」
木にもたれかけて休憩していたライナが、やれやれと首を振る。
「みんなが思っている以上に、本を編集するって大変な作業なのよ。大方、途中で面倒くさくなって投げ出しちゃったのね、その著者」
「なるほどなあ…レムーハ大陸のこと、総合的に学べる本があればいいのに」
「有言実行、ってやつね。【ドミー団】のドミー隊長」
「…俺は字が下手だからやめておこう」
「はいはい…」
ー冒険団の名前は、【ドミー団】にする!
ーいや…ちょっとダサすぎない?
出発前に発表した冒険団の名前はライナには不評だったらしく、そのせいか少しツンとしていた。
=========
「それにしても、まだ出発しないのか」
俺は、前方で同じく休息を取っている集団をちらりと見る。
国境の防衛施設、【ブルサの壁】に向かうギルド構成員だ。
俺とライナで構成される【ドミー団】をはじめ、複数の冒険団による連合軍となっている。
その中でも最大なのが、Bランククラスの冒険者のみ所属できる【アーテーの剣】だ。
総勢20名。
「もしかしたら、ドミーをどうにかする作戦でも立ててるかも…」
「なあに、このプレートアーマーと剣があれば大丈夫だ」
「【スキル】のないドミーじゃ結局は瞬殺よ。おとなしく私に守られることね」
ライナは立ち上がり、前方を見た。
「それにしても、もう少し近づいてもいいのに」
朝出発した時から、俺とライナは明らかに距離を置かれていた。
…物理的に。
どうやら、「ドミー団とは距離を置くように」と指示でも出ているらしい。
ーいよいよ、そういう段階に入ったか。
俺にとっては予想した展開ではある。
=========
「奇跡の腕を持つ男ドミー」という噂は、ラムス街の住人を利用して常にばらまいていた。
その噂につられてやってきた者も【絶頂】させていき、現時点での支配者数は2000人ほどである。
ムドーソ城内の住人は20000人のため、すでに10人に1人が支配下だ。
ドミーの腕に触れた人間の様子が明らかにおかしいのを見て、敵対者は「あまりあいつの腕に近づかない方がいい」と思うようになるが、それを狙っている。
ーあえて【ビクスキ】を積極的に使い、敵味方の識別を行おう。
【ブルサの壁】に出発する直前、俺は【おんぼろ亭】のベッドでライナに考えを語った。
露骨に近づこうとしなかったり、握手を避けるような奴は、敵対する派閥である。
彼らの背後関係を調べ、命令を出している存在がいたらそいつを【絶頂】させるのだ。
そうすれば、少ない労力で敵集団の無力化が可能である。
ーちょっと危うい橋だけど、国を乗っ取ろうっていうんだから、それぐらいの大胆さは必要ね。
ライナもそれに賛成してくれた。
実際、今日も連合軍が「私たちは敵だぞ」と言わんばかりに距離を取ってくれている。
できれば背後の大物をつきとめ、【絶頂】を目指そう。
=========
「ね、ねえ…」
「うん?」
このように野望に向け思考をめぐらせている俺だったが、顔を赤くしたライナに止められる。
「【ビクスキ】の効果、切れちゃったみたい…」
「お、おお…」
ー何があるか分からないんだから、私を積極的に【強化】してよね!
出発直前になんらかの示唆を受けたらしいライナは、俺に【絶頂】をねだる回数が増えている。
「じゃあ、そこの木立で…」
というわけで、【ブルサの壁】への行軍中でも、連合軍の目を盗んで積極的に乳繰り合っているわけだ。
レムーハ大陸では、このような人間を【変態】と呼ぶ。
=========
「じゃあ、【口づけ】から…」
「ああ…」
とりあえず、プレートアーマーの兜は外してある。
木の陰に隠れ、抱き合おうとする俺とライナだったがー、
「すいませーん、【ドミー団】の方いますかー?」
最悪のタイミングで、俺たちを探す人間の声が聞こえた。
どうやら、先ほど俺とライナが休憩していた場所にいるらしい。
「い、行くぞ」
木の陰から出ようとした俺だったがー、
「…待ってよ」
ライナに呼び止められる。
見ると、顔を赤くしながらも、こちらを強い目線で見つめている。
「分かった」
それがライナの意志ならば仕方ない。
ただ、手早く済ませよう。
=========
「ひっ!…嫌だ、そこは、くひひひひひ…」
狙ったのは、ライナの弱点である腋であった。
ここを抑えれば、たやすく【絶頂】する。
というわけでー、
「…どみーのいじわるう!こんなの我慢できない、うふふふふ…」
俺はライナの腋を一心不乱に舐めた。
最近会得した技だ。
「だめ、もう声がまん…うん!?」
口も優しく抑えて、俺たちを探している人間にばれないようにする。
そのまま少しライナはこらえていたがー、
「もうだめー」
一言言って、そのまま【絶頂】した。
=========
「…街道を陣取る【グリーンスライム】を掃除しろ、ね」
「ああ。ただ、かなりの巨大サイズらしい」
「ちょうどいいわね、いろんな意味で」
連合軍からの命令は、進軍をふさぐモンスターの退治であった。
どうやらCランク程度の攻撃は通用しないらしく、白羽の矢が立ったらしい。
力を試されている、と見ることもできそうだ。
「大きいわね…」
まだ少し顔が赤いライナだったが、敵を見て表情が真剣になる。
【グリーンスライム】。
落ち葉や土を食べて生息するおとなしい生物だが、まれに巨大となる個体も存在する。
やわらかい体は【近接系】スキルを通さないため、状況によっては厄介だ。
前方の個体は、街道の端から端までを巨体でふさぎ、うねうねと動いている。
だがー、
「良い的だな」
「ええ」
2人の見解は一致した。
ライナが【ルビーの杖】を構える。
杖の先に、【蒼炎】がほとばしった。
「あなたからもらった力、全力で使うわ!!!」
唇を真一文字に結びー、
「フレイム!!!」
絶大な威力を持つ蒼い炎を放った。
それは【グリーンスライム】に向けて殺到し、巨体に命中してみるみる炎上させていく。
「よし、その調子だ!」
俺は成功を確信する。
だがその時、【グリーンスライム】の巨体が分裂した。
まだ無傷だった部分が欠片となり、飛び跳ねながらこちらに近づいている。
その数、およそ数十個。
「まずい、逃げるぞ!」
俺はライナに促したがー、
「いえ、行けるわ!こんな時のために、ラムス街で新技を勉強してたの!」
自信満々の笑みを浮かべたライナが、新たな【スキル】を放つ。
「どこに逃げても無駄よ!【ファイヤ・バースト】!!!」
一見、【フレイム】と同じ蒼い炎だったが、今度は炎が細かく分割されている。
おそらく、分裂したスライムと同じ数を用意したのではないだろうか。
それらは寸分の狂いなく、スライムの欠片を炎で包む。
ピギャアアアアア!!!
スライムの悲鳴のように聞こえたのは、おそらく水分が蒸発する音だろう。
やがてなんの音もなくなり、【グリーンスライム】は消滅した。
「すごいな、いつ勉強したんだ?」
「【メーティスの泉】で買った魔導書に、【スキル】の威力や形態を調節する技法が記されていたのよ。【絶頂】状態じゃないとできないけど、結構がんばった方でしょ?」
得意げに胸を張るライナ。
間違いなく、ムドーソ王国随一の使い手にまで成長していた。
=========
「とりあえず、報告に戻るか」
「そうね!ヘカテーとエリアルのぎゃふんとしている顔も見たいし」
引き返そうとする俺とライナだったがー、
「ラ、ライナ先輩…?」
どこからか現れた謎の【女性】が、驚愕の表情でこちらを見ているのに気づいた。
「イラート…!?」
ライナも驚きの表情を見せる。
2人はしばらく見つめていたがー、
「うわあああああん!!!ライナ先輩が生きてたよおおおおお!!!」
イラートと名乗った【女性】が、ライナに突進してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます