第33話 【奸臣】ランケもざまぁしたい

「ランケさま、そろそろ城内に戻りませぬと」

「ああ…しかし、クラウディアはどうしたのだ。姿が見えぬようだが」


国境の哨戒に向けて去っていく隊列をにらみつけながら、家臣の一人に聞いてみる。


「実は、もう貴族はやめると申して、工房へ弟子入り志願したと…」

「狂人め…やはり、商人上がりは役に立たなかったか」


ードミーの居場所は突き止められませんでした。

ーですが、ドミーは素晴らしい人物です。


任務から帰った夜、あの小娘の説明は要領を得なかった。

失望してそのままにしておいたが、まさか逃げ出すとはな…



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今、3つの心配事がある。

1つ目は、他ならぬ【男性】ドミーだ。


ーそれでは、ギルドで功を立てれば、貴族として認められる場合もあるのですね?


国境哨戒の詳細を伝えるために開いた会議で、奴はそう大言壮語した。

確かに、それは慣習として存在している。

伝説的な功を挙げた冒険者が、爵位を受けた例はないわけではない。

だが、まだが吐く言葉ではないぞ…!


2つ目は、エルンシュタイン王のことだ。

密偵が失敗に終わったあと、刺客を放ってドミーを暗殺するつもりだったのだがー、


「ランケよ。余のあずかり知らぬところで変事を起こせば、いくら余でも許さぬ」

密偵のことを密かに知ったらしい王によって、釘を刺された。

権勢を維持するには、王の助力こそ必要だというのに…


3つ目はー、


「いやいや~~~あんなA級クラスの殺害なんて無理よ~~~」

「も、もう関係ない!知らねえよ!」


手駒にしようとした【アーテーの剣】のふがいなさだ。

いつもの威勢のよさはどこへ行ったのだ、ヘカテーとエリアルよ…


「あのライナという小娘は、ドミーの助けがなくては力を発揮できぬようじゃ、そこを狙え!」


剣で脅して出発させたが、どこまでできるものやら。


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ーどいつもこいつも頼りにならぬわ。


嘆息し、己の人生を振り返って憂鬱となった。


ー功績を挙げても、誰も褒めてくれぬ…



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この前逃げたクラウディアのような下級貴族出身の自分を助けたのは、発現した【スキル】だった。

記憶力が常人の10倍以上まで高まる、Aランク相当の【セシャト】である。


幼い頃からあらゆる書籍を1度読んだだけで記憶し、それを全て逆から読み上げることができた。

政務に関する試験は常に全貴族中1位で、国を背負う重臣になれると疑っていなかった。


だがー。


「ランケのやつ、たかが記憶力に優れてるだけで偉そうに」

「狭量な性格で、特に肉体労働に関してはお粗末なものよ」


次第に、陰口を叩かれるようになっていった。

陰口を上げた人間はこれまで見かけ次第潰していったが、減ることはない。


それでも、出世していった。



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「貴様の不愉快な面を見てると我慢ならぬわ!」

中でも、将軍のエンギという者は苛烈であった。

兵站の計画を遺漏なく実行したにもかかわらず、自分を嫌った。


幾度となく首に剣を突きつけられ、そのたびに自分は泣く。

10年以上行動を共にしたが、この図式は変わらなかった。



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そんなエンギも、7年前に起こった【馬車の乱】で軍部もろとも粛清されて、首だけとなった。


嬉しくて、笑みと涙が同時に出たことを覚えている。


ー愚か者め、もう一度悪さができるものならやってみよ!


首を踏みつけ、傍の剣を奪った。


軍が壊滅したため、新たに再編されたギルドと冒険者集団を指揮するという形式で、軍権も握る。


ーこれで、やっと自分がムドーソ王国の頂点として畏敬をうけるのだ!


そう思っていたがー、


「ランケのやつ、エンギの剣を奪うとは正気か…」

「柄にも似合わず、剣の訓練などもやっているそうだぞ」



自分に対する陰口は、一向に止まなかった。



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「ランケさま、いかがなされましたか?」

「…ああ、なんでもない。先に戻っておれ」

「はっ」


過去を振り返るのはやめよう。


あのドミーとかいう【男性】を除けば、さすがに群臣も自分を認めるだろう。

押しも押されぬ名臣として名を残すのは今だ。

問題は、誰にやらせるかだが…


「…おい、エンギよ」

エンギの刀、【七宝の剣】に手を添えた。


「たまには、地獄から戻ってきても良いのじゃぞ。このランケが、王にとりなして罪を許すよう取り計らっても良い…」


独り言は、誰に届くこともなく、ムドーソ城内の空気に溶け込んでいった。



========



レムーハ記 人物伝より抜粋


【奸臣】ランケは、ムドーソ王国で王の代理を務めた秘書官の7代目である。才あるも徳はなく、人格を好かれることは決してなかった。


それはランケにとって悩みの種だったが、それを払拭するために才をひけらかしたため、さらに避けられる結果を産んだという。


後世において評価は低いが、ランケをよく知る人物たちは、口を揃えてこういった。


ー救国の想いはあった…はず 。





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