第31話 ライナ、仇敵2人をざまあする
「久しぶり、ライナ」
「あたし、ライナちゃんが生きていたと聞いてうれしくてうれしくて~~~~~」
ラムズ街の中央に位置する酒場【ゴブリンの宴】。
ドミーが密偵、という名の服飾係を捕らえてから3日後、私はそこで会いたくもない仇敵に会うこととなった。
「へえ、ゴブリンを討伐できなければ死ね!と言われたのは、私の幻聴だったいうわけですか…」
「あ、あれは言葉のあや、だよお~~~ねえ?ヘカテー」
「そうそう。あまり真剣に受け取るな、ライナ」
かつて所属していたギルド、【ヘカテーの剣】を率いる最低の2人。
ぶすっとした表情を浮かべる【槍使い】のヘカテーと、さっきから媚びた声を出している【水魔導士】のエリアルである。
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「ふんふんふ~ん♪おっかいもの~おっかいもの~♪」
この最低の2人と遭遇してしまうという人生最悪最低のアクシデントに遭遇するまで、私はラムス街で買い物を楽しんでいた。
ドミーとは別行動を取っている。
アメリアさんとの筋トレ、ギルド本部での打ち合わせ、クラウディアさんに服を作ってもらうなど、色々用事があるらしい。
一人残された私は、そろそろギルドに所属しての戦闘も近いとあって、色々買い出しをすることにした。
まずは薬屋にいって【癒しの薬草】を買いあさり、道具屋【ミョルニル】で【縄抜けの鍵】を初めとする各種便利グッズを入手、本屋【メーティスの泉】ではとある手法を会得するための魔導書を手に入れた。
そしてー、
「ライナさん!どうだい、今日は面白いものが入ってるよ」
「…ふーん、確かに面白いわね」
色々な興味を惹いた【あるもの】を、土産物屋で入手した。
それで帰る予定だったのだがー、
「あ!いた!ライナ~~~~~探したよもう~~~~~!」
「ライナ、ちょっと、話しない?」
その途中で、史上最低最悪の2人と遭遇してしまったわけだ。
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「ねえライナ~~~~~私たちのギルドに戻ろうよ~~~~~」
「そうだぞ、ライナ。意地を張る必要はない」
よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
要するに、ギルド【ヘカテーの剣】に戻ってほしいというのだ。
大方、私が【青の防壁】を破ったと聞いたからだろう。
だがー、
「でも、私が【成長阻害の呪い】に掛かってた時、全然助けてくれなかったわよね?」
私は、あえて2人に自分の罪を確認させる。
この最低の2人は、私が一番苦しい時、何一つ手を差し伸べてくれなかった。
それどころかー、
ーなにこのやくたたず~~~~~早くやめてよね~~~~~いらない~~~~~
ーさっさと決断しろライナ。ゴブリンを一人で討伐して実力を示せないなら、もう用はない。
私を、間接的に死に追いやろうとした。
ドミーが助けてくれなかったら、私はゴブリンに殺されていた。
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ーそれでいて、役に立ちそうだったら出戻りを懇願ね…
私だけでなく、役立たずと判断した人間全員を迫害していたこのクズたちと長居する必要はない。
そう確信できた。
だから、さっさと済ませよう。
「…2つ条件があるわ」
「聞く聞く~~~~~」
「いいぞ、遠慮なく話してくれ」
「1つは…」
私は2人に条件を突きつけた。
「あなたたちが、これまで迫害していた【ヘカテーの剣】のメンバー全員に謝罪すること。もちろん土下座でね」
「…はあ~~~?」
「おい、今なんとー」
「あなたたちに迫害されて傷ついたり、辞めさせられたメンバーは数知れないわ…せめて、犯した罪の1万分の1でも良いから償ってちょうだい。私は、あんたたちの謝罪を受けるのも汚らわしいから受けないけどね」
「…」
「…」
「続けるわよ」
押し黙った2人に、2つ目の条件を突きつける。
「2つ目は、【男性】ドミーの傘下に入り、ひざまづいて永遠の忠誠を誓うこと。そしたら、私が雑用係としてこき使ってあげる」
もちろん、こんな奴らとドミーを会わせるつもりはない。
【男性】がこの世界で蔑まれていることを利用して、この2人に到底受け入れられない要求を突きつけたのだ。
「ねえええええ!ちょっと口が過ぎるんじゃない~~~~~」
先に怒り出したのは、エリアルだった。
「散々世話したのにな~~~結局あなたってCランクなんだから、本来Bランクしか入れない【ヘカテーの剣】に戻れるって栄誉なのにな~~~」
「…世話したとか恩着せがましい人間は、結局なにもしてないのよ」
「な、なんですって~~~!!!」
「お前、いい加減にしろよ」
ヘカテーも怒り出した、というより本性を表した。
「やってもない罪を被せるのはともかく、【男性】にひざまづけとは、いい気になったもんだなあ!?」
ヘカテーは、異常なほど怒りっぽい人間だ。
だから、普段は自分では意見を言わない。
エリアルに全部言わせて、自分は高みの見物を決める。
エリアルは場を仕切るのが大好きだから、よろこんで従う。
こいつらは、吐き気がするほど相性が良かった。
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ー私を怖がらせるつもりなのね…
なんとなく、2人の腹の内が読めた気がした。
【青の防壁】を破ったAランク級と噂される私を、力づくで抑えるのは難しい。
だが、あえて強気に出て、私に過去の恐怖を思い出させれば、いうことを聞かせられる。
ー昔なら、本当に従っていたかもね…
力がなく、一人ぼっちだった私なら。
ーでも、今は違う。
私には、ドミーが与えてくれた力と、想い出がある。
ーもう、こんなやつには負けない!
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私は、一芝居打つことにした。
「仕方ないわね、お相手しましょう」
両手から、蒼い炎を出す。
100年間破られなかった【青の防壁】を破った、【蒼炎】のような炎を。
「ひい!?」
「てめえ!正気か!?こんな街の真ん中で…」
ヘカテーの指摘は、まあ分からないでもない。
ここはラムス街の酒場、強力な魔法【スキル】を出せば、周囲に被害が及ぶ。
じゃあなぜそうするのか?までは考えが及んでいないようだが。
「へえ。私が、【蒼炎】を会得しておきながら、制御できないと思ったんだ…」
あえて不敵に微笑む。
「Aランククラスの炎魔導士なら、最小限の出力で、あなた2人だけを抹殺できて当然でしょ?」
「こ、こないでよお!やめてよおお!」
「考え直せ、今ならー」
「もう遅い!!!」
私は大声で叫んだ。
「多くの仲間を傷つけた罪を、その身で受けてもらうわ!」
そしてー、【スキル】名を口にしようとした。
「【フレ】ー」
「ひいいいいいいん!こわいわあああああ!」
「お、覚えてやがれ!」
ヘカテーとエリアルは、逃げ出していった。
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「…ふう」
2人が消えていくのを確認しながら、私は両腕から力を抜いた。
そして、掌を開く。
【青のキャンドル】。
さっき土産物屋で買った、蒼い炎を出す2つの宝石。
つまり、さっきまで私が放出していたのは、何の戦闘力もないただの明かりだった。
ばりん。
寿命が尽きたのか、キャンドルが砕け散る。
さすがメイド イン ラムス街。
「そもそも、私杖持ってないんだけどね」
すぐ帰る予定だったので、【スキル】を放出するために必要な杖を置いてきていた。
2人に冷静さがあれば気づけたフェイクであったが、所詮その程度の人物ということか。
「今度からは、外出前にも【絶頂】して【強化】を受けとかないと…」
それが、唯一の収穫だった。
今は【強化】を受けていないので、【蒼炎】なんて夢のまた夢のCランク魔導士に過ぎない。
反省が必要だろう。
「ライナさん。お会計」
「いくら?」
「36ゴールドです」
「まさか、さっきの2人の分も?」
「はい」
「…迷惑料も追加して50ゴールド出すわ」
「どうも」
こうして2人に勝利した私は、不愛想な店主に代金を払って店を出た。
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