第26話 俺とライナ、野望への一歩を歩みビク〇ビクンする

ー夕刻。

ギルドに登録するための細かい諸手続きを済ませ、俺とライナはギルド本部を出た。

「「…」」

2人でしばらく放心状態で歩き始めるもー、


「「…やったあああああ!!!」」

本部からかなり離れたところで、喜びを爆発させて抱き合った。

急だったためか、ライナの体がビクビクと震える。

「っ!済まない」

離れようとしたがー、

「いいの!」

ライナに制止された。


「今は、このままでいさせて…」

「…分かった」

俺とライナは、中産階級エリアのど真ん中で、そのまま数分抱き合った。

まわりの人間の視線なんて、目に入らなかった。



==========



「ライナ、お前はすごいよ」

ライナと抱き合っている俺の目からは、知らず知らずのうちに涙が出ていた。

「王に勝ったんだ、自分の力で!」

ライナの存在が頼もしく、愛おしく、誇らしくてたまらない。

もし出会っていなければ、俺はとっくに野垂れ死にしていただろう。

今まで出会ってきた【女性】の中で最高の人物、最高の魔法使いだ!


「私だけの力じゃないわ」

ライナはやんわりと否定しながらも、笑みを浮かべる。

「最後の一押しは、ドミーの暖かい手だった。触られた時ね、ドミーとのいろんな思い出が溢れてきたの!私とドミーで、王に勝ったんだよ!」

「俺、役に立ったかな…」

「もちろん!」


ダメだ、涙が止まらない。


ずっと、重荷を背負わせている罪悪感があった。

俺の個人的な野望に巻き込んでしまった。

ライナは、それをみんな受け入れるだけじゃなく、俺に力とチャンスを与えてくれたんだ。


「ありがとう…!!!」

「うん…」


ギルドに入る前とは、立場が逆になっていた。

俺が泣いていて、ライナに慰められている。

互いの感情を交換して、さらに分かり合えた気がした。



==========



「おほん、2人とも熱くなってるところ悪いんだけど…手持ちぶたさの10人に指令を与えてくれないかしら?」


感情的になりすぎていて、存在を忘れている人物たちがいた。

今日の成功に多大な貢献をした、アメリアを含む【ジャンニ】集団である。

アメリアは【ジャンニ】の服装が飛び散ったままだ。

なぜ着替えていないかは誰にもわからない。


「なんだかドキドキしない?」

「こんな感情初めて…」

「お二人さん、お幸せに〜!」

「ドミーさまとライナさんにお子さんが出来たら…はっ、なんて不敬なことを…」


アメリア以外の9人ももてはやす。

「…続きはまた後でね」

「あ、ああ」

ライナは渋々俺の下を離れる。


俺はアメリア以下10人に協力への感謝、報酬の約束(アメリアとの筋トレをどうするかが課題だ…)、今後の活躍への期待を延べて別れた。

今回の成功は、誰か1人のものではない。


参加した全員のものだ。



==========



ラムス街に戻った俺とライナは、とある場所に立ち寄った。

商人シネカの自宅である。


「…あの、ドミーさま。これは?」

「見ての通り、10000ゴールドだ」

「あらまあ!どこでこれを…」

「ゴブリン退治の報酬と、王からの個人的な報償金だそうだ。もっとも、ゴブリン退治の分はたったの100ゴールドだがね」


つまり、ほとんどがエルンシュタインの好意だった。

乗っ取りを目指す国の王から褒賞をもらう。

おかしなことではあるが、俺はエルンシュタインが嫌いではなかった。

【ビクスキ】があれば、害さなくても共存の道があるかもしれない。

俺が王となったあと、エルンシュタインに利子をつけて返せば良いのだ。


「というわけで、シネカさんへの借金を返済することにしたの。もちろん、約束通り10倍にしてね!」

ライナがえっへんと胸を張る。


「まさか、これほどとは…もしドミーさまに支配されていなくても、喜んで馳せ参じたでしょう」

シネカは心底嬉しそうだった。

「これからも、いろいろ入り用になる。頼りにしてるぞ」

「関係を格上げし、金銭が必要な場合いつでもお渡しできるようにいたします」

「そうだな、あまり持っていると盗まれやすいし」

「よろしくお願いします。そうそう、実はお二人が1000ゴールドを返済しにこられた時、お渡ししようと思っていた贈り物がございます。あとで手の者に部屋へ持ってこさせましょう」

「?なにかあるのか?」

「最近貴族の間で流行っている、舶来品でございます」



==========



「すごーい、こんなのが流行ってるの!?」

周辺で食事を済ませて戻った俺とライナが見たのは、縦長で箱状の物体だった。

扉がついており、人一人が入れるようになっている。


「水と炎の【スキル】を発生させる鉱石を組み合わせ、温水を楽しめる道具ねえ…」

「【シャワー】っていうんだって。私から先に入るからね!」

「そうだな、今日は色々な意味で汗をかいたし」 

「…なんか【変態】っぽい言い方」

「嘘は言ってないぞ、まあとにかく使ってみてくれ」

「うん!」



==========


 

「ふふふーん、気持ちよかった〜、ドミーも入りなよ!」

「ああ、って服をしっかり着ないと風邪引くぞ」

「今着るもーん♪」


下着姿のライナからは、これまでとは違う芳香を感じる。どうやら、【石鹸】と呼ばれる体を綺麗にする道具が備え付けられているらしい。しなやかだが、【女性】らしい丸みを帯びたライナの肢体。


-やっちゃえ。


【ビクスキ】の誘惑。

頭を振り、俺も【シャワー】に入った。



==========



いいな、これ。

結論から言うと、【シャワー】の感覚は極上だった。

貴族どもはこんな贅沢品を毎日楽しんでいるとはな。


中で体を洗っていると、色々なことを思い出す。


生きてきた中で、これほど多くの体験をしたのは初めてだった。


ーロザリーから【アレスの導き】を追放され

ー【ビクスキ】を授けられ

ーライナと出会い

ー野望を芽生えさせ

ーラムス街を制し

ーそして今日、王から与えられた試練を乗り越えた


困難を経験しながらも、ライナと乗り越えてきた。

楽しかった。


ロザリーは何をしているんだろうか…

苦々しい記憶と共に、ほんの数週間前まで行動を共にした【女性】も思い出す。

恨みがないわけではないが、1度ぐらい会っても良いかもしれない。


「グズグズしていないで早くしなさい、ドミー!」


なんだかんだ、自分を名前で呼んでくれた初めての【女性】なのだから…



==========



「ねえ、天気もいいし星でもみない?」

「悪くない」


【シャワー】を終え、俺とライナは窓の木戸を開けた。

空には、満点の星が輝いている。

ラムス街でもっとも美しい場所だろう。

しばらく、2人は無言で星を眺める。


「なあ、ライナ」

「うん?」

「俺は、このまま進んでもいいか?」


曖昧になってしまったが、おそらくライナには伝わっただろう。

ムドーソ王国の乗っ取りを継続するかどうかだ。

もしかしたら、今からライナと逃げる道もあるのかもしれない。

穏やかな僻地に居を構えてー、


「ダメよ!もっとしっかりしなきゃ」

だが、ライナはそんな幻想を打ち砕いた。

俺のために。


「…もう私だけじゃない。いろいろな人をあなた動かしている。アメリアさん、シネカさん、ラムス街の人たちだってね」

「…」

「みんな、あなたに期待して、あなたのために喜んで協力したわ。たとえ【スキル】の影響下であってもそれは変わらない」

「そうだな、すまない…」

「でも大丈夫」

ライナはにっこりと笑った。

「たとえ計画が失敗に終わっても、私はあなたの味方よ。たとえ死んでもあなたをー、」

「そんなことはさせない!」

「ひゃうううううん!」

思わず手を強く握ってしまった。

ビク◯ビクンと震えてしまっている。


「す、すまない」

「もう、せっかく人が良いこと言おうとしたのに…」

-ドミーさま、ただ今【ビクスキ】がレベルアップしました。レベル3です。

ナビが急に思考に割り込む。

「今のでか?」

「どうしたの?」

「いや、たった今レベルが上がったらしい」

「あはは…」


-特典として、【口合わせ】が可能となりました。コンチさまからのプレゼントです。強化された能力については、後日お話しします。


「で、何ができるようになったの?」

「そ、それが…」

「?」

「く、【口合わせ】だと…」

「…」


不意に、唇に柔らかい感触を感じた。

ライナが、俺に軽く唇を合わせたのだ。

驚いてしまい、動きが止まる。

何秒か合わせたあと、ライナは唇を離す。


「えへへ、私の方から行くのは初めてだよね…」


笑顔を浮かべるライナ。

ギルド本部に行く時の曇った表情は、もう伺えない。

俺は、悩みや苦しみから解き放たれた、ライナの真の姿を見ていた。 


「部屋に戻ろうか…」

「うん…」


もう、俺はライナを支配していない。

ライナと、共存していた。





-コンチさま向け定期報告(0~6時)


ドミーさま及び冒険者ライナの間で、非常に活発な【ビクスキ】が行われました。

計測に時間が掛かっております。

しばらくお待ち下さい。










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