第25話 ライナのファインプレーと王の品評

「1000人の配下とはこれはこれは…」

「本当かのう…」

「とりあえず、衣装がはじけ飛んだ【女性】に誰か服でも着せてやれ」


俺の邪道を聞いた参加者の反応は半信半疑といったところだ。

仕方ない。

【青の防壁】を破るという偉業を成し遂げたライナと比べると、さすがにインパクトに欠ける。

巨匠が書いた名作絵画の後に、3流画家による贋作がんさくを見せられるようなものだ。


まあ、やるだけはやったさ…

俺は自分の邪道を示し終えた。

後は、エルンシュタインの判断を待つだけー、



「私抜きで話を進めるなんてひどいわね、ドミー?」


だが、天は俺を見捨てなかった。

このタイミングで、邪道を昇華させるピースを揃えさせてくれたのだ。



==========



それは、ほかならぬライナだった。

目を覚まし、こちらを柔和な表情で見つめている。


「言ったでしょ、私にも手伝わせなさいって」


そしてライナはー、


「実は私も、【男性】ドミーの忠実な部下でございます!序列第1位、【蒼炎のライナ】です」

【ジャニン】集団と同じく、俺にひざまずいた。



==========



ライナが俺に忠誠を見せたことは、会議室にいた全員を戦慄させた。


何故かって?

俺は【守護の部屋】を破る実力を従える人物、と誤認されたからだ。

もはや【ランク】や【スキル】どうこうではない。

俺のはったりで示した力は、もはや疑いようがなくなったのだ。


「あのライナとかいう強者以外にも配下が1000人だと…?」

「これはもはや、宣戦布告ではないのか!」

「王よ、我は避難いたしまする!どうぞ御身を大切になさいませ!」

「ドミーとやら、我と王を打倒する気はないか!!!ムドーソの半分をやるぞ!」


ラムス街の狂乱にはほど遠いが、会議室はパニックに陥る。

参加者の3分の1は部屋から逃げようとし、3分の1は罵声を浴びせ(手を出す勇気はない)、3分の1はどうしていいかわからず立ち尽くした。

緩み切ったムドーソ王国の貴族やギルド関係者は、醜態をさらしたのだ。



「王よ!もはや一刻の猶予もなりませぬ!このランケに兵を与え、討伐の命を下され!!!ええい、誰かおらぬのか。おらぬなら仕方あるまい!!!覚悟しろ!!!」


もはや半狂乱になったランケが、腰の剣を抜く。


俺とライナは身構えるもー、




「この大バカ者どもが!!!!!!」

エルンシュタインがこの日一番の大声で叫ぶ。

同時に【守護の部屋】が赤く染まった。


「これ以上騒ぎ立てるものは、我自らが【赤の裁き】で処断すると心得よ!!!」

騒乱を一瞬で鎮める、エルンシュタインの大喝であった。

これでライナとほぼ同じ年齢なのだから、さすがムドーソ王国の国王といったところである。



==========



「王よ、醜態を招き、申し訳ありません」


少し後ー。

ようやく落ち着きを取り戻した会議室内で、俺はふたたびエルンシュタインにひざまづいた。


「こちらも、先ほどの非礼を詫びよう。ところで先ほどの余興だがー」

この流れならいけるか?

少し期待したがー、


「ライナよりは小ぶりじゃのう」

王の評価はいまいちだった。

がっくし。



==========



「だが、及第点ではある。これぞまさに【スゴディオルの縄】であろう?」

「さすがは王。わたくしの余興を見抜いていたとは…」

すごでぃ…なんだって?

もちろん、知らない。

【男性】はろくな教育を受けられないのだ。


「昔、開祖エルムスは神殿スゴディオルに立ち寄った。そこには女神像があったが、幾重にも重なる縄で覆われており、誰も像の顔を見たことが無かった」

俺の本心を見抜かれたのか、エルンシュタインは解説を始める。


「神官はこう言った。この結び目をほどき、女神の顔を見た【女性】はアンカラ地方の王になれるとな。それを聞いたエルムスは剣を抜き、縄を全て薙ぎ払った。そして叫んだのじゃ、我結び目をほどいたり!とな」


解説を終えると、すっかり意気消沈したランケに向き直る。


「つまり言葉の解釈はいかようにでもなるという意味じゃが…ランケ、お主が冷静であれば、こう言えたかもしれぬ。ドミーよ、スキルを示せ!と。自信満々な様子を見するに、策があるのは明白なのだから。そうすれば、たやすくやり込められたであろう」

「はっ…」


「だが、お主は言えなかった。何故だか分かるか?」

「いえ…」

「あえて言うが、お前はライナに恥をかかされたからじゃ。力を示せるはずがないと思った少女が【青の防壁】を破ってしまい、自らは王にお叱りを受けた。せめてドミーだけでもやりこめたかった、違うか?」

「仰る通りです…」

「【真実の口】の結果を聞いて、ドミーに力を示せるはずがないと踏んだのも不幸であったのう。まあ、歴史上あれは嘘をついたことがない故、しかたがないのかもしれぬな」

「…自らの不明を恥じるばかりです」


ランケがもはや泣き出してしまうのでは心配になるほど、エルンシュタインは辛辣だった。



==========



「ドミー、何はともあれ【試しの儀式】は合格じゃ。お主もギルドに登録し、冒険者になることを認めよう」

「あ、ありがとうございます」


何はともあれ、俺はエルンシュタインに認められたようだ。

素直に、嬉しい。

でも、半分はライナのおかげだ。

ライナの方を見ると、くすりとほほ笑んでいる。

俺もほほ笑んだ。


「邪道を示してしまい、申し訳ありません。今後は正当な手段でー」

「いや、邪道ではないな…」


エルンシュタインはほほ笑んだ。

俺とライナとは違う、寂しそうな笑顔。


「ライナを正道とするなら、貴様はさしずめー」




「覇道というべきだろう」


こうして、波乱のギルド本部会議は終わった。















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