第24話 俺、王に邪道を示す

ーよくやった、ライナ…。


腕の中で眠る少女を見て、俺は感動していた。

ライナは、自分の失敗や苦しみと向き合い、その上でエルンシュタインと立ち向かい勝利した。

誰にでもできる事ではない。

参加者がいなければ、ここで号泣していただろう。


ー帰ったら好きなことなんでもやらせてあげるから、少しだけ我慢してくれ。


会議室の固い床に、ライナをそっと降ろす。


「さて、面白い余興も見れたし、帰るかのお」

「王よ、お待ちを」

「…?おお、そなたが【男性】ドミーだったか。確かに、我らとは面構えが違う。

まさに珍獣じゃのう」

「はい。僭越せんえつながら、わたくしの【試しの儀式】がまだでございます」


さて、次は俺の番だ。

恐らく、今のエルンシュタインなら、少し頼めば俺もギルドに登録され、冒険者となれるだろう。

しかし、それはライナが自ら勝ち取った功績を横取りする行為だ。

ライナが力を示したあとは、俺が力を示さないといけない。






思いっきり邪道だけどな!



==========



「バカなこと言うな!女の方はともかく、貴様に力を示せるわけなどない!現に【真実の口】は貴様を…」

「【真実の口】など何の役に立ちましょうやランケさま!ライナの真の実力も把握できなかった過去の遺物ですぞ!」

「ぐぬぬぬぬぬ…」


ランケの怒りは相当なものだ。

無理もない、多くの群臣の前で恥をかかされたのだ。

その分、操りやすい。


「王よ!確認しますが、【。そうですな?」

「さよう。その口ぶりでは、いささか自信があるようだな」

「もちろんでございます!ランケさま、それでよろしいですな?」


「…そこまで言うなら反対はせぬ。1000年に一度生まれる忌み子よ、王の前で力を示せ。だが!!!」


ランケは俺を指さした。


「もしつまらぬものを見せたら、王が許してもこのランケは許さぬ!!!切って捨ててやるゆえ覚悟しろ!!!」

さすがにムドーソ王国の重臣だけあって、怒りの表情に宿る威厳は相当なものである。


「分かりました!お見せしましょう!」


さあ、いっちょやるか!!!


「出てこい、俺の配下たちよ!!!」



==========



「行くわよ、あんた達!」

「はあっ!」

「こうなりゃやけだ!」

「ちょっと楽しい!」

「あ、すいませんちょっとどいてください…」


突如会場に響き渡る声。

会議室のいたる所に待機していた【女性】たちが飛び出し、俺の前に現れた。

レムーハの常識では奇異と思われる、全身黒ずくめの服装。


1人の肉体は突出して鍛え上げられており、今にも破けてしまいそうだ。

もちろん、誰であるか言うまでもない。


「「「「「ドミーさまに忠誠を誓いし十人衆、命令によって参上しました!!!」」」」」

「よし。では、俺に忠誠の証を示せ!」

「「「「「はっ!!!!!」


十人が一斉に俺にひざまづく。

この会議室にいる全員に見せつけるように。


ビリビリビリビリ!!!

また気合いでも入れたのか、アメリアの【ジャンニ】装束はははじけ飛んだ。

次何か頼むときは、サイズ感のずれを調整しなければな…



==========



「い、一体何の真似だ…?」

ランケは、今起きている事態を理解できていないようだった。

無理もない。

はっきり言って、異様な光景である。


「お分かりになりませぬか」

俺は、にやりと笑う。



「これが、わたくしの力でございます!」



==========



「な、なにを言うか!これは【スキル】ではなく【ランク】と何の関係もない!認められるものか!」

「おやおや、ランケさま。わたくしは、とは聞いておりませぬぞ!ただ力を示せと言われたのみです!」

「ぐぅ…」


俺は、エルンシュタインの方を向き直った。

少し愉快そうな表情を浮かべている。


「王よ!あなたは余興がお好きと聞きましたので、ささやかながら演出させていてだきました。しかし、演出は演出。わたくしの本当の力は…」


俺は両手を広げる。

これも儀礼的にはしてはいけないことだが、もはやそれを指摘できるものはいなかった。




「1000人の【女性】を、我が配下にしていることです!!!」



==========



要するに、これはちょっとした言葉遊びだった。

レムーハでは、このような言葉遊びを【チント】と呼ぶ。

長年の慣習によって、【試しの儀式】で示す力とは【スキル】であるという常識が生まれていた。

しかし、だからこそとあえて定義する者はいない。

ならば、俺自身が解釈する自分の力を示そうじゃないか。

それが、俺の考えた邪道である。


だから、ランケが【真実の口】云々を口にしようとしたときは、あえて挑発して気をそらせたのだ。


==========



「こ、このような戯言が認められるわけがない!誰か、このたわけを摘まみだしてー」

「1000人の【女性】たちは、わたくしが命令をすればどんな命令にでも従います!!!」


ランケの言葉を遮って、俺は再び話し始める。

まあ、命令するには【前提】を満たさなければならないがね。


「今回はあえて選りすぐりの10人をお呼びしましたが、もしお望みとあれば1000人全員を参集させましょう!」


この際だから、言っておきたいことも言っておくこととする。


「わたくしは、確認できる【ランク】や【スキル】のみで能力が決まるこの世界の仕組みに、疑問を持っておりました!王もそう思いませぬか?」

「…」

エルンシュタインは少し表情を変えるが、返答はしない。

「確かに、わたくしは卑しい【男性】の身です。ですが、だからこそ違った視野や考えを持ち、ムドーソ領内の住民を守れると確信しております!」


そしてー、


「1000人の【女性】を動員すれば、【アーテーのつるぎ】にも負けない活躍もできましょう!ですから王よ!わたくしもギルドに登録し、冒険者となる権利を与えたまえ!!!」


俺は、はったりに次ぐはったりから成る自分の邪道を貫き通した。







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