第18話 ざまぁした門番とジョギングしながらビク〇ビクン


「うん…」

空がわずかに明るく気配を感じ、俺は目が覚めた。

全裸である。

隣を見ると、ライナも全裸で寝ていた。

「ちょっと…舐めるのは反則だってば…うひひ」

幸せそうな表情を浮かべている。


「まずい、やりすぎたな…」

部屋中に散らばった服、乱れたベッド、開けっ放しの窓。

いくら【おんぼろ亭】と名がつく宿でも、さすがに怒られるかもしれない。

荷物の中から【復元の香炉】を取り出し、蓋を開けてみた。

一瞬で、【ビクスキ】を行う前の状態に戻り、俺もライナもいつの間にか服を着ている。

コンチさん、ありがとう…


「さて、今日はどう行動するか…」

恥ずかしい限りだが、昨日はラムス街の支配を広げることに夢中で、次の手をまったく考えてなかった。

俺たちは常に先手先手を打たなければ生き残れない、反省しなくては…


その時、俺は1人の人物が頭に浮かんだ。

今後に繋がる情報に詳しく、場合によっては数人の人手を動員できる人物。

…少し気は進まないが、声をかけてみるか。


俺はライナに「少ししたら戻る」とメモを残して、寝室を出た。



==========



「昨日はごめんなさい、ドミーさまあああああん!!!」

「もう気にしてないさ。顔を上げてくれ。というか、縛られたんじゃなかったのか?」

「そんなもの、愛の力ですぐ解いたわ❤️」

「そ、そうか…」


朝っぱらから俺にハイテンションかつ土下座で謝罪してくる【女性】。

ムドーソ城内に入る際支配下に置いた筋骨隆々の門番、アメリアである。

すでに制圧した兵士詰所の番兵に聞いて、寝室へと案内してもらった。

だが…


「どうしたんだその恰好は」

「昨日、あんたに触られて、新たな道に目覚めちまってね…」


【男性】に引けを取らないアメリアの肉体を包んでいるのは、なんと紫色のドレスであった。

ムキムキの筋肉によってぱつんぱつんになっており、破裂するのも時間の問題だろう。

そういえば、口調もより【女性】っぽくなっている。


「簡単に表現できないんだけど、あんたに今まで感じなかった昂りを感じるのよね…もう、命を捨ててもいいぐらい!」

「…俺と筋トレをしたらだろ?」

「そうそれ!!!あたしとあんた、ムドーソ城郊外の山を走り、川を泳ぎ、汗を流しまくるのよ!一緒に【シックスパックス】を鍛える光景を考えたら、もう…!ぐふふふふふ」


アメリアは恍惚とした表情を浮かべる。

アメリアの願望を叶えてやれば完全に【ビクスキ】の支配下に置けるが、さすがに今それをやる時間はない。

 

「…とりあえず、ステータスを確認したいから触るぞ」

「バッチコーイ!…あひゅうううううん!!!」

背中を触ると、一瞬でビク◯ビクンした。


2.兵士アメリア(【ビクスキ】後)


種族:女性


装備:【愛のドレス】【特注品の槍】


クラス:戦士


ランク:C+


スキル:【ランス・チャージ】


体力:123→237


防御:78→365


魔力:最大0(ビクスキ後も変化なし)


ビクビク回数:1回


ビクビクポイント:背中


傾向:ドミーさまとムドーソ王国縦断マラソンがしたい❤️


よく見ると防御力が異様に高く、近接戦闘では頼りになるが、今回頼みたいことには必要ない要素である。


妥協案で我慢してもらうしかないか。

【傾向】はある程度叶えてやれば、その分だけ命令を下せる。

【半支配】と言ったところか。


「1時間だけ付き合ってやる。だから、今日は1時間だけ俺の命令を聞いてくれ」

「ガッテン承知!ふうん!!!」


アメリが気合を入れると、耐えきれなくなったドレスが破裂した。


ビリビリビリビリビリィ!

 

「ちょっと着替えてくるわ!」

そして、足早と部屋を去っていった。


ドレスよ、今度はもっとまともな持ち主の所に生まれるんだぞ…



==========



「なるほど、ギルド本部に行きたいってわけ」

「そうだな、ライナと俺がゴブリンを討伐した時の報酬をまだもらってないし。ついでに、俺もギルドに冒険者として登録したいと思ってる」

「なるほどねえ…」


早朝のムドーソ城内。


ジョギングスタイルに着替えたアメリアと並走しながら、俺は質問に答える。

最初はアメリア特製ブートキャンプを提案されたが、体力を無駄に消耗するわけにはいかないので、ジョギングとなった。


「でも、今日はやめたほうがいいかもねぇ。ムドーソ王が直々にギルドまで視察に来る日だから」

「王が?!」

「そう、ギルドは一応この国の軍事力の1つだから、月に1度はギルド会議を視察しにくるの」


面白い、もしかすると、一瞬でケリがつきそうだ。


「なあ、これは仮定の話なんだが、俺はその王に触れると思うか?」

「それは、いくらなんでも無理よねえ」

「何故だ?」

「それはね…」



==========



「なるほど、いきなり触るのは無理そうだな」

「でしょお?あたし、あんたには死んで欲しくないからね。一緒に城門警備、しよ?」

「それは、考えておこう…で、王が出席するギルド会議はどういう内容なんだ?」

「まず伝統的な儀礼として、王の前で冒険者としての力を示す【試しの儀式】が行われるわ」

「どんな儀式だ?」

「王の力を示せ!という命令に沿って力を示す。古典的な儀式だからそれだけよ。それにパスした者が晴れて冒険者ってわけ」

「古典、か…」

「最近は、面倒だからそれ抜きで入っちゃう人も多いけどね。その後は、その時の議題に沿って流れで行われるわ」

「…王は、どんな人物だ?」

「余興が好きな遊び人よ。政治の実権はほとんど重臣に任せてるわ。言っちゃ悪いけど、あんたも珍獣みたいな感じで興味を持ちそう」


なんとなく、やるべきことが見えてきた気がする。

出会いこそ最悪だったが、真っ先にアメリアを配下にできてよかった。


「アメリア、今日お前に頼みたいのは…」



==========



「分かったわ、任せて頂戴」

「ありがとう」

「…もし追い詰められたら、その時は頼って頂戴ね。あのライナとかいう娘もよ」

「そんな時は来ないさ。だが、万が一の時、ライナだけは助けてくれ」

「もちろん!たまには、筋トレに付き合ってよね…」



その後少しして、俺とアメリアは別れた。

ラムス街の住民を支配して気づいたが、俺と【ビクスキ】した【女性】はある程度情報を共有しているらしい。アメリアがライナの名前を知っていたのもそのためだ。


いずれにせよ、基本方針は決まった。

俺は、【おんぼろ亭】に戻った。


ライナはまだ寝ていた。

久々に、【ビクスキ】の誘惑を受ける。


-少しぐらい良いじゃん

-朝から頑張ってるし


俺は首を振った。

もう、そういうのはやめにしよう。



==========



「もう、心配したじゃない」


起きると、ライナは少しむくれていた。

「すまない、少し今日やるべきことを計画していた」

「今日は、ギルドに行くんだったわよね…」

「ああ、ゴブリン退治の報酬を受け取る、俺とライナでギルドを結成する。一応確認するが、元のギルドには戻らないんだな?」

「当然でしょ!ドミーがいてこその私なんだから」


そうだ、もう1つ重要なことがある。

ライナをどうするかだ。

実は、迷っていることがある。


「ライナ…」

「ん?」

「辛いかもしれないが、ギルドで何があったか具体的に教えてくれ」

  


==========



「話は以上!ラム!レズン!ロザリア!今日は付き合ってもらうわよ。ドミーさまの愛のために!他の人間にも声をかけるわよ!」

「はいはい。アメリア隊長、もうこのキャラで行っちゃうんだな…」

「まあ、自分らも今や【ビクスキ】の支配下だし」

「アメリア隊長しか【傾向】は満たしてないけど、隊長さえ抑えておけばあたいらも逆らえない、か…ドミーさんって頭いいよね」


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