【挿絵付き】第17話 支配した地区を堪能しつつビクン〇クン(後編)

「さあ、食って食って食いまくるぞ!」


少し後。

ラムス街で一番の食事を提供すると評判の【エルムス王の隠れ家】で、俺とライナは食事を取ることにした。

エルムス王というのはムドーソ王国の初代国王で、この料亭へこっそり通ったという伝説があるらしい。

150ゴールド払えば貸し切りということなので、早速貸し切りにしてもらっている。


ビーフコンソメのスープであるクラーレ・リントズッペ。

牛肉・野菜・香辛料をブイヨンで長時間煮込んだターフェルシュピッツ。

鶏肉をフライにしたバックヘンデル。

キャベツを発酵させたザウアークラフト、豆、ジャガイモ、アスパラガスといった野菜類。

ジャムをクレープ生地で包んだシンプルなお菓子パラチンタ。


「こんな食事食べるのいつぶりかしら…!」

ライナが興奮するのも無理はないほどの量を用意した。


「さっそく一口…う〜〜〜〜〜ん、おいしい!!!」

「お、俺も…ターフェルシュピッツって、こんな味だったのか…!!!」


そこからは先は、まさに戦場である。


ここ数日、まともな食事と呼べるのは小麦粉を水で溶かしたスープぐらいなものだ。

残りは野草、川魚、きのこなど、その辺に落ちていたものを食べてようやく生き残っている。


「こうなりゃ早食い競争よ!」

「臨むところだ!」


手当たり次第に詰め込んで、食べまくる。


「ライナ、ほっぺにソースがついてるぞ」

「ドミーもね!」


一かけらも残さず、全部食べる。


「お若いねえ、2人とも」


店のシェフである60代の老婆が感嘆の声を上げたが、当然ながら耳には入らなかった。



==========



「うっぷ…流石に食べ過ぎたわね」

「おい、吐くなよ」

「だ、大丈夫…」


若気の至りの報いを受けた俺たちは、店を出て夜風に当たることにした。

ラムス街はすっかり夜になっており、本来なら危険な時間だがー、


「ドミーさま、おやすみなさい!」

「ドミーさん、また【腕戦争】やりましょう!」

「どみー、またねー!」


通りがかる住人はみな、俺に声をかけてニコニコしている。

まあ、このぐらいならよいだろう。


「あれ?ここは宿の方向じゃないわよ?」

ライナが疑問の声を上げる。

「ああ、最後に一仕事残ってる」

「仕事…?」


「装備品を整えよう」



=========



「ありがとうねえ、ドミーさん!大したものはないんだけど、もし良ければ買っておくれよ」

「いや、助かるよ。ルート」


最後に訪れたのは、ラムス街の道具屋【ミョルニル】だった。

元気の良い【女性】はルートといい、武器を買いに来る荒くれ【女性】もお手のものな肝っ玉店主である。

本当は薬屋にも寄りたかったのだが、夕方には閉店すると聞いていたので延期とした。


「ライナ、ここで武器や防具を買ってステータスを強化しよう。明日からは、本格的な戦いになるからな」

「い、いいの?私なんかに…」

「何を言ってるんだ、【断金の交わり】を交わした仲だろ?」

「うん…」

「じゃあルートさん、まずこの娘用の杖やローブを見繕ってくれ。金は十分ある」

「分かりました!それじゃあライナさん。こちらへ」

「あ、はい…」


ルートに手を引かれ、ライナは戸惑いながら店の奥へ消えていった。



=========



「ど、どうかな…?」

しばらく経って姿を表したライナは、見違えるほど奇麗…、いや、強化されていた。


強化されたライナの姿

https://imgur.com/a/nKWR7MQ


単なるこん棒のようだった【木の杖】は、先端に赤い宝玉を詰め込んだ【ルビーの杖】に。

ほとんど防御力のなかった【魔法士のドレス】は、黒と赤を基調とした【炎魔導士のドレス】に。

ついでに、ルートの趣味ということで、金色の髪をツインテールにしてもらった。


「素敵だ…ごめん、こんな言葉しかいえなくて」

「い、いいのよ…これで、炎魔法も強化されるかな」


実は、今回調達した装備品は全て炎魔法を強化する作用を持っている。

【成長阻害の呪い】をかけられたライナを少しでも強化するための策だ。


1.魔法士ライナ(【ビクスキ】前)


種族:女性

装備:【炎魔導士のドレス】【ルビーの杖】【ルビーの腕輪】

クラス:魔法士

ランク:C+

スキル:【ファイヤ・ダブル】

体力:5

防御:0→12

魔力:17→35


【ビクスキ】を行使する前から、ある程度の防御と魔法力を備え、ランクがC+となった。

炎魔法が強化されたため、威力は落ちるが【ファイヤ・ダブル】も唱えられる。

明日から始まる戦いで生き延びられる確率は上がったはずだ。

もちろん、ライナを怪我させるようなことは絶対にさせないが。


「ごめんなさないね、【男性】用の装備はなくて」

「いいんですよ、慣れたことです」


不思議なことではあるが、この世界の【女性】用装備は【男性】に一切の能力を与えない。

俺がライナの【木の杖】を装備しても、ただの棍棒にしかならないのだ。

【男性】用の装備、この世界のどこかにあればよいのだが…


「また新商品が入荷したら連絡しますね〜!!!」

代金220ゴールドを支払い、俺たちは店を出た。



=========



「ふんふんふん~♪」

【おんぼろ亭】の1室に帰還してからも、ライナのご機嫌は続いている。

鏡の前で【炎魔導士のドレス】や【ルビーの杖】の状態を確認し、子供のようにはしゃいでいた。


「今日は楽しかったな~♪」

「ああ、俺も楽しかった」

「でしょ!群衆の前での大立ち回り、あれはきっと歴史に残るわね」

「魔導士ライナ、群衆を虜にし支配する!って感じだったな」

「支配しているのはあなただけどね…」


俺はベッドに横たわり、はしゃぐライナをしばらく観察していたが、眠気に襲われてきた。

さすがに、きついな。


「ねえ…しよっか」

だが、先ほどとは様子の違うライナの声が、俺の意識を覚醒させる。

赤子が母親を呼ぶような切実な声だ。


「ライナ…」

「最近ね、【ビクスキ】の感じ方が変わってきているの」


こちらを振り向いた。

涙をうるませて、顔が真っ赤になっている。


「この世界の【女性】はさ、たとえ恋人同士でも、こんな感覚を感じることはないはずなの」

「だから、このもどかしくて、切ない感覚は、きっと私だけのものなんだよね…」


-【ビクスキ】を連続行使した【女性】の感覚は、徐々に変容していきます。


ナビの解説に対し、どう変容するのか、とは聞かなかった。

聞かなくても、そんなことは自分がよくわかっている。


「あなたにしかできないこと、私にしてよ」



=========



何かが足りない気がする。

ライナと抱き合いながらも、俺はそんなことをぼんやり考えていた。

コンチの【異世界記憶】で見せられた映像が何なのか、まだいまいちよく分かっていない。


だが、今は気にしなくていいのだ。

ライナが喜んでくれたら、それでいい。



=========



-コンチさま向け定期報告(0~6時)


・ドミーさま、休憩を挟みながら、4時間【ビクスキ】を連続利用

・女冒険者ライナ、4時間の間に8度ビクン〇クン

・疲労蓄積により、4時間後抱き合って就寝



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