第14話 まず貧困地域の住人約1000人をビクンビ〇ンさせる(中編)

「面白いじゃねえかあああああ!」


口火を切ったのは、最前列でライナの演説を聞いていた30代ぐらいの【女性】だった。

腕が大木のようにパンパンである。

明らかに力自慢だ。


「【酒樽運びのナターシャ】とは私の事よお!毎日毎日酒樽担いで20年、チビのゴブリンを殴り倒して酒のつまみにしたこともある!【男性】なんて一ひねりだ!」

「本当だな?俺は門にいたアメリアという力自慢を一撃で倒したぞ!」

「へっ、あいつはガキの頃さんざん泣かしてやったわ!ただの雑魚よ!」

「よし、ならば来い!」


その辺にあった木のテーブルと椅子1対で作った【腕決闘】用のスペースに、俺とナターシャは座る。

【腕決闘】とは、相手の片腕を握って組み、相手の手の甲を地面に押し付けた方が勝つシンプルな競技である。

コンチの見せた【異世界映像】では、確か腕相撲とか言っていた。


「もし勝ったら、本当に500ゴールドくれるんでしょうねえ…うふふ」

ナターシャは念入りに確認する。

勝つ気満々のようだ。

「当然だ」

嘘である。

俺とライナ2人合わせて、全財産36ゴールドだ。


「じゃあ、最初から本気出していくわよ!【ヴァイス】!」

手を組みあう直前、ナターシャは万力を意味する【スキル】名を唱え、自らを強化した。

ただでさえ太い腕が、さらに太くなる。


まあ、予想の範囲内だ。

【スキル】無しならなんとか勝てそうだが、【スキル】を利用されれば必ず負ける。

それが、俺が今まで虐げられてきた理由だった。

だが、今は違う。


「さあ、来いやああああああああ!」

気合十分のナターシャに対し、


とん。

軽く手を合わせる。

「おふうううううん!?!?!?」

突然の感覚に戸惑うナターシャ。

そのまま腕に力を込め、ナターシャの腕の甲をテーブルに押し付ける。

「しょ、勝者!ドミー!」

審判ライナが宣言し、勝負は一瞬でついた。


ビクビクビクビ◯ビク!

「お、おご…んんん!!!」

少し力を込め、一応ビク◯ビクンさせておく。

さっきアメリアを触った時気付いたのだが、力を込めるほどビク◯クまでの時間が早い気がする。


-その通りです。パワーを込めるほど、【ビクスキ】の効果は高まります。

ナビも肯定する。

「……!!!」

そうこうしてる間にナターシャは痙攣し、やがて気絶した。


-実はピュアな街娘ナターシャのステータスを獲得…

いや、今は言わなくていい。

俺はナビの声を打ち消した。

今日は、これをあと100回は繰り返す必要があるからな。


==========



「おい、まじかよ!?

「あのナターシャが一瞬で…」

動揺する群衆に対し、俺は右手を高々と掲げる。

「この程度なのか!このラムス街の【女性】のパワーも、存外だらしないぞ!」

ダメ押しの一言。 

一瞬静まり返り、

 

「おらおら上等よ!」

「次は私がいくわあああ!」

「やってやるぜ…!」

「あたしもやるー!!!」

「力自慢をありったけ呼んでこいー!」


そこから先はお祭り騒ぎだ。

少しでも力に自慢のある者が列を成し、次々と手を差し伸べてくる。

もちろん、ほとんどが【スキル】も使った肉体強化を行なっている。

それをー、



「おおお…!!!」

「昔痛めた古傷の痛みが、消えていく!…」

「いええええええす!」

「なんだ、この感覚、くううううううう!」


次々と仕留め、ビクンビ〇ンさせた。

その数、159人。



==========


2時間後。


「どみー!あたしとしょうぶしろー!」

「お、おう。ゆっくりな」

「いくぞー!…あっ!」

ビクンビ〇ン。


ふう。

最後に出てきたのは、まだ年端もいかぬ子供だった。

今まで倒してきた猛者たちも、昔はこの子のように可愛かったんだろうな…

さすがに本気は出さず、軽くすました。


「よーし、いい子だ…」

すぐに倒れた子供を慎重に寝かしつけると、群衆から出てくる者はいなくなった。

すでに半数以上の者は倒れているし、無理もない。


さて、こうなった後の対応だがー、


「さあさあみなさん、ここでネタ晴らし!!!」

俺の思考より先に大声をあげたのは、ライナだった。


「実は、ドミーの手には、不思議な力が備わっているんです!!!」


「そうなの!?」

「そういえば、明らかに様子がおかしいものねえ」

猛者がほとんどいないので、群衆たちの声も大分おしとやかになっている。

「ライナ、どうするつもりー」

「まあまあ、見てなさいって」

慌てる俺を静止し、ライナは高らかに宣言した。


「ドミーの手を触ると、異常な高揚感と幸福感に包まれ、誰も逆らえなくなります!!!私なんてビクン〇クンです!!何回ビク〇ビクンさせられたか分かりません!!!大好きです!!!」


すごいネタバレしてる!?


ライナは止まらない。

「しかも万病に効果があり、触っただけで寿命が3年伸びます!!!34回触れば100年以上生きられますよ!」


そんな効果はないよ!?


「本来はムドーソの王に献上するための品ですがー」


少し間をおきー、


「今なら特別にタダで触れます!!!」

群衆の心をわしづかみにする言葉を放った。

無料、タダ、お試しー。

持たざる者は、都合の良い言葉に弱いのだ。


「「「おおぉおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおお!?」」」

群衆のボルテージは最高潮となる。


「へへへへへ…ドミーさま、もう一度お願いしますうう」

「あんたと手を繋いだ時、人生は変わったんだ…!!!」

「どみー、もういっかいやってー!」


タイミングの良いことに、一度意識を失った【腕決闘】の挑戦者が起きだした。

すっかり【ビクスキ】の虜である。

それを見た群衆は、ライナの話が本当であると信じ込んでしまった。


「今度はあたしが触りますうううううう!」

「あんた、寝てる家族を全員連れてきて!!!」

「祭りだ祭りだあああああ!」

「救世主はドミーの他にない!!!」


先ほどの狂乱を超える狂乱が、ラムス街を包み込んでいく。


「「「「「「「ドミー!ドミー!ドミー!ドミー!ドミー!」」」」」」」


もう止まらなかった。



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