第13話 まず貧困地域の住人約1000人をビクンビ〇ンさせる(前編)

城門を抜けると、そこは貧困地域でした。


というのが、ムドーソ城内に入場した俺の感想だった。

石で舗装されておらず、常に土埃を立てている道路。

両側には露店が立ち並んでいるが、見たこともない動物の肉、まがい物にしか見えない汚れた宝石など、買い物する気分にはなれない。

家々の壁はすすけており、窓が壊れたまま補修していない所もある。


「おらてめえ!おらっちの金を盗んだだろ!」

「今日の商品は1000年に一度の名品、カンデ高原の清水…」

「落ちたものを食べちゃダメっていってるでしょ!」

「神は言った。私に10ゴールドを寄付すれば、皆救済されるだろうと…」

「ははははは!昼間っから飲む酒は最高だぜえええええ!」


だが、俺はこの貧民街の住人、【女性】の面構えが嫌いではない。

確かに、服は綺麗とはいいがたいし、口汚なく、粗暴だ。

だが、その分常識に囚われず、欲望のままに生きようとするエネルギーを感じられる。

眼光も鋭く光っており、利益になりそうな所にはすぐ飛んでいきそうだ。


俺も、今はこの貧民街の一員だからな…

ロザリー一行に連れられた、小奇麗でも活気の感じられない街より百倍楽しい。


==========


「ここラムス地区は、城門が破られたら真っ先に侵攻される場所だからねぇ。土地の値段が低いから集まるのは貧乏人。いつもこんな感じなのよ」

ライナはやれやれといった感じで俺に説明する。

「こういう場所だからこそいいんだ」

「?」

「いや、何でもない。それよりこの後だが…」


ライナと今後について相談しようとしたとき、俺は違和感を感じた。

周りから、大量の目線を向けられている気がする。


「おい、あれってまさか…」

「なんか絵でみたことがあるぞ」

「1000年に一度生まれる突然変異ってやつか?」

「ゴブリンも食っちまうらしいぞ!」


ラムス街の住人達に目を付けられていたのだ。

それも、1人や10人ではない。

視界内に入る全員だ。


「なんか見世物があるんだってよ!」

「喧嘩か?処刑か?」

「この騒ぎの中なら言える、薬屋にいるローラが好きだ!」


数はどんどん増えていき、思わず気圧される勢いでずんずんと迫っていくのだ。

これは予想外である。


「あー、この人たち、異様に娯楽に飢えてるから、変わったものは何でも飛びつくのを忘れてた…」

ライナがしまったといった表情を浮かべる。

「そうか…本当は重要なポイントから抑えていくつもりだったが、丁度いいだろう」

「…なんか考えでもあるわけ?」

「簡単だ」


俺は、ライナにほほ笑んだ。


「ライナ、今から行商人になってくれ」



==========



「こ、この【男性】の名はドミー!遠い大陸で生まれ、いくつもの海と山を乗り越え、苦節3年をかけてようやくムドーソにたどり着いた!」


5分後。


ライナは困ったような表情を浮かべながらも、ラムス街の住人に説明を始めた。

「えー、【男性】といえばひ弱な存在と言われているが、実は天下無双の力自慢なのである。ド、ドミー!今こそ、お前の肉体美をお見せしろ!」


少し照れが見えるが、まあいいだろう。

「…ふん!」

俺はライナの掛け声に合わせ、上に羽織っていた服を全て投げ捨てた。

そして、【シックスパック】を見せつける。

ついでに両腕の力こぶも盛り上げ、ポーズをとってアピールする。

1年間、ロザリーたちにこき使われてきた肉体は伊達ではない。


「ヒューッ!あ、あれが【シックスパック】!初めて見た…」

「【男性】ってもっとゴブリンみたいにひ弱な存在だって聞いてたけど…」

「どみー!かっこいいー!」

恐らく大半が【男性】を見るのは初めてだろう。

想定通り、群衆はどよめいた。


「ねえ、恥ずかしいんだけど…ていうかなんで脱いだし」

「気にするな。それより最後のセリフをまだ言い終わってないぞ」

恥ずかしさで顔が真っ赤になっているライナを鼓舞し、最後の仕上げに入らせる。


俺たちが何をやっているかというと、【男性】という種族が持つ希少性を利用することにしたのだ。1000年に1度生まれると言われる存在、基本的には嫌悪の対象だが、物珍しさで興味を持つ人間もいるだろう。


問題は、希少性で目を引いて何をするかだ。普通なら見物料でも徴収するところだが、それだけでは不十分。


「さあ、誰かこの男と力比べをしようとする【女性】はいないか?かつて、この男を破った者は誰一人いない!もし勝った者がいるなら、500ゴールドを賞金として授けよう!


ライナも慣れてきたのか、徐々にノリノリになってきた。

そしてー、


「遠慮するな!参加料金は無料である!勝てば500ゴールドだぞ!」

金銭と娯楽に飢えたラムス街の住人を扇動する、最後の言葉を言い終えた。

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