第6話 決意を新たにビ〇ンビクン(前編)

-朝?いや、もう昼かしらね。


私、ライナが目覚めた時、周辺はかなり明るくなっていた。

森の生物が鳴き声を上げ、活発に動き回っているのを感じる。


「しんど…」

立ち上がろうとしたが、倦怠感を感じ、なかなか実行できなかった。

理由は、私の隣で寝ている【男性】のせいだ。

足、腕、背中、肩。

あらゆる場所を念入りに触られたせいか、ヒリヒリとした感覚がする。

私は、ドレスのポケットの中から【癒しの薬草】を取り出し、食べた。

体が光に包まれ、体力が回復する。


「酷い顔…」

身だしなみを整えようと小川に向かうと、自分の姿が透明な水面に反射される。

大笑いしたとき、思わず流れた涙の跡が頬に残っている。

慌てて念入りに洗い、少しでも整えようとする。


-許せない。

顔を洗いながら、少しずつ、沸々とした怒りが湧いてきた。

思えば昨日から、散々な目に合ってきた。

結果から言えば、私を助けてくれたことになるかもしれない。

でも、その代償として、好き勝手された。

別に【男性】に対して偏見はなかったが、あいつは最低だ!


-でも、昨日は散々楽しんだじゃない?

だが、別の視点からの意見も頭をよぎる。

あなたはドミーが「支配したい」という申し出を受け入れ、夜を共にした。

ただ体を触られただけだったが、それだけで抗いがたい快感と幸福感に包まれたのである。

ドミーも言っていたが、あのスキルには誰も逆らえないのだ。

全てが終わった後になって、自分の行動を棚上げし、ドミーだけを責めるのはお門違いではないのか。


-私は、正常じゃなかったんだ。判断能力がなくなってた。

-ドミーに非がないと言える?あいつは明らかに楽しんでいた。

-そもそも、私が一人で無謀なクエストを受けていなければ…


さまざまな考えが頭の中を駆け巡り、制御が難しい。

頭を振り、思考を散らして対処する。

とにかく、あいつのところへ戻ろう。



==========



「ねえ、起きてる…?」

ドミーのところに向かってみると、相変わらず寝ているようだった。

昨日は疲れたのだろう。

ずっと【ビクスキ】を行使していたのだから。

私を弄んで…


-今なら、こいつから解放されるかもしれない。

静かに杖を取り出し、ドミーに向けて構えた。

私の魔力を感じたのか、杖の先からわずかに火が噴き出す。


-ファイア。

そう唱えれば、こいつの肉体は業火に包まれるだろう。

数秒で終わる。


「フ…」

もう少しだ。

手が震えているが、問題ない。

「ファ…」

やれ!

勇気をふり絞り、声を張り上げようとしたときー、


ビク!

「あひいん…」

肉体を強烈な感覚が襲った。

間違いなく、【ビクスキ】である。

昨日から何度も苛まれてきたが、その比ではない。

全身をくまなく撫でられているようだ。

杖がポロリ零れ落ち、膝から崩れ落ちる。

そのまま、仰向けに倒れこんだ。


「あーもう!いひひ、ダメだってばあ!」

じたばたともがき、何とか感覚を和らげようとする。

しかし、無意味だ。

ひたすら、蛇のように全身を這いまわる感覚に、もだえるしかない。

肉体の痙攣に、ひたすら耐える時間が続いた。


-これは、罰だ。

ぼんやりした視界の中で、私は自分の身に何が起きたかを理解していた。

おそらく、【ビクスキ】が、ドミーを殺そうとした私にペナルティを下したのだろう。


「んーっ!…」

唇を真一文字に結んでも、自分の声とは思えないような声が止まらない。

涙が再び溢れ、頬を流れていく。

「あははははは!もう、無理…」


私は、甘く見ていたのだ。

あの夜、あの男に触られた時点で、自分の肉体も、精神もー、


【ビクスキ】の影響下に置かれているのだ。


==========



「はあ…はあ…」

永遠とも思われる時間が経過し、徐々に落ち着いていた。

昨日から、ずっとドキドキさせられている。

これ以上は、体が持たない。


「ああ、まずい…」

笑いが落ち着いたが、今度は別の感覚に苛まれる。

幸福感だ。

むしろ、こっちの方が危険といえる。

思い出したくないことを、思い出してしまうから。


-ねえ、まだスキル成長しないの?

-いい加減にしてくれないと、私たちも昇格できないんけど。

-あんたのせいでケガした!

-出ていけ!

-もう、自分で決断しよ?


ずっと、もやもやを抱えていた。


ランクが上がらず、いじめられた日々。


苦しかった。


吐き出せなかった。


でも、あいつに触られて、一気に噴き出した。


あいつの前では我慢できたけど、今は…


「本当は、死ぬつもりだったのにな。あはは…」


私は笑みをこぼしながら、両腕で目頭をおさえた。


苦い涙だった。


止めどなく流れ落ち、その分私の心は軽くなっていった。



==========



「すーっ…」


少し落ち着いた後、森の開けた場所に出た。

空に向けて杖を構えると、魔力の高まりを感じる。

今なら、B級クラスほどの実力があるのではないだろうか。


「【ビクスキ】の時間制限が切れる前に、やってみるか…」

意味のない行動であることは分かっている。

だが、少し吐き出したいのだ。

昨日まではまるで違う人生となる不安、期待、もやもやを…


「【ファイヤ・ダブル】!」

先ほどは唱えられなかった、自分のスキル。

力が一点に収束し、巨大な炎となって噴き出した。

空に向かい、すさまじいスピードでみるみる小さくなっている。

そしてー、爆音ともに破裂した。

森の生き物がどよめき、慌てふためいて逃げる音がこだまする。

私は一瞬だけ、この空間を支配した。


-もう迷わない。私は、あいつの支配を受け入れる。


-だから、私も…


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