第4話 ゴブリンを退治しつつビク〇ビクン

これが、【ビクスキ】の力か。

腕の中で眠るライナを眺めながら、俺は自分のスキルの威力を実感していた。

「ふひひ…もうだめえ」

気持ちよさそうな表情をしながら、顔が真っ赤になり、息が荒くなっている。

これまで頭を下げて従うしかなかった【女性】も、触れさえすればイチコロだろう。


しかし、この後はどうしようか。

コンチに見せられた記憶(【異世界記憶】と名づけよう)を辿って、今後の展開を考えてみる。


確か、向こうの世界では、【男性】と【女性】は抱き合って何かをしていたような・・・


-警告。現在のレベルでは、その行為を実行した瞬間、神の怒りによってレムーハは消滅します。注意してください。


「まじかよ」

思わず声が出る。

というか、【ビクスキ】にはレベルが存在するのか。


-はい。【ビクスキ】を行使し、【女性】をビクンビ〇ンさせると経験値が加算されます。経験値を一定以上増やすとレベルが上がり、能力の強化が行われる仕組みです。現在、ドミーさまのレベルは1となっています。


「レベルを上げると、いずれは色々できると」

-仰る通りです。

「なるほどね…」


どうやら、先ほどの行為を地道に行い、レベルを上げていくしかなさそうだ。


「そういえば、さっき触れた【女性】のステータスを把握できるって言ってたな。他にも何か使えるのか」

-はい。コンチさまからもう一つ能力を付与されています。それはー、


脳内の声が途切れる。

「ん?どうした?」


-警告。モンスターがこちらに接近しています。【ゴブリン】です。退避してください。


==========


まじかよ。

俺は慌ててライナを抱えながら、大木の陰に身を隠す。


「ウグァァァァァ…」

数秒後、俺の背丈の2倍はあろうかと思われる巨体を揺らしながら、ゴブリンが現れた。

通常タイプよりでかい、変異種だろうか。

黄色に光る目を輝かせながら、口からよだれを垂らしている。

腰に巻いた布以外は何も身に着けていないが、筋骨隆々の肉体で防御力は高そうだ。

右腕にはごつごつとした棍棒を携えており、殴られたら即死は免れないだろう。


とりあえず息をひそめ、通り過ぎるのを待っていたのだがー、


「ウゥゥゥゥゥゥ…」

あたりをキョロキョロ見渡しながら、スンスンと鼻を動かしたかと思うと、こちらに向かって少しづつ近づいていくのである。


-ゴブリンは【男性】であると確認されました。

沈黙していた脳内の声が再び話し始めた。


-ゴブリンは【男性】が主導権を握る種族です…恐らく、冒険者ライナを狙っていると思われます。

「ゴブリンすら【男性】優位とかうらやましい…じゃなかった、どうにかやり過ごせないのか!?」

-ライナさまの匂いを辿っているようです。いずれ発見されるでしょう。【女性】ではないので、【ビクスキ】も効果はありません。

「くそっ!」


どうする。

悩みながらも、最善の策は分かっていた。

ライナを置いて逃げればいい。

俺に興味は無いのだから。


だが、体はまったく別の行動を開始する。

まず、ライナを地面に横たえ、ゴブリンの視界に入らないよう隠した。

そして、わざとゴブリンの前に姿を表したのだ。


「来い!このブサイク野郎!」

自己犠牲に見えるが、俺はそんな高尚なことは考えていない。

ただ、1人の【男性】として、【女性】を奪われるのが嫌だったのだ。

【異世界記憶】の中の【男性】は、【女性】をむざむざ他人に渡すような真似はしなかった。

自分の【女性】を守り、あるいは他人の【女性】をも奪う。

猛々しく凶暴な存在。

俺も、そうなりたいのだ。


「グルァァァァァ!」

もちろん、ゴブリンは俺に突進してきた。

棍棒を振り回し、俺を瞬殺しようと疾走してくる。


「そんなデカブツで追いつけるかよ!」

俺も全力疾走を開始し、逃げ切りを図る。

倒す必要はない。

ライナから可能な限り引き離せばよいのだ。

1年間荷物持ちとして活躍した俺の健脚を舐めるなよ!


「ウグルァァァァァ!」

だが、どうやらゴブリンの方が一歩上手だったらしい。

携えていた棍棒を構え、全力で俺に投げつけてきたのだ!

コントロールは異様に正確で、俺の頭にみるみる迫ってくる。


「うわっ!」

思わず悲鳴を上げ、地面に倒れこんだ。

その直後、空気を切るヒュッとした音ともに、棍棒が飛んでいく。

なんとか避けることに成功したが、俺は転んでしまった。

「いてえ…」

どこかぶつけたらしく、右足に鋭い痛みが走る。

動けない。


「グルルルルル…」

気付けば、ゴブリンが俺の目の前まで迫っていた。

全員から漂う獣臭がはっきりと分かる。

武器など無くても、俺を撲殺するのはたやすいだろう。

勝ち誇った笑みを浮かべ、俺に右腕を伸ばすー、


「【ファイア・ダブル】!」

その時、ライナの叫び声とともに、巨大な火球がゴブリンを襲った。

先ほど俺に放った【ファイア】とは、比べ物にならない規模である。


「ギギャアアアアア!」

ゴブリンは悲鳴を上げ、火をかき消そうともがく。

しかし、もう一度火球が放たれ、さらに燃え上がった。


「グゥアアアアア…」

やがて、ゴブリンは動きが鈍り、そのまま地面に倒れこんだ。

そして動かなくなった。



==========



-先ほど言いそびれましたが、【ビクスキ】にはビク〇ビクンさせた【女性】のステータスを強化する能力が備わっています。ただし、一定時間が過ぎると元に戻ります。


放心した俺の脳内に、声が響く。

ゴブリンは黒こげになっており、炭化しているようだった。

「つまり、俺がライナの能力を強化したってわけか?」

-その通りです。


「あんた!」

その時、ライナがずんずんと荒い足取りでやってきた。

まだ少し顔は赤いが、歩けるほどまで回復したようである。


「無事だったのか、良かった…」

「良くない!」


まっすぐ杖を突きつけられる。

先ほど放った【ファイア・ダブル】が先端でちろちろ蠢いている。


「い、いったい私に何をしたの?急に現れたかと思ったらこけるし、それを助けたらなんか変な気分になってべたべた触ってきて、それから…」

思い出したくないとでも言わんばかりに、頭をぶんぶんと振る。

「あ、あんな感覚、経験したことない…」


「えーと、気持ちよかったのか?」

ライナの顔が途端に上気する。

どうやら図星のようだ。

「う、うるさい!一歩でも動くと…きゃあ!」

動揺したのか、石に躓いて転ぶ。


「危ない!」

慌てて支えるがー、

「ひうんんんん!」

それが【ビクスキ】のトリガーとなったらしい。

ビク〇クと身もだえする。


「まあ、別に痛いことしたわけじゃないし」

「どきなさい!」

「おわ!」

油断していると、今度はライナが俺を力いっぱい押した。

今度は、俺が転げ落ちる。


「いてて…」

立ち上がろうとした俺の背中に、杖がぴったりと押し付けられる。


「…私に何をしたのか、正直に、正確に話しなさい」

ライナの声のトーンは、炎魔法の使い手とは思えないほど冷えていた。

どうやら、完全にキレたらしい。

「でないと…」

杖から少し炎が噴き出した。

「燃やす!!!」


「アツゥイ!」

俺は炎の熱さに思わず震える。

ビクンビ〇ン。

って、俺がビクン〇クンするんかーい!

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