その③
「エリン様とルーファス様のお付き合いは長いのですか?」
「付き合いが長い、というか義務? 高位貴族は幼い頃から例のお茶会のお子様版があったの。三歳くらいからだったかしら。将来王太子を支える側近の人選ね。女性は侯爵家に二人いるからそれでオーケー。男性はルーファス様しかいないから、伯爵家のめぼしい子どもを数人ピックアップ。その中にヘンリーもいたし、少し大きくなると二歳年下の第二王子殿下も加わられたわ」
三歳からお見合いとは! 高位貴族の義務とは大変だ。
「そこで、侍女の先導であれこれ一緒に遊ぶように
へえ、ルーファス様はピアノをたしなまれるのか。
「とにかくあの頃から精神
「ええと……なんか……すみません」
一応婚約者として
「やがてアメリア様が王太子殿下と婚約したことで、私はお役
「なるほど! ヘンリー様とのご縁ができたのであれば、お茶会に参加したことも結果的には有意義でしたね!」
「ま、まあね」
「エリン様はヘンリー様のどういったところがお好きなのですか?」
本日の本題に入る。私は前世も現世も引きこもりの人見知りではあるけれど、一応前世では思春期を過ごし終わった大人だったわけで、この
「え、ピアってば、そんなことを聞いてどうするの? まあでもそこまで聞きたいのなら……。あのね、ヘンリーのいいところは……バカなところなのよ。バカだから、裏でコソコソ悪口言ったり、言動が
「それは、ルーファス様も一緒ですね。ルーファス様も嫌だと思ったことは絶対にしない正直なお人なのです」
「……それとはちょっと違う気がするわ。とにかくね、私と向き合っているうちは、私のことだけを見ていてくれるって信じられるの。母のように、ここにいながら他の男のことばかり考えているような人と家庭を持つなんて……それが貴族社会では
「……よくわかります」
「希望ばかり
「ええぇ~……」
私の背中に
ヘンリー様をバカだバカだと言いながら、剣の
口直しに紅茶を一口飲み視線を上げると、突然エリン様の後ろに上着を
彼は後ろからエリン様の目を
「うそでしょ──!!」
私の
「あー気づかれたか~!」
「いい加減このような真似はおやめください!」
エリン様が
そんな私の
「なっ!」
「ピア? びっくりしたね。こいつらときたら本当に……
私の右耳のすぐそばに低く柔らかい、大好きな声がある。
「ルーファス様だ。どうして?」
「ちょっと王宮で……父の手伝いをしていたら、ヘンリーが婚約者同士のお茶会に
はあ、とため息を零すルーファス様。少し
「お仕事のお邪魔をしてすみません。でも、しばらく会っていなかったから嬉しいです。ヘンリー様、連れてきてくださってありがとうございます」
「ピア、私も会いたかったよ。ヘンリー、ピアがこう言っているから許してやる」
「ルーファスが笑ってる……」
「ええ、私も最初は信じられなかったわ……」
二人の
あっという間に四人向けのテーブルになり、当たり前のようにヘンリー様もルーファス様もそれぞれの婚約者の隣に
私の、できるだけ他の攻略対象者には会わないで生きていこう! という決意は一体……。
とりあえず、気を取り直してエリン様にお
「えーっと、こんなこと、よくあるのですか?」
「しょっちゅうよ。
「先触れなんかしたら面白くないだろう? それにしても今日のエリンの服、ピアノの
ヘンリー様はそう言うと、大きな口を開けて、手づかみで青りんごを食べた。ヘンリー様はお菓子は腹に
「ほんっとにもう!」
エリン様がわき腹をつねる。そうしながらも、どこか嬉しそうだ。
「だってこいつ、いっつも、こんなでかい家で、一人でつまらなそうにしてるんだぜ? 全力で驚かすしかないだろう? いてえ!」
エリン様は今度は手加減なしでつねったあと、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
ヘンリー様のやり方は
「ヘンリー様は……お
「はあ? 何言ってんの? エリンは俺の何倍も人を見る目がある。エリンが選んだ友達に文句つけるわけないじゃん。でもまあエリンとルーファスと話しているのを見て、いい子だってことは俺にも伝わった。俺もピアちゃん好きだよ! 仲良くしようぜ!」
「る、ルーファス様! この人ご存じのとおりバカなんです! 他意はございません! ヘンリー、あなた命が
「ん?」
「……エリン
「お! 久しぶりにルーファスと手合わせできるのか? やったぜ!」
「わあ、三人とも戦うのならば、見学に行きたいです! お邪魔でしょうか?」
「ああああ! なんて脳天気な! なぜ
そうして四人でしばし楽しいひとときを過ごした。
エリン様の顔色がドンドン悪くなっていったのは、女同士の秘密の恋バナを聞かれたと
それともヘンリー様と二人で過ごすチャンスを邪魔しちゃったからかもしれない。そう思って私とルーファス様は一足先にホワイト侯爵邸をあとにした。
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