第一章 シルエットモブ悪役令嬢だった私
その①
私の名はピア・ロックウェル。王都
貴族の政略
父の仕事の関係で王都(といっても外れのほう)の古い
そんな私は十
「ねえ……サラ……空を鳥のように飛ぶ鉄の車って……見たことある?」
「
大人のサラが知らないのなら、やはりあの光景はこの世界のものではない。
まどろみの中、じわじわと前世の
前世の私は、鉄の車が地を走り空を飛び地下を
初めてできた同じ
容姿から性格から散々
「いやあああああ!!」
「ぴ、ピアお
再び意識を失った。
母やサラの
過去は過去だと割り切り、前世の記憶はそっと自分の胸の内にしまっておこうと思うに至った
「ピア様、もう
「……
同い年である婚約者のルーファス・スタン
「ピア様!?」
「お嬢様!」
彼は前世で院生仲間に
私は
ゲーム〈マジキャロ〉の主人公は
ゲームのスタート画面は、エプロン姿のキャロラインがオーブンの前で焼き菓子の乗った鉄板を取り出し、そんな彼女を五人のイケメンが
私はメインの王太子ルートのエンドを
確かクールキャラ
私、黒いシルエットだけでイラストも名前も出てこなかったそのモブ婚約者だわ。
お菓子を捨てるのはお
ルーファスは宰相という重職を歴代
そもそも婚約者のいる男にちょっかい出す女なんてクズ! 婚約者がいるのに他の女と密会を重ね、その女をかばうとか男もドクズ!
さらにこの〈マジキャロ〉の
ヒロインが一人の男に定めても、まだ他の男にも愛され続けるというひたすらヒロイン至上主義のゲームなのだ。
そして悪役令嬢という立ち位置の婚約者は、どう転がろうが、公衆の面前で断罪されてバッドエンドを迎える。
前世の実体験と、ゲームでのぞんざいなモブ
私はまた、恋人(今世では婚約者)だと思っていたのに、『お前の
しかもモブゆえに情報が少なすぎて、悪役を
ああ……またなの? ……
ルーファス様は九歳の時、
十歳の私は、子どもだから、わんわん泣いた。
先々傷ついて捨てられる運命が決まっているのなら、今、情が愛に変わる前に捨てられたほうがマシだ。
今世の父、ロックウェル伯爵は中央の政争とは全く関係のない王宮内の研究所で薬学に
領地運営はトントンで金回りも良くはないけれど、欲をかかなければ我々家族も領民も食うには困らない。
「ピアが元気になる薬も作れないなんて……私の研究などなんの役にも立たないな」
悲しげにそう言って、不器用に娘を愛してくれる私と同じ瞳の父。
「ピア、何がそんなに悲しいの? 大丈夫よ。いい子ね」
そして泣き続ける娘の背をさすり、
「父上の薬は人には効かなかったけれど、一気にアブラムシを殺し、多くの農家を救ったではありませんか!」
もっと不器用になぜか父を慰める、父と同じく学者肌の真面目で余計な一言の多い、私とそっくりな瞳と髪の色を持つ兄。こんなだから妹の
相変わらず男運はなくとも、家族には
「お父様、お母様、お兄様……ありがとう」
* * *
倒れて数日後、改めてルーファス様がお見舞いに来てくださった。
私はベッドを出て、自分の部屋の小さな応接セットでもてなす。小さな
「ピア様……先日は目の前で
今日の私の
髪も
それを
「……実は……あまり調子がよくありません。どうやら先の病ですっかり体も心も弱くなったようで……侯爵家を妻として取り仕切ることなどできそうもないのです」
この気持ちは
病気になる前はいいご
それに……私なんて今後非の打ち所がない
前世の彼氏からの人格存在全否定を思い出した私は、すっかり弱気だ。女として、人としての自信が全く持てない。気持ちを
「……そうなの?」
ルーファス様がコテンと首を
「はい。よろしければルーファス様から婚約を解消していただけないでしょうか……」
格下の
「へーえ……この婚約、家同士のみならず、王家も
カップを片手にとても同い年と思えない切れ味バツグンの視線を流される。
「は、はい。大変申し訳ございません」
今日この話をすることは一応両親の
両親は自分たちがルーファス様に頭を下げるとも言ってくれた。このように身も心もヨロヨロな私には重い仕事だと思ったのだろう。
しかしスタン侯爵夫妻は
パワーバランスと言っても、父が宰相閣下の
ルーファス様は我が家のブレンドティーの
「私と婚約解消などしたら、君、一生
「承知の上です。私に
重々思い知っているわ。再び前世の彼氏と、彼氏の本命の女と
「いや、そこまでは言ってないけれど……そうなると君、伯爵家でお荷物扱いされるのでは?」
確かに兄が結婚し
「その時は平民になり、
「ふーん。わかった」
そう言って、ルーファス様はカップをソーサーにカチリと
「あ、ありがとうございます!」
よかった。ルーファス様、思いのほか、話のわかる方でした!
「どういたしまして? 君の並々ならぬ
「は?」
「前回、私の顔を見た
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