第16話 友達と友達の初会話

「坂鳥君、放課後時間あるかしら」


 昼休み、中庭で玄さんと一緒にご飯を食べていると、僕を探していたのか、夕凪さんが僕を見つけて声かけてきた。手には菓子パンを持っているし、売店でご飯を買った帰りなのだろう。


「別に大丈夫だよ。僕も話したいことがあったしね」


「もし可能なら資料室を使いたいのだけれど」


「了解、向こうには僕が伝えておくよ。……で、玄さんはこそこそと何しているの?」


 急に話をかけられたからか、玄さんはビクッと跳ねた。背中を丸めて僕の影に隠れているが、全然隠れられていない。二メートル近いその体にその筋肉量じゃ、どう足掻いても無理だろう。


「お、おいうるみ。俺ここにいていいのか?」


「あふん」


 耳元で囁くなよ。そこ、僕の性感帯なんだぜ?


「ちょっ、玄さん離れて」


「わ、悪い」


 玄さんは小さく体を丸めたまま僕から少し離れたが、依然として夕凪さんからは死角になるように位置取りをしている。


「どうしたの? もしかしてだけど玄さん、女の子が近くにいて緊張しているとか言わないよね?」


「違えよ馬鹿! ほら、俺なんかが近くにいたら夕凪も話しにくいだろ?」


 ああそういう。自分が二人と普通に話していたから配慮するのを完全に忘れていたよ。玄さんは皆に恐れられているし、夕凪さんも男子が苦手なんだった。


「私は気にしないわよ」


 どうやら玄さんも彼女の怖い基準に引っかからなかったらしい。下心なさそうだもんね玄さん。よし、せっかくだし二人には仲良くなってもらおう。


「夕凪さんご飯まだでしょ? もしよかったら一緒に食べない?」


「ええ喜んで。宍倉君、ご一緒しても構わないかしら」


 夕凪さんは、僕の後ろに隠れている玄さんの顔を覗き込み、確認を取る。


「お、おう構わないぜ」


 夕凪さんは僕の隣に腰を下ろし、菓子パンの袋を開ける。それだけで足りるのだろうか、少し気になる。


「ふっふっふ……夕凪さん、君には是非僕の作ったお弁当を食べてほしいんだ。今日のハンバーグは傑作でね」


「お母さんに作ってもらった弁当をあたかも自分が作ったように言うなんて、あなた最低ね」


「辛辣!? いやいや疑わないでよ。正真正銘僕が作ったお弁当だって」


 僕は紙皿の上にハンバーグと野菜少しを乗せ、最後に別で用意していたデミグラスソースをたくさん付けて夕凪さんに渡した。


「おっとそうだった、割り箸もちゃんと付けないとね」


 弁当と一緒に持ってきた青い袋の中から割り箸も取り出し夕凪さんに渡す。


「いつも持ってるの?」


「玄さんに自慢したくてね。まぁ最近は玄さんも弁当を持ってきているから必要なくなってきたんだけどさ。弁当の蓋に乗せれば済む話だし」


「宍倉君も弁当作っているのかしら」


「あん? 俺は作ってねぇよ。これはその、何だ……親に作ってもらったんだよ」


 照れくさいのだろう。水柿さん以外の女の子と話すのが……ではなく、親に弁当を作ってきてもらっている事がバレるのが。


 玄さんは今まで売店でご飯を買っていたけど、この間の水柿さんとの仲直りで母親に弁当を作ってもらえるようになったのだとか。


「良かったわ。もしかしたら私がこの中で一番女子力が低いのではないかと危惧していたところよ」


「安心しろ。俺は料理なんてできねぇよ」


 そう言って遂に、玄さんが僕の後ろから出てくる。二人の距離が少し縮まったのかも知れない。


「あら、このハンバーグすごく美味しいわね」


 お? いつの間にかハンバーグを食べていてくれたみたいだ。玄さんの方に注意を向けていて気が付かなかった。


「だろう? そうだろう? 実はテレビでたまたま玉ねぎを使わないハンバーグっていうのをやっていてね。半信半疑だったんだけど試してみたらすごく美味しくてさ」


 玉ねぎを使わないから手間も全然かからないんだよね。皆も興味あったら調べてみてね!


「そんなに美味いのか?」


「ふふん。玄さんも欲しくなっちゃったかい? まったく、しょうがないなぁ。少しあげるからフタをこっちに渡しなさいな」


「お、おう……ありがとな」


 僕は玄さんから弁当箱のフタを受け取り、ハンバーグを上に置く。もちろんデミグラスソースもたっぷりだ。味わって食べるがいい。


「やっぱり思うのだけれど、坂鳥君と秋雨先輩は似ているわね」


「なんて事を言うのさ夕凪さんは! あんなちゃらんぽらんな師匠と一緒にしないでよ!」


「やべぇ、こんなのがもう一人いるのかよ……」


 後ろで何やら玄さんが戦々恐々としている。


「先輩という言葉から分かるとは思うけど、師匠さんは三年よ」


「うへぇ」


「そこっ! 変な顔しない!」


 なんて会話で盛り上がっているんだこの二人は。まぁ玄さんも普通に話しているし良かったと言えば良かったのだけれど。


「だって三年って事はお前よりパワーアップしている可能性があるじゃねぇか。師匠って呼んでいるくらいだし」


「いや別に変人としての師匠っていうわけじゃないよ。確かに師匠は頭がどこかおかしいけど、僕はそうでもないしね」


「こういうところが特に似ているわ」


「あー何だか分かった気がするわ」


 いったい何が分かったというのだろうか。


「まぁいいか……さて、そろそろ教室に帰ろうか」


 周りの生徒が教室に戻り始めている姿を見たので、僕も二人に教室に戻るように促す。


「そうだな。次の授業なんだっけ?」


「体育だよ。確かサッカーをするって話を聞いたけど」


「まじか」


「おや? 体育は好きだと思っていたけど。もしかしてサッカーが苦手だったりするのかい?」


 筋肉あるのに……もしかして球技が苦手だったりするのだろうか。確かに細かい動きが得意なようには見えないけど。


「ちげぇよ。つかお前もだろ」


「何がかな?」


「ほらあれだよ。俺らさ……チームプレイできないだろ?」


「!?」


 その情報に僕は愕然とした。


「お前その顔……本当に気付いてなかったのか? 去年もサッカーあったじゃねぇか。そん時はどうしてたんだよ」


「適当に後ろの方にいた気がするけど。でも確かにそうだ。僕は今までろくにチームスポーツに参加できていなかった。で、でも去年と違って僕たち一人じゃなくなって……」


 玄さんは肩をすくめた後、融通の利かない子どもを諭すかのように、僕の肩に手を置いた。


「潤、現実を見ろ。サッカーは二人じゃできない」


「ぐはっ! ゆ、夕凪さん、助けて。玄さんが僕をいじめてくるんだ」


「よしよし」


 泣きじゃくるフリをする僕の頭を夕凪さんが優しくなでてくれる。やべぇ、癖になるかも。


「あ、ありがとう夕凪さん。ちなみに女子は何をするの?」


「確かバトミントンだったと思うわ」


「へえ体育館か、いいね」


「そうね、バトミントンは一人でもできるから良かったわ」


「夕凪さんまで!? はぁ、団体競技って肩身が狭いよね。何とか対策考えないと」


「対策してどうにかなるものなのか?」


 玄さんうるさい。

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