第15話 べむかにでとしたことなんてかないよ

 夕凪さんと師匠、二人との会話を終え、そのまま帰宅した僕は、今後の事について考えていた。情報収集は師匠にお願いしてきたので、僕が考える事とはつまり、その……デートについてだ。


 デートして犯人に見つけてもらう。口に出してしまえばすごく簡単な事のように聞こえるが、僕みたいなデート初心者にはとても厳しい状況にある。


「とりあえず調べてみますか」


 僕はパソコンの電源だけ入れて、いつものようにコーヒーを淹れに行く。コーヒーがあるのとないのとでは作業効率が大きく変わってくるのだ。


「まあパックのやつなんだけどね」


 そうして何度目かになる言い訳を口にしながらお湯を注いでいく。


「ああそうだ、お洒落な服とか持ってないじゃん僕」


 カップがコーヒーで満たされたのを確認し、パソコンのある机に向かう。ついでだからお洒落な服も検索しよう。


 椅子に座った僕はコーヒーを一口含み、情報収集を開始する。が、その情報の殆どが初心者の僕にとっては高度過ぎる。


「デートがここまで恐ろしいモノだったとは……世のカップル達は毎週こんな遊びをしているのか? どう考えても最初の月で破産する。うわっ、なんだよこれ、ヘリをチャーターして夜景を眺めるプランとか出てきたんだけど、こんなのとてもじゃないが僕のお金じゃ足りない」


 とりあえず場所は置いておこう、先にファッションを確認しようか。そう思い再度検索をかけていくが、こちらもレベルが高すぎる。


「この服なんでこんなにだぼだぼしてるんだろう。こっちは半ズボンだし、まぁでもデートプランに比べたらマシな方か。僕でも似合いそうな服がいくつかあったし」


 問題は小物類、ワックスや香水は付けた方がいいのだろうか。考えれば考えるほどどんどんこんがらがっていく。どうしよう。誰かに相談? いや僕に相談できる相手なんて……いや待てよ、一人いるじゃないか、こんな時に頼りになる人が!


 僕は早速スマホを取り出し、その人にメッセージを送る。まだ既読になっていないし、もう少し自分でも調べてみよう。相談に乗ってもらうのに丸投げするのは嫌だし。


 そうしてしばらくパソコンで検索していると、スマホの画面が光り出した。


『相談って何かな? 私で良ければ力になるよ』


 なんて頼もしいのだろう。頼んだのはもちろん我らが水柿さんである。


『いやさ、今度初めて女の子と出かける事になったんだけど、どこに行けば良いのか分からなくて』


 やばい、この文章を打つの恥ずかしいな。


『えっ!? 坂鳥君デートするの!?』


『本当にただ出かけるだけだよ。でもやっぱり相手にも楽しんで欲しいんだよね。だから玄さんとデートした事があるであろう水柿に相談したいんだけど』


 やばい返信が来なくなった。まだこの辺りを突っつくのは早かったか? 


『べむかにでとしたことなんてかないよ』


 うんまあ、返信来たのは良いけど、これはなんて読むのだろうか? いや、『べむかに』は分からないけど他は何となく読めるな……あぁ『別にデートした事なんてないよ』かな? 多分。


『落ち着いて水柿さん』


『坂鳥君ってやっぱり意地悪だよね。相談に乗らないよ?』


『ごめんなさい』


『今回は許してあげる。私の相談にも乗ってもらったし。それで? 出かけるんだよね? 相手がどんな子なのか教えてもらえる?』


 ここで言うどんな子って言うのは見た目ではなく、性格とかの話だろうか? でも僕が夕凪さんに関して知っている事なんて、ほとんどないんだよな。うーん。まぁ、思いつくことを書いていこう。


『人見知りだけど読書が好きな子かな?』


『へー。坂鳥君はそういう子が好きなんだね』


 くっ、仕返しされているのか僕は。だが、僕はただでやられるような男じゃない。


『べむかにそゆなことないよ』


『やめてください』


 ただの文章なのにそこから怒気の様なものを感じる。流石にやり過ぎてしまっただろうか。とりあえず素直に謝っておこう。


『ごめんなさい』


『で? 本題に戻るけど、相手の子が人見知りならあまり騒がしいところは得意じゃなかったりするんじゃないかな?』


『ふむ、確かに』


『後、本が好きなら映画とかも良いかもね』


 確か映画館は近くにあったはず。


『おおー、良いかもしれない』


『後、映画が終わった後に喫茶店とかはどう? ほら、感想とか話せるじゃない』


『夜景の見える高級レストランとか予約しなくても良いの?』


『全然全然、坂鳥君は重く考えすぎ。お金がなくてもちゃんとしたデートはできるんだよ? 後は細かい気配りができれば問題ないと思うよ』


『喫茶店っておすすめある?』


『この間行った所とかどうかな? 結構人気みたいだよあそこ』


 そうだった。玄さんの件が片付いた後、水柿にお礼として奢って貰ったお店があった。あそこなら確かに良いかもしれない。


『確かに良い雰囲気だった。ありがとう、何とかなりそうだよ』


『どういたしまして。頑張ってね』


 よしこれで何とかなる。後は細かく詰めていけば良いだけだ。楽しみにしててよ夕凪さん。


 あっ、師匠に小型カメラの件について確認するの忘れてた。

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