第11話 こうして僕は、沢山の男子生徒の写真を手に入れた

 ちょっとした騒動になったテスト返しが終わった。休み時間を迎えた僕は、夕凪さんから前にもらっていた情報を頼りに二年生のクラスへと向かっていた。


 容疑者は三人。『イケメンで自称サッカー部のエースである鴇岡ときおか君』『前髪で目元が隠れてる眼鏡男子の枯野かれの君』そして……柳君だ。同級生という事もあって、すでに全員の名前が分かっている。しかも柳君は同じクラスだし、それ以外の二人も同じクラスに在籍している。


 隣のクラス、つまりは二年一組の教室の前まで行き、遠巻きに教室の中を確認する。教室の真ん中にターゲットである鴇岡君らしきイケメンの姿を確認することができた。多分彼がそうなのだろう。めっちゃ爽やかなイケメンだし。羨ましい。


 それは置いておくとして、問題は枯野君である。教室をくまなく探すが前髪が隠れている男子生徒は見当たらない。あえて言うのであれば、あのうつ伏せになって寝ている人物が怪しい。


 僕はうつ伏せになっている男子生徒に目をやりながら、イケメン君の方に耳を傾ける。


「そういえば鴇岡、お前今日暇?」


 おっ、さっそく名前が出てきた。やっぱり彼が鴇岡くんだ。写真撮っとこ。


「暇なわけあるかよ。今日もこれから部活だよ」


 鴇岡君は、少し悪態をついたり小突いたりしながら笑って話している。


 あれが友達同士の正しい距離感なのだろうか、何となく羨ましく感じる。リア充は僕に悪感情を植え付けることもあるが、参考になることも多い。今度玄さんに似たような絡みをしてみよう。


「かーっ、たまには息抜きも必要だと思うぜ俺は。それによぉ、お前と一緒に遊びたいって言う奴、たくさんいるんだぜ?」


 鴇岡君の友人らしき男がオーバーリアクションでそんな事を言う。


 あれは……真似しなくてもいいか。イケメンだけ参考にしよう。すまんな、名も無きフツメン君。


「俺はサッカー部で期待されてんの。それに一年が沢山入って来たからな、面倒みてやりてぇんだよ」


 そう言って少し顔を赤くし、右手を首の後ろに添える。


 ひゅーカッコいいね!


「ひゅーカッコいいね!」


 あっ、フツメン君と被った。それにしても今言ったことが本心だとしたら中々いい男なのではないだろうか。面倒見がいい人間、僕は結構好きだぜ。それにイケメンでサッカー部のエース、おいおい夕凪さん、本当にフッちまって良かったのかい?


 うーむ、だとすると彼が盗撮犯とは考えにくいなぁ。性格良さそうだし。でもこう言う場合って意外な人が犯人になったりするからなぁ。本で読んだ知識だから現実がどうだかは知らないけど……


 何か犯人を探す良い方法はないだろうか……いや待てよ。そういえば、師匠が小型カメラを見つけたとかなんとか言っていたな。


 放課後になったら一度、師匠のところに向かうのも良いかも知れない。それに彼女なら有益なアイデアも出してくれるかも知れないし。


 とりあえずそれは後で考えるとして、今は何より前髪君の写真が欲しい。こっちはこっちで何か方法を考えなくては。


「あのー、誰か探しているんですか?」


「うへいっ!?」


 ……変な声を出してしまった。


 声のした方向を見ると、すぐ後ろに女の子が一人立っていた。このクラスの女子だろうか? だけどまぁ、ちょうど良いのかも知れない。彼女をちょっとだけ利用させてもらおう。


「あのー?」


「ごめん。びっくりしたから」


「あっ、そうですよね。急だとびっくりしちゃいますよね。すみません」


 彼女は僕の行動に納得がいったのか、一人頷いた後、頭を下げて謝って来た。


「いっ、いや別に謝られる様な事じゃないよ。僕が周りをよく見ていなかっただけだし」


「そう言っていただけると助かります。それで、最初の質問に戻るんですけど、誰かに用事があったんですか? もし良ければ呼んできますよ」


「ありがと。それじゃあ悪いんだけど、このクラスにいる枯野くんを呼んできてくれないかな。僕は彼に用があるんだ」


 女の子にお願いするのってなんだかちょっぴり恥ずかしいね。


 僕は顔を少し赤くしながらそんな事を考える。


 すると何かを察したのか、彼女も少しだけ顔を赤くする。


 やばい僕の考えている事がバレたのかな。なんだかどんどん恥ずかしくなって来た。


「こういう時代になったし、そういうのも全然アリだと思いますよ」


 やばい、思春期男子丸出しなのがバレたのか?


「じゃあ枯野君を呼んできますね。あのぉ、私がこんな事を言うのもアレですけど、その、頑張ってくださいね。応援していますから」


 やはり僕の動揺はバレていたみたいだ。それにしても彼女は優しい。女の子に慣れていない僕に、こうしてエールを送ってくれているのだから。


 彼女はうつ伏せになっていた男子生徒の席まで向かった。やはり、彼が枯野くんだったようだ。二人はこっちをチラチラ見ながら話をしている。


 あっそうだ、彼が近づいてきたら写真を撮るのも難しくなるし、今のうちに撮ってしまおう。枯野君があの子を見ている瞬間にパシャりと。うむ、この角度なら夕凪さんも分かりやすいだろう。


「えっと、俺に何か用?」


 スマホの画面を確認しているとそんな声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには前髪で目元が隠れた男子生徒が立っていた。ちょっと怖い。


「えっと、君が枯野君?」


「そうだけど、君は?」


「僕は隣のクラスの坂鳥って言うんだ。君にちょっと話したいことがあってさ。少しだけ良いかな?」


「いいけど」


 よしよし後ろから枯野君がついてきている。その奥で、先程の女子がこっちに向かってガッツポーズをしている。なんだかよく分からないけど、僕もガッツポーズを返しておこう。


「ここら辺で良いかな」


 僕は一組の教室の隣にある階段のところで足を止める。


 まぁ、移動する必要なんかなかったんだけど、何故かさっきの女子に見られていると少し恥ずかしいと感じてしまってさ。ここなら見られていないし大丈夫でしょ。


 僕は懐からハンカチを取り出し、枯野君に見せる。


「これ、君が落としたもの?」


「いや、違うけど」


 だよね、だってこれ僕のだもん。


 そんな事はおくびにも出さずに驚いた表情を作る。


「えっ、そうだったの? 君が通った後に落ちていたからてっきり」


「そうなんだ。ごめんねせっかく持ってきてくれたのに。でもそれだったら教室に入ってきてくれたら良かったのに」


「あー、なんていうか僕さ、一組に知り合いがいないんだよね。だから少し恥ずかしくって」


「あー、確かに俺も同じ状況だったらそうしたかも。じゃあ俺次の授業の準備があるから戻るね」


「うん、本当にごめん」


 彼は小さく会釈をした後教室に戻って行った。


 ふぅ、これで何とか全員の顔を見る事ができた。まずはさっき撮った写真を夕凪さんに確認してもらおう。

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