第6話 中間テスト終了

 中間テストが終了し、後は結果を待つだけとなった頃、教室も普段の活気を取り戻しつつあった。


 そして僕の後ろでは、ここ数日毎日のように燃え尽きている玄さんが今日も変わらず燃え尽きていた。


「お疲れ様、玄さん」


「潤のおかげで何とか乗り切ったぜ。だけど悪ぃ、しばらくこのままでいさせてくれ」


 そう言って机に伏せって微動だにしなくなる。もしかして気絶しているんだろうか。まぁちょっかいをかけるのも悪いし、今日は先に帰らせてもらおう。夕凪さんとの約束もあるしね。


 そうなのです。実は今日、夕凪さんと今後についての話し合いをすることになっているのです! まさかこの僕が女の子と二人で密会することになるなんて! 今からワクワクが止まらないよ。服装は大丈夫だろうか? 爪はきちんと切ったし、歯にも青のりは付いていない。口臭も問題ないはずだ。まだ時間まで少しあるし、ギリギリまで身嗜みチェックをしなくては。


 そんなことを考えながら帰り支度をしていると、クラスメイトの柳君と若竹君の声が聞こえてきたので、僕は目を合わせないまま聞き耳を立てる。日課である。


「テストどうだった?」


 この声は柳君だ。クラスメイトをきちんと把握していない僕だが、柳君の声だけははっきりと分かる。いつものように若竹君と話をしているのだろう。


「ここ最近ずっと勉強していたからな。多分去年よりはいい点数取れたと思う」


 どうやら若竹君は好感触だったみたいだ。チャラチャラツンツンヘアーの癖に。


「まじかよ裏切り者〜」


「あんまりかっこ悪い点取れないしな」


「お前彼女いるもんな。あー羨ましい。俺にも彼女できないかなぁ」


 えっ? 若竹君彼女いたの!? それに対して柳君はどうやら色恋沙汰とは無縁の生活を送っているようだ。おしゃれボウズよりもツンツンヘアーの方が女子高生ウケが良いのだろうか。僕はおしゃれボウズの方がカッコいいと思うけどね。


「誰か好きな人いるのかよ。まぁ気になるヤツがいるんだったら告白すればいんじゃね? 夏休みも近づいて来たし」


「そんな簡単に告白なんてできねぇよ。告ってもフられるのがオチだろ? つかどうやって告白すれば良いのかわかんねぇ」


「放課後呼び出して告白とかでいいんじゃないの?」


「どうやって呼び出すんだよ。教室でそんなこと話したらすぐにみんなにバレるぜ?」


 どうやら柳君はこの教室に好きな人がいるらしい。帰る準備はすでに終わっているが、退室せずに耳を済ませる。


「じゃあ手紙で呼び出したら? 他のクラスに実行しようとした人がいるって話聞いたし」


「えぇ、なんか古くない?」


「逆にそれがいいって言う奴もいるんじゃないの? お前が誰に告白したいって考えているのかわからないけどさ。後はスマホで告白とか?」


「愛がない気がする」


「お前さっきから否定しかしてないけど、本当に彼女作る気あんの?」


 そうして二人の話を聞いていると、おもむろに教室の後ろにある扉が開いた。気になってそっちの方向に目を向けると、図書室で待っているはずの夕凪さんが視界に入った。


 何か忘れ物をしたのだろうか? そんな事を考えていると、夕凪さんは教室の左後ろにある自分の席ではなく、僕の方へと一直線に歩いてくる。


 なんだか少し嫌な予感がするんだけど……なんか笑顔だし。


そして、その予感は見事的中することになる。


「坂鳥君、お待たせ」


 夕凪さんが教室の中で僕に話しかけてきた。


 待ってくれよ。教室で話すと面倒だから図書館で話そうってことになったはずじゃん! ほら教室中から変な目で見られてるよ? ぼっちは視線に弱いんだよ?


「い、いや大丈夫、だよ?」


 何にも大丈夫じゃない。


「そう、なら早く行きましょう。もう席が埋まっているかもしれないわ」


 そう言って彼女は僕の手を取って歩き出す。あっ、女の子の手ってひんやりしてて気持ちいい……じゃない! 


 ねぇ夕凪様待ってください。このクラスメイト達の視線に気づかないんですか? ヤバイ視線ビンビンに感じないんですか? ほら僕の心の親友である柳くんも目から血を流しそうな顔で僕を見ているんですけど。


 振り解けば良いのかも知れないが、もちろんそんな事できるはずもない。それをしてしまっては余計にクラスメイト達の視線がキツくなるはずだ。


 僕は結局何もできず、夕凪さんに手を引かれるままに教室を出ることになった。


 そして僕たちはそのままの状態で図書室へと向かう。


「ねぇ夕凪さん、とりあえず何処かに座ろうか。それに手を繋いだままだと盗撮犯を刺激しちゃうかもしれないから離そうね」


 そう言って優しく手を振り解き、なるべく死角になる席を選んで腰を下ろした。夕凪さんも僕に倣い目の前の席に腰を落ち着ける。


 ふぅ、恥ずかしかった。


 少し心を落ち着けた後に肩に下げたままの鞄を隣の席に置く。


「とりあえず中間テストお疲れ様。約束通り今日から夕凪さんの力になるよ」


「坂鳥君もお疲れ様。それと今日からよろしくね」


「よろしく。それじゃあ早速だけど話を進めて行こうか」


 机の上にノートと筆記用具を広げ、話をまとめる体制を整える。


「まずは夕凪さんに告白してきた男子について教えてくれないかな? 一人ずつ詳しく知りたいんだけど」


「分かったわ」


 そうして僕は夕凪さんから聞いた情報をノートに書き出し纏めていく。告白された順番、学年、特徴、そして告白された時の内容まで事細かに。


 それにしても人の告白をノートに書いていくって何だかむず痒いな。何だか凄く悪いことをしているみたいだ。まぁ、今は無心になってノートを書く事に集中しよう。


 しばらく経ち、ある程度聞き終えた僕はペンを止める。


「よし大体書き終わった。後は実際に顔を見たりして情報を探って行こうか。あっ、一応不備がないか内容をチェックしてもらいたいんだけど」


 ノートを夕凪さんの方へと向け、確認をしてもらう。


「そうね。概ねここに書いてある通りだと思うわ。それにしても坂鳥君貴方、ノートを纏めるのが上手いのね」


「そうかな? そんな事ないと思うけど」


「いいえ、これは中々のものよ。もし良かったら今後私のノートも書いてもらえないかしら?」


 夕凪さんがあんまりにも真剣な表情で言ってくるので、一瞬いいよって言いそうになったが、多分本当の目的は違うのだろう。よくよく見てみるとからかおうとしている思いがが表情に出てきている。


「いやそれ夕凪さんが楽したいだけでしょ……」


 そういうと彼女はニヤリと微笑んだ。

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