第2話 覗き見、ダメ絶対
「この間はありがとよ」
中間テストを控えた五月の下旬、三年生のために用意されたであろう第二学習室で勉強をしていた時、友人であり一緒に勉強をしている
「どーいたしまして、でいいのかな。そっちから話を振ってきたからこの際聞いちゃうけど、結局あの
そう問いかけると、
なんだこいつ? 筋肉ダルマのくせに何を恥ずかしがっているんだ……まさか、あの後人には言えないようなことをしたんじゃないだろうな。いやいやそんなまさか、まさか、ねぇ? 相手はあの清楚百パーセントの
「どうしたの? すごく気持ち悪いんだけど。もしかして水柿さんに変なことでもしたの? 仲直りできたからって変なことしちゃだめだよすごく気持ち悪い」
「別に変なことなんてしてねぇよ! まぁ、なんだ、その……昔のようにとは中々いかないけどよ、すれ違ったりしたら挨拶くらいはするようになったんだよ」
「流石玄さん! 僕は君のことを信じていたよ! もうっ、まったく、思わせぶりな態度取るんだからっ!」
僕は精一杯優しい声を出して玄さんを迎え入れる。ようこそ独り身の世界へ。いや、こう言った方がいいのだろうか『おかえり』と。
「何に安心したのかは何となく察しは付くが、すげぇ気持ち悪い声出せるんだなお前……」
「気持ち悪いって言うなよ、すごく傷つくんだぜ僕は」
「お前も言っていたような気がするんだけどな、しかも二回」
玄さんはよくそんな昔のことを覚えているな。過去を振り返ってばっかりいたら前には進めないんだぜ?
僕は言葉にはしないが、肩をすくませやれやれといった態度をして見せた。
「でもよかった。あの時はいきなり玄さんを殴っちゃったけどさ、あのまま上手くいかなかったら、僕は友達を二人も失うことになっていたよ」
「まずは言葉で説得して欲しかったとは思うけどさ、結局俺はあの喧嘩のおかげでお前の本心が少し分かったようなものだからよ。だからあの喧嘩の全部が全部悪かったなんて思っちゃいねぇよ」
「良かったぁ。まぁ、終わった話をいつまでも蒸し返す事もないだろう。それよりもさ、今度の中間テストはどう? 大丈夫そう?」
「所々軽いとこあるよなお前。まぁ、
「うんうん、そう言ってもらえると僕も頑張って色々用意した甲斐があるってものですよ。中間テストが終わったらパーッと遊びに行こうね。この間のラーメンももう一度食べに行きたいしさ」
「おっ、お前もあの店気に入ったのか。大将も喜んでくれると思うぜ」
そんな事を話しながら勉強をしていると、玄さんの鞄から何かが振動するような音が聞こえてくる。多分スマホだろう。僕は確認しなよと目で促すと、玄さんはスマホを取り出し操作を始めた。まぁ、玄さんのスマホを鳴らす存在なんて数が絞られてくる。
「おやおや玄成殿。先ほどは挨拶くらいと申していましたが、話が違うのではないでしょうか?」
僕は精一杯の嫌味を声に込めながら玄さんを問い詰めてみた。
「はぁ!? な、何言ってんのかわっ、わからねぇよ。ただ、まぁ、その、何だ……ちょっと用事ができたみたいだから先に帰る。悪いな、勉強教えてもらってんのに」
そう言って玄さんは急いで片付けを始める。
「そんなに焦る必要もないでしょうに。まぁ、うまくいったら僕にも教えてね。吉報を待っているよ」
「…………おう」
そう小さく返事をして玄さんは第二学習室から退室をした。
「いやぁ、青春だねぇ。僕もそろそろ帰るとする…………ん? あれ? プリントが見当たらない」
バッグの中を確認するが、何回確認しても今日宿題で出された英語のプリントが見当たらない。
「教室に忘れて来ちゃったのかな? 面倒だけど取りに戻らないと……先生怒ると怖いし」
僕も机の上に広がっていた勉強道具を片付け、学習室を後にする。もう遅い時間だし、教室にはきっと誰もいないと思うけど、細心の注意を払って向かおう。もしリア充たちが談笑していたら、中に入っていくのは厳しいからね。慎重に慎重にだよ。
三年生の教室を通り過ぎ、自分の教室である二年二組へと向かう。
教室の後ろのドアが空いているのを確認し、廊下からゆっくりと覗き込む。
あれ? 誰かいる。
中には一人の少女が自分の席に座っていて、手元にある写真のような何かをじっと眺めていた。
あれは
くっ、後ちょっとで見えそうなんだけどな。
少しずつ体を乗り出すと、掴んでいた教室の扉からミシミシと音が鳴ってしまった。すると音に気づいたのか、夕凪さんがものすごい勢いで写真を隠し、音のなる方、つまりは僕の方を鋭い眼差しで見る。
「誰っ!?」
バレてしまっては仕方がない。僕は何でもないという態度を取りながら、なるべく目を合わせず、早足で自分の席に向かって行く。
あっ、あったよ僕のプリント。後はただただプリントを取りに来ただけという態度を体でアピールして、何事もなかったかのように帰ろう。
プリントを迅速に鞄の中にしまい、もう用はないとばかりに教室の外へ出ようとするが、そこで夕凪さんから待ったの声がかかった。
「ねぇ、坂鳥君。もしかしてなのだけれど。さっき私が写真を見ていた時、こっそりと後ろから覗いていたんじゃないかしら?」
どうやら僕のしていたことはバレていたみたいだ。僕は観念したフリをして彼女と相対することにする。
「教室に誰かいないか、確認しただけ」
「そう、ならどんな写真かは見ていないのね」
「うん、見えなかった」
「せっかく私が裸になっている写真だったのに……残念ね、坂鳥君」
「いやいや何を言っているのさ。ちゃんと服を着ていたじゃないか」
「あら、やっぱり見ていたんじゃない」
ガッデム、僕は自分の助平根性と目の良さが心底恨めしく思ってしまったぜ。それにしても純粋な僕をハメるなんて酷い女だよ夕凪さんは。
「他の人には絶対に言わないよ。ほら、僕って友達がいないだろ? 言う相手もいないから安心して欲しい」
「最近宍倉君とは仲良く話しているように見えるけど」
まぁ、同じクラスだし知ってるよね……
「そうだね。でも、こんな事を本人のいないところで言うのもあれだけど。宍倉だって友達がいないから、仮に僕が彼に話してしまったとしても大丈夫だと思うよ」
「それで私が安心できると思っているの? 残念だけど、私の頭はそこまでお花畑じゃないわ」
「じゃあ、どうしたら安心できる?」
すると彼女は腕を組み、目を瞑ってうんうん考え始める。そうやってしばらく時間が経ち、何か思いついたのか、組んでいた腕をほどいて目を開ける。
まるで今思いついたと言わんばかりの態度だが、僕には分かる。あれは予め答えが決まっている人間の顔だ。多分彼女は最初からどうしたいか決めていたのだろう。僕だったのはたまたまかも知れないが、誰かに何かをしてもらおうとは思っていたようだ。
「そうね、なら一つ相談に乗ってもらえないかしら」
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