第15話 とりあえずのエピローグ

「こうして、今回の物語は終わったわけですよ」


 僕は誰も使わなくなった資料室で、そんな事を報告していた。


「お疲れ様。いやいや、君もちゃんと青春しているんだねぇ〜。まぁ、その後熱を出して休んでたのは流石にウケるけど」


「うるさいですよ。なれない喧嘩をしたんだからしょうがないじゃないですか、熱が籠っちゃったんですよ、多分。むしろ何事もなく学校に通ってる玄さんにビックリしました」


 そう、残念なことにあの日、家に帰った後急に熱が出始めて、月曜までベッドの上で寝たきりの状態だったのだ。なんて格好悪いんだろう僕ってやつは……


「ははははは、まぁそれも青春だよ少年。ところで話は変わるけど、小鹿ちゃんっていったい誰だい? 私としてはそこが少し気になるところではあるのだけれど」


「? 小鹿ちゃんは小鹿ちゃんですよ。うちの近くにいる小学生で、たまに話し相手になってくれるんです」


「君は本当に……寂しい青春を送っているんだね」


 そう言って師匠は心底かわいそうな人を見る目で僕に語りかけてくる。ヤメテクレ、僕のライフは元々少ないんだぜ? 


「師匠だってこんなところに一人でいて、寂しい青春を送っているじゃないですか」


 そう言い返すと彼女は一瞬固まり、明後日の方向を見ながら吹けもしない口笛をヒューヒュー鳴らしている。鳴らしているという表現でいいんだよね? 呼吸音しか聞こえないけど。


「……お互いこの話はなかったことにしようぜ? 悲しみが生まれるだけだ。それより君もそこに突っ立っていないでこっちに座りなよ。立ったままだと辛いだろ?」


「大丈夫ですよ。それに、座るとなかなか帰してもらえなさそうですし」


「全く本当に、君は可愛くないねぇ。玄成君とやらに向ける友情をこっちにも少し分けてくれてもいいじゃないか。それともあれかい? 君は玄成君の方がいいのかい? このBL野郎め! 今度二人でいるところ写真撮らせて下さい!」


 師匠は頭を机に擦り付ける勢いで、僕に懇願してくる。そのあまりのスピード、キレの良さ、それに角度は、人にお願いすることに慣れきっている人間のそれだろう。彼女はいつも誰かに頭を下げているのだろうか? ちょっと心配です。


「いやですよ。それに玄さんとはそういうのじゃないですよ。ネタでからかわれるだけなら全然OKですけどね」


「まぁ確かに杞憂か。君はおっぱい星人だったもんね。ほれほれどうだい私のおっぱいは。とっても柔らかそうだろ? 何だったら少し触ってみるかい?」


 谷間を強調し、僕に見えるように揺らしてくる。これがおっぱっ……じゃない。この間言っていた勧誘するための誘惑か? そんな安い手に僕がひっかるとでも?


「…………」


「あのさ、そんなにガン見されると流石の私も恥ずかしいわけですよ」


 なんだか師匠がぼそぼそと喋っているがうまく聞こえない。ごめん師匠、僕は今すごく忙しいんだ。……あっ、見えなくなった。


「それで師匠、今日の呼び出しの理由は何ですか?」


「何事もなかったかのように話を進めるんだね」


 はて? 何のことだろうか?


「はぁ、この間の依頼、君のおかげでうまく行ったよ、その報告。で、捜査中に気になったことがあってね、まぁ写真の痕跡を探す為に色々と調べていたんだが、そしたらこんなものが出てきたのさ」


そう言って目の前に出されたのは小さなカメラらしきものだった。


「これから私はこっちの調査もしてみようかと思っているんだけど、どうだい? 少年も一緒に盗撮犯捕まえてみないかい? 捜査と称してムフフな写真が見れるかもしれないぜ?」





















「ごめん師匠、この後友達とラーメンを食べにいく約束をしているんだ」


「今五分くらい悩んでいたように見えたんだけど……まぁいいさ。こちらも急いでいるわけじゃない。興味を持ったら声をかけてくれ。話は以上だよ」


「りょーかい。こっちでも何か見つけたら報告しますね」


 そういって僕は資料室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る