第14話 坂鳥潤の自己満足 ~友達~
「いきなり何しやがる」
思いっきり殴り飛ばしたはずの
だから僕は、拳を握る。
「お前が女の子を泣かせたくせに、何事もなかったかのようにしているからだろ。それに昔みたいに話ができるようになりたいって話はどうしたんだ。あれは嘘だったのかよ。もしかして恥ずかしくってあんな事を言ったのか? だとしたら余計に笑えねぇ。そこにどんな理由があったとしても、『嫌い』だなんて言葉で遠ざけてんじゃねぇ!」
助走を付けて玄成に殴りかかるが簡単に躱され、カウンター気味にお腹を殴られた。僕はその衝撃を受け止めきれずに後ろに転がり、膝をつく。痛みで呼吸がし辛い。
「テメェに何が分かるってんだ」
追撃のため、再度玄成が拳を振るう。だけどもう、僕は油断していない。左側から来るフック気味のパンチを体をずらして躱し、首に手刀を叩き込む。流石に首は痛かったのか、玄成は苦しそうに呻く。
「分からないよ。好きな人の事を悪く言う気持ちなんて」
玄成は再度拳を握り、風を切る速度で何度も拳を振う。しかしもう、僕の目は『視えて』いる。右へ左へ最小限の動きで躱し、お返しとばかりに顔や首、鳩尾といった防御力の比較的低そうな場所を選んで攻撃を加えていく。
「悪いけど、僕の目は凄く良いんだ。だからもう、殴られてなんかあげない」
そこから先は、しばらく殴り合いが続いた。殴り合いと言っても状況だけで、玄成の拳が掠る事はあっても、致命的な一撃はまだもらっていない。反対に玄成は少しずつダメージが蓄積し、息が荒くなってきているのが分かる。こちらも体力が限界に近づいてきたので、決着を早めるために力一杯拳を握り、頭を狙った。玄成の顔に綺麗に拳が吸い込まれていく。しかし、その行動は見透かされていたのか、綺麗に決まったはずの拳は右手で掴まれ反撃をもらう。
「いくら目がよくてもよぉ、掴まれたらおしまいだよなぁ!」
必死に抵抗して掴まれた腕を離そうとするが、強く握られたその腕はピクリともしない。玄成は残った左拳を固め、僕に何度も叩き込む。意識が飛びそうになるが、それでも何かないかと朦朧とする頭の中で考える。そして、最後の力を振り絞って、足を振り上げた。
「がっ……ぐっ、そこは反則だろ」
そう言って玄成は僕の腕を離し、地べたに蹲った。体力の限界だった僕は、その横に寝転がり空を見上げた。
「はぁーはぁー……喧嘩に、ルール…なんてっ……ないでしょ」
「あるだろ、最低限は」
そう呟くと、痛みが少し引いたのか玄成も隣で横になって空を見上げた。
「ねぇ、玄さん。何であんなこと言ったの? 今思うとさ、何も理由がないのにあそこまでキツい事、言わないんじゃないかなって」
「今さらかよ……まぁ、何だ、その、俺はよ、お前に裏切られたって思ったんだよ」
突然の話に全く頭が付いていかない。何を言っているんだこのお馬鹿さんは。
「はぁ? 何だよそれ、全く意味がわからないんだけど」
「だろうな。俺も冷静になって考えたら違うかもしれないって、少しだけ思って後悔してる」
「少しだけって……状況が全く掴めないんだけど」
「お前さ、ずっと
「……気付いてたの?」
「さっき、姫子が公園に来た時に気が付いた。姫子がお前に協力してもらったって言って、それが確信に変わった。そしたら頭の中が真っ白になってよ。姫子の話も頭の中に入って来なかった。んで、考えちまった。『ダチだと思っていたのは俺だけだったのかよ』って。その後はまぁ、お前も知ってる通りだ……」
あぁそうかだから彼はこんなにも怒っているのか。悲しみと怒りがない混ぜになった感情で、こんなにも怒ってくれているのか。そして、僕のせいで、こんな結果になってしまったのか。
「本当、馬鹿だなぁ……」
しみじみ思うよ。
「ウルセェな、確かに馬鹿だったよ」
「んーん、違うよ。馬鹿だったのは僕の方。自分が満足することばかり考えていて、玄さんの事、ちゃんと考えてなかった。大切な事、言葉にできていなかったのは僕の方だったのかな。ごめんね玄さん。でも、これだけは信じて欲しいんだ。都合が良いって言われるかもしれないけど、確かに始まりは水柿さんだったけど、僕が玄さんと友達になりたいって言った言葉は本当だよ」
「分かってるよ。いや、違うな。さっきの喧嘩で分かった。気付くのが遅れちまった。…………なぁ潤、あいつはこんな馬鹿な俺を、まだ許してくれると思うか?」
「そんなのわかるわけないじゃん。でも、言葉にしなくちゃずっとこのままだよ。言葉にしなきゃ、喧嘩をする事も、仲直りをする事も、できやしないんだから」
「そうだな……なぁ、俺は今どんな顔してる? あいつに会いに行っても大丈夫だと思うか?」
顔をそっちに向けるのも辛いんだけど僕……でもまぁ
「見るまでもないよ色男。最高のイケメンフェイスに仕上がっているさ」
「そうか……すまん、ちょっと用事を思い出した」
もう動けるのか化け物め。
「いったいどんな用事なのか、僕には皆目見当もつかないのだけれど、もしもそのイケメンフェイスを冷やすんだったら、体育倉庫の近くにある花壇がおすすめだよ。きっとそこで、かわいい女の子が花を眺めていると思うから」
「悪いな」
そう呟いて玄さんはその場を後にした。
あーあ、美化運動どうするかな。とりあえず報告に行かないと。まだ少し時間があるし、もう少ししてから集合場所に向かうとするかな。
……ねぇ小鹿ちゃん
高校生なんてこんなもんだよ。癇癪起こして、突っかかって、喧嘩して。小学生の時とちっとも変わりやしない。それでもみんな、年を取っていくんだ。いつか今日の出来事も、大人になったときに思い出として語れる日が来るのかな?
なんてね
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
美化運動の報告を終えた後、すっかり帰り時を見失ってしまった僕は教室で窓際の席に座り、ぼーっと外を眺めていた。
外からは運動部の声が聞こえてくる。
「毎日頑張るねぇ、みんな」
結局、あの後二人がどうなったのかは知らない。ていうか知りたくもない。あそこまでやったのにもし仲良くなっていなかったら、僕はどんな顔して二人に会えばいいのかわからない。
まぁ、あの二人が一緒に校門を出ていく姿を見るに、決して悪い関係にはなっていないのだろう。
「二人ともいい顔しちゃって……」
さて、そろそろ僕も帰るとしますか。
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