第7話 資料室のおっぱい

 放課後、僕は玄さんのテスト対策についてある人物に聞こうと、特別棟にある資料室の扉の前に立っていた。


「師匠ー、いますかー?」


 いつものように、返事を待たず扉を開ける。


「そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ、少年」


 そこにはだらしなく机にもたれかかり、気怠そうに本を読む一人の少女の姿があった。

 その少女の髪はとても長く、艶々としていて、見る者の心を奪うような……


 とまぁ、そんな情報は正直どうでもいい。目がぱっちりしていて可愛いですねとか、左眼の下にある泣きぼくろ綺麗ですねとか、彼女の特徴を挙げればたくさん出てくる。が、しかし、彼女を語る上で一番大事なのはそんなことじゃない。


 そう! おっぱいである!


 彼女は奥ゆかしい大和撫子な雰囲気をしているにもかかわらず、まったく奥ゆかしくない二つの山をその胸に抱えているのである。現在は机にもたれかかっているせいか、あまりよく見えてないのが残念で仕方がない。まぁ、その話は置いておいて……


 この人が僕の相談相手であり、師匠と呼んでいる少女。秋雨あきさめうらはである。


 彼女は体をゆっくりと起こし僕の目を見る。あっ、見えた。


「っていうかビックリだよ。まさか少年が生徒会長に恋慕していたとはね。君はおっぱい星人だと思っていたのに……」


 どこで知ったんだこの人は。まぁ、ひそひそと話したわけでもないし、誰かが聞いていても不思議ではないか。


「本当は違うって分かっていますよね」


「でも少年は生徒会長がどんな人間かよく分かっていないんだろ? もしかしたら一目見た瞬間好きになるかもしれないじゃないか」


「それも聞こうと思っていたんですよ。師匠、生徒会長ってどんな人なんですか? 話からして胸がそこまで大きくないっていうのはなんとなく分かりましたけど」


「もう一つの話はテスト対策だよね。まぁそれについては後で話すか。そうだね赤銅(しゃくどう)君、まぁつまりは生徒会長のことだけれども、彼女は女性にしては背が高く、キリッとした眼差しが素敵な女性だよ。できる女って感じだね。しかも顔は小さいし足も長い、まるでモデルみたいな人物さ。その見た目のおかげか、男子だけじゃなく女子からも人気が高い」


「見た目の話ばかりじゃないですか。性格はどうなんですか?」


「それこそ君が噂で聞いた通りの人間だよ。知っているだろ? 彼女はね、一年生の頃からずっと生徒会長を務めているんだ。だからもちろんというわけではないが、とてもしっかりしている。勉強も常に上位をキープしているし、運動だって得意だ。学校行事にだって積極的に参加しているし、およそ欠点と呼べるものはないのかもしれないね。まぁ突っつけば少しはボロがでるだろうけどさ」


 師匠はどことなくつまらなそうな声で最後にそう締めくくる。なんだろう、欠点があったほうが嬉しいのだろうか? 確かに師匠とは違うタイプの人間だし、もしかしたら嫉妬でもしているのかな。


「ふむ、話を聞いている限り超人としか言いようがないですね。師匠と違って」


「何おう、私だって結構モテるんだぞ? ほら、赤銅君よりもおっぱい大きいし、見た目も男受けするだろ? なんだか守ってあげたくなるような、そんな儚げな美少女じゃないか!」


 ちょっと突っついてボロが出たのは師匠の方だった。なんだか楽しくなってきたからもうちょっと突っついてみよう。


「自分のことを美少女っていうのは正直笑っちゃいますけど……確かに見た目は良いですよね師匠。でもその見た目に反してそこまで勉強できないじゃないですか。それに見た目通り運動もできない。性格は捻くれてて、放課後はこんなところで一人きり本を読んでる。さっき聞いた生徒会長と比べるとちょっと……」


「ヤメテクレヤメテクレヤメテクレ。現実を突きつけないでくれよ。何?君は今日ここに喧嘩を売りにきたの? 私だって傷ついて泣く時くらいあるんだぞ?」


 彼女は現実を受け入れたくないとばかりに耳をふさぐ。若干涙目である。可愛い。


「すみません師匠。何だか今の師匠、とても可愛らしくて。ついつい意地悪をしちゃいました。許してください」


「うー」


「ほらほら、せっかくの美少女が台無しですよ?」


「で? 君は何で勉強もできない捻くれ者のボッチな私に、テスト対策なんて聞きにきたのさ」


「別に師匠に勉強法を教えてもらおうと思ってきたわけじゃないですよ~。ほら、過去問とか持っていないかと思いまして」


「そこに置いてあるプリントたちがその過去問だよ。後で持っていくと良い」


 そういって師匠は机の上にまとめられている資料を指さした。こういうところは相変わらずすごい。いつの間に用意したんだろうか。


「わーい。師匠大好きー。じゃあまた今度遊びに来ますね」


「待て待て待て待て、何早速帰ろうとしているんだ君は」


「ちっ。なんですか師匠? 何か用事でもあるんですか? 僕忙しいんですけど」


「手に入るものが手に入った途端にその態度とは恐れ入るよ……まぁ、とりあえず私の話を聞いて欲しい。というよりは見てもらいたいものがあるんだ。何、そんなに時間がかかるものじゃない。ちょっと自分の考えが間違っていないか確認したくてね」


 しょうがない。少しくらい協力してやるか……


「見てもらいたいもの、ですか?」


「この写真なんだがね」


 そういって師匠はポケットから三枚の写真を取り出し、僕に手渡す。


「うわぁ解りづらい写真。かなりピントがずれていますねこれ。ウチの学校ですか?」


「やっぱり君もそう思うかい? ちなみにこの写真。何処を撮ったものかわかるかな?」


「多分、野球部の部室と校門横にある木、それに職員室前の通路ですね」


「そうか……やはり君に聞いて良かったよ。助かった」


「依頼ですか?」


 師匠はたまに生徒の悩みを聞く、所謂何でも屋のようなことを学校でしている。結構人気があるみたいで、色々な学年から依頼が来るのだとか……


「興味があるかい?」


「いいえ全く」


 すぐさま首を横に振った。


 だって付き合ったら絶対面倒くさいことになりそうだもん。


「少しは興味持ってくれても良いのに。君の目があれば私の活動ももっと捗るんだけどなぁ。それに人気のない部屋に巨乳の美少女と二人きり。ほら、ドキドキしないかい?」


 そう言って彼女は少しだけ胸を強調する。いや少しだけ強調したつもりなのだろうが、すごく強調されているように見える。なんてエッチなんだこのおっぱい。心のファインダーに刻まなくては!


「くっ、僕は決しておっぱいに屈したりはしない」


 その言葉を聞いた師匠はなぜだか心底あきれたような表情をしている。なぜだ?


「その割には結構見てるよね君。まぁ良いや、それはおいおい考えていくから」


 おいおい考えていくらしい。どんなエッチな勧誘が始まるのだろう。もしかして触らせてくれたりするのだろうか。いやいやそこまでしてくるとは到底思えない。だけど、もしかしたらちょっときわどい写真くらいならもらえるのだろうか? くぅ、今から楽しみで仕方がない!


「君の表情を見るに、とても簡単に陥落できそうな気がするんだが。はぁ、私からの要件は以上だよ。気を付けて帰りたまえ」


「ありがとうございます。過去問も大事に使わせてもらいますね」


「あぁ、ちゃんと活用してくれ。君が抱えた問題だ、ちゃんと解決してくるんだぜ?」


 結局この人はどこまでお見通しなのだろうか。ちなみに師匠はちょっとだけ格好つける時、語尾に『だぜ』って付けるんだよね、実は僕も真似しているんだぜ?


「もちろんです。今度来るときは、いい報告ができるように頑張りますね」


 そう言って僕は資料室を後にした。


 そういえばあの人、いつも放課後あそこで本を読んでいるけど大丈夫なのかな? 受験とか……まぁいいか。

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