第5話 友達ゲットだぜ!
「勉強を教えてほしい?」
せっかくなので宍倉とご飯を食べることにした僕は、学食で話の続きを聞く。
「ああ、そろそろ真面目に勉強しようと思ってな。ほらここ進学校だろ? 今からでもちゃんとやれば結構いい大学に行けると思うんだよ。でも一年の時、全然授業に参加してなかったからついていけなくてよ。思うように勉強が進まないんだ」
学食で頼んだハンバーグ定食を食べながら、彼はそんなことを言う。ちなみに僕は弁当派で、毎朝自分で作っている。所謂弁当男子というやつだ。ご自慢の曲げわっぱからグリルしたアスパラガスを取り出し、口に運ぶ。うむ、なかなかの火加減。
「別に構わないけれど、僕でいいのか?」
「四月の小テスト、後ろからチラッと坂鳥の点数が見えたことがあんだよ。気になって何度か後ろから覗いたんだが、どれも点数が高かったからな。もともと話しかけようとは思っていたんだ」
「たまに後ろから視線を感じると思っていたが、そんなことだったのか。もしかして、体育で着替える時も覗いていたんじゃないだろうな。やめてくれ! 僕の肉体美に見とれたからって!」
「さっきからお前はどういう目で俺を見てんだよ! つか、俺の方がムッキムキだわ! お前の貧相な体見るくらいなら自分の体眺めたほうがまだマシだ!」
ちっ、ナルシストめ。確かにがっちりしているとは思うが、お前と僕とでは方向性が違うんだよ。
「まあいい、それで? 急に勉強する気になったのはいいことなのだろうけど、何か将来なりたいものでもあるのか?別に絶対に聞きたいというわけでもないけど、君がどれくらいのモチベーションで勉強しようとしているのか気になってさ。もし話してもいい内容だったら教えてよ」
「あん? うーんそうだな……お前ならいいか。誰にも言うなよ? まぁ、言う相手もいないだろうが。俺さ、実は教師になりたいんだよ」
そういって宍倉は、少し照れ臭そうに話し始める。
「俺がそんな風になりたいだなんて言っても笑われるだけなのは分かってる。まぁ自分でもそう思うからな……知ってると思うが、俺は毎日のように喧嘩ばかりしていて、授業も真面目に出なくて、教師に反抗していた。そんなことを続けていくと、ふと我に返る時があるんだ。人生つまんねぇって。それでまた苛立って、何かをぶつけるように喧嘩に明け暮れる。そんなのをずっと繰り返していた」
知っている。その頃の宍倉は、学校でも特に有名だった。
「でもある日、昔のことをちょっとだけ思い出す機会があってさ。そしたら今までの自分が急に馬鹿馬鹿しく感じたんだ。んで、すっきりした頭でこう思ったわけだ。
このまま続けていたら、俺は駄目になる。
だから喧嘩をやめた。授業にもちゃんと出て、ノートもしっかり写す事にした。そうやっていくうちに、今度は周りが見えてくるようになった」
「気付けて良かったね」
「だろ?」
宍倉は嬉しそうに笑う。
「でもな、周りが見えるようになったら、今度は自分が一人だってことを、再認識しちまったんだよ。そんな時、担任の金子先生が今まで俺にしてきてくれたことを思い出したんだ。あの人、こんな俺に対していつも一生懸命でさ、怪我をして学校に来ると、真っ青な顔して心配してくるし、授業中に寝てると、何度無視していても起こしてくる。正直ずっと煩わしかった。でも、周りを見るようになったせいか、最近やっとそのありがたさに気付くことができた。だから俺も、そういう存在になりたくて教師を目指すことにしたんだ」
一区切り話は終わったのか、宍倉は一息ついた。
「とまぁ、これが理由だ。悪いな長々と話しちまって」
「いや構わないよ。というか、誰かに話したかったんでしょ?」
「ははっ、お前は本当におかしな奴だな。まぁ、すっきりしたのは確かだよ」
「でも色々聞けたから宍倉の気持ちは理解できた。こんな僕でよければ喜んで手を貸そう。それで、どの教科が苦手なんだ? お兄さんに教えてごらん?」
「……ぶだ」
急に小声になるなよ。学食だぞここ。もう少し声を張ってくれないと全然聞こえないじゃないか。状況から何となく察したけど、念のためもう一度聞いてみる。
「えっ何? 声が小さくて聞こえなかったんだけど」
「全部だ! 悪かったな!」
「急に怒鳴るなよ。それに誰も悪いなんて一言も言っていないじゃん。僕が少しふざけたから言いにくかったのかもしれないけどさ……ほら、あまりに声が大きかったから周りの皆さんがおびえてるよ。あれ? あの女の子泣いてない? 泣いてるよね? 大丈夫かな」
「すまん……」
興奮したゴリラは、その大きな体を少し小さくして恥ずかしそうに謝ってくる。
「まぁ、そんな気はしていたんだけどね」
まったく、やれやれだぜ。
「なら聞くなよ」
「念のためだよ、念のため。じゃあもう少し突っ込んで聞くけど、一年の範囲はどこら辺まで理解できているの?」
「何とか二学期の内容が分かる程度だな。一学期の内容は、中学の復習や応用したものが多かったし、頭の中に詰め込みやすかった。今一番キツいのは数学だな」
思ったよりは大丈夫そうだな。
「おーけーおーけー。とりあえず期末テストまで一緒に頑張ろうか。僕も今まで誰かに教えたことがないんだ。申し訳ないのだけれど、勉強を一緒にするのは明日以降でいいかな? ちょっと知り合いにも相談してみるよ」
「えっ、お前知り合いいるのか?」
今日一番の表情をありがとうございます……じゃなくって
「おいおいなんだよそのびっくりした顔は、僕にだってこの学校に知り合いの一人や二人……………………まぁ二人はいるね」
あれなんだか悲しくなってきた。僕の青春ってなんでこんなに灰色なんだろう。
ちなみに一人は水柿さんのことである。いいよね? 連絡先も交換したんだし……
「いや……なんかすまん」
「君が三人目さ!」
気を取り直して僕はドヤ顔で彼に宣言する。
「お、おう」
「なんだよその返事は! いいじゃないか僕と友達になっても! 僕が友達になればあれだぜ? 自慢できるぜ? ほら、金子先生にいってみなよ、友達ができましたってさ。絶対泣いて喜んでくれるよ。だからお願い、さっき食べたお菓子の袋あげるからさ、友達になってくれよ」
「ちげぇよ……その、なんだ、面と向かって友達宣言されたからちょっと気恥ずかしくてな。ていうかよく堂々と言えるな。まぁ、友達になるのは全然構わねぇけどよ。これからも世話になると思うし。あとゴミ押し付けんな、自分で捨てろ」
やったー!
なんてニックネームつけようかなぁ~。あんまり長いと呼びづらいし、六文字以内で決めたいんだよね。多分格闘タイプだし、かっこいい名前にしよう。
そういえば水柿さんは確か……
「じゃあ玄さん!」
「玄さん?」
「そう! 玄さん! あだ名だよ、あだ名。友達になったんだ。せっかくだしあだ名で呼ぼうと思ってね。僕のことは気軽にうるみーって呼んでくれればいいから」
「その気持ち悪いテンションはどうにかならないのか……まぁいい。それじゃあこれからよろしくな
ふむ、うるみーはお気に召さなかったらしい。
「恥ずかしがり屋さんめ……よし、友達になったことだし、僕からも一つお願いがあるんだが聞いてもらえないだろうか」
「ウゼェ。まぁ聞くだけ聞いてやる」
「じゃあそろそろ昼休みも終わっちゃうから、次の休み時間でいいか? 大丈夫すぐ終わる話さ」
そう言って僕は、不適な笑みで玄さんに宣言した。
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