第4話 ゴリラとの対話
結局あの後、家で色々考えてはみたが良い案は浮かばなかった。
まあ手っ取り早いのは、宍倉と友達になることだと思っている。思っているのだが……
友達のいない僕が誰かと仲良くなる方法なんて、思い浮かぶわけがないんだよなぁ。もしそれがわかっているなら無駄にぼっちなんかしていない! 作った後のことならたくさん思い浮かぶんだけど……
例えば一緒にゲームしたり、カラオケ行ったり、ご飯食べに行ったり、好きな女の子について話したり……
あああああああああっ!
言ってて段々辛くなってきたぁあああああああああっ!
畜生! 友達になったら絶対ウザい絡み方してやるからな! 覚えておけよ宍倉!
さて、学校に来てみたは良いものの、足取りが重い。何故かって? 何故だと思う? 宍倉と友達になることばかりに囚われていた僕は、大事なことを忘れていたからだよ!
「そういえば僕、あいつにいたずらしたんだった」
先輩、事件です!
なんで今の今まで思い出さなかったのだろうか。
こんな状況でどうやって友達になるというんだ僕は……
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
戦々恐々としながらこっそりと教室の中を見てみる。よし、まだ彼はいないようだ。まぁいつも結構ギリギリに登校してくるし、そんなに気にはしていなかったけどね。何故か足の震えが止まらないのは気にしてはいけない。
僕は、素早く自分の席につき、音もなく寝たフリを開始する。ここまでは順調だ。後は彼が落ち着くまで待つことができればっ……!?
その時
遠くから
少し重みのある足音が響いた
そしてさっきまで談笑が聞こえていたクラスから、音が消える
ちっ、まさか、もうヤツが来たのか? 想定よりも何倍も早いじゃあないか。だがまだだ、まだ僕には狸寝入りという、まだ水柿さんにしか見破られたことのない必殺技がある!
「よお?」
ぴやぁあああああああああっ!
僕は石ころ僕は石ころ僕は石ころ僕は石ころ
「なぁ、起きているんだろ?」
「う〜ん。もう食べられないよぉ〜むにゃむにゃ」
コレでどうだ? 上手くごまかせたか?
「……馬鹿丸出しかよそのわざとらしい寝言。まぁいい、そのままでいいから話を聞いてくれ。俺は昨日、放課後の教室で気持ちよく寝ていたんだ。んでよ、下校のチャイムがなったからそろそろ帰ろうと席を立ったんだよな。そしたらどうなったと思う? 俺はな、うまく立てずにその場で盛大に転けたんだよ」
「ぷっ」
ダメだ僕は寝ているんだ、笑わせないでくれ。想像してしまう。
「びっくりして足元を見たら、御丁寧に上履きの紐が机に結んであったんだよ。まぁ当然、俺は誰がやったか気になるよな? そしたら近くにこんな紙が置いてあった。」
そう言って声の主は、僕の机の上にその紙を置く。
ちなみに内容は、
「『ゴリラのお兄さんへ。睡眠中、知性のない獣みたいな唸り声を出さないでね! うるみーとの約束だぞ(ハート)』ってなんだよコレ! ふざけてんのか!」
「ぶふぉ! ぶふっ、ふふっ!」
声に出して読むなよ。僕のツボは浅いんだ。
「はぁ……こういうことはもう止めろ。何か気が触ることがあったなら普通に起こしてくれ」
そう言って声の主は僕の後ろ、つまりは
宍倉が席についたのを見計らい、僕は顔をあげて尋ねる。
「怒っていないの?」
「ん? まぁ最初はイラっとしたが今はそこまでじゃねえよ。俺に対してこんなことするやつがいるなんて、逆に感心しちまったくらいだ」
もう一度言う、なんて男だ! 彼への評価が破竹の勢いで上がっていく。そんなに僕の好感度を上げてどうするつもりなのだろう。普段誰かに優しくされることのない僕は、ちょっとの優しさですぐに落ちてしまうんだぞ。まさか、僕のことを狙っているのだろうか。そうだ、そうに違いない。彼も周りの人たちに避けられて孤独を感じていたはず。そんな時に、ハートマーク付きの可愛らしい手紙が送られてきたものだから、嬉しく思ってしまったのではないだろうか。
だがしかし、これはチャンスでもある。多少僕のお尻が危険でも、なんとか繋がりを手に入れなくては。
水柿さんのためなら安いもんだ、お尻の穴の一つくらい。
「すまない。実は昨日、睡眠不足だったんだ。ここ最近猛暑が続いていただろう? だから暑くて暑くて眠れなくてさ。この時期に家で冷房を付けるのもあれだし、ちょっとでも涼しいこの教室で、夕方になるまで眠ろうとしていたんだよ。そしたら後ろから馬鹿でかいいびきが聞こえてきてさ。ついつい宍倉ビックリ大作戦を実行してしまったんだ。」
「なんだよ宍倉ビックリ大作戦って。まぁ、さっきも言ったがそこまで気にしちゃあいない。それよりも良いのかよ俺と話してて、噂くらい聞いているだろ?」
彼は周りを見渡しながら僕に告げる。彼と目があったクラスメイトは、首がねじ切れるような速度で明後日の方向を見る。
「噂ってなんの話だ? もしかして君が同性愛者って言う話か?」
「ちげぇよ! 誰だよそんな噂流したのは!」
「いや僕の勘違いだすまない」
「はぁ、話が進まねぇ……俺が気に食わない奴を片っ端からぶん殴ってるって噂だよ。」
勿体ぶっているから何事かと思ったらそんなことか。
「ああ、そんな噂もあったね」
「そんな噂しかねぇよ。……怖くないのか?」
「たしかにいい噂は聞かないし、見た目もすごく威圧感がある。傷だらけで学校に来たときは、やっぱり噂通りの人間なんだなって思ったさ。僕なんてほら、君に比べたらすごく華奢じゃないか。何かが逆鱗に触れて、その暴力がこっちに向くんじゃないかと思ったら、すごく怖いよ」
僕の話を聞いて、彼は少し諦めたようなそんな顔をする。そんな悲しそうな顔するなよ、なんだか僕が悪い事をしているみたいじゃないか。
「……でもさ、今はしていないじゃないか。だから僕は全然怖くない」
彼は目を見開く。何を驚いているのだろうかこの男は、そういえば水柿さんも似たような反応していたっけ。君たちの住んでいる地区ではオーバーリアクションするのが流行りなの?
「すまん、変な事を聞いた」
「いえいえ」
そう気のない返事をした僕は前に向き直る。
ふう、よかったぁ。何とか場を鎮めることに成功した。ナイスファイトだ僕! これで今日も何事もなく過ごせる……って違う! 元々話があったんじゃないか。このまま何もしなかったらせっかくの繋がりが途切れてしまうじゃないか。
本来の目的を思い出した僕は、再度後ろを向く。
「宍倉、さっきは許してくれて本当にありがとう。君の心意気にすごく感動した! 何か僕にできることがあったら何でも言ってくれ!」
「いや、そこまで気にする必要はないが……」
「いいや、このまま何もしなかったら、僕はきっと大切な人たちに顔向けできなくなる。何でもいいんだ、どんな些細なことでも構わない。だから願いを言ってくれ」
「いや、本当に大丈夫だって」
「そんなこと言うなよ。なんか一つくらいあるだろ? ほら、ジュースを買ってきて欲しいとか、パンを買ってきて欲しいとか、宿題写させて欲しいとかさ」
ぼくはここぞとばかりにまくしたてる。
「分かった、分かったから……少し考えさせてくれ」
そう言うと、宍倉は顎に手を当て考えはじめた。そうして少し時間が経ち、答えが決まったのか僕の目を見て口を開く。
「——じゃあ一つ、頼めるか?」
ええ勿論ですとも。
さぁて、どう話を持っていこうかな。
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