10月12日(水) JK、町に入る

 暗闇の中手を引かれるがままに進んでいくと、街はその姿を見せ始めた。ほとんどの家は電気が消えており暗かったが、街灯はちゃんとありぼんやりと光っていたためどのような街なのかは確認できた。


 予想通りというかなんというか、やはり西洋的な、ファンタジー物でよくありそうな感じの街だ。街灯に当たらないようにだけ注意しながらシャルルさんの後をついていく。


 こつ、こつとシャルルさんの靴音と私の運動靴の音がこの静かな街に溶けて消える。みんな寝静まっているらしい。


 街灯が整備されていて夜もついてるってことはなかなかに技術の進んだ所なんかな、なんて辺りを見回しながら考えた。


 建物は大体3階か2階建てくらいのものが多いらしく、ビルレベルのものは見当たらないが、なかなかに作りはしっかりしていそうだ。そして装飾が凝っている。ファンタジー物の世界そのもので……ちょっと興奮する。


「ここだよ、ここが僕の家であり店だ。どうぞ」


 そんな街を歩き、横道に少し入った所にその家はあった。見た目は木目と赤い壁のきれいな、こちらも洋風な感じの建物だった。彼が扉に手をかけ開けると、ガラガラっとドアベルが鳴り、その瞬間パッと室内に明かりが灯った。


「……おおぉ……」


「さあ、早く入ってくれるかい? ……一応ここはまだ安全だけど、ね」


 シャルルさんのその声にハッとなり、室内に上がる。……土足でオッケーだよね? 多分。置く場所ないし……ツリーハウスでも土足だったし……。


 中は木の香りがしてほんのりと暖かかった。そして色んな物がごちゃごちゃに所狭しと並べられている。……商品? 見た目は様々だが、明らかにポーションっぽいやつや杖みたいなものもある。そしてこれも装飾が派手だ……。


 あぁ、そっか、どれも大小様々な色の宝石がはめ込まれているから、派手に見えるのか。


「よっと……ただいま」


 ガラガラっという音と共に扉が閉まる。


「……え、お帰り……?」


 何となく条件反射的にポロッと口から溢れた言葉にシャルルさんは目を見開いた。そしてくすりと笑って「……久しぶりだなぁ、誰かにそう言ってもらうのは」と嬉しそうな様子だ。


 ……よかったぁ……来てすぐで何様なんだよ! とは思われてないようだ。


「それで、あの……ここにあるものは……?」


「とりあえず座りなよ。疲れただろう? ほら」


 シャルルさんは部屋の奥の方に置かれたソファを手で示した。


「あ……ありがとうございます」


 言われた通り、ソファに近づきちょこんと腰掛ける。ソファは思ったより硬かったが、気にならないくらいに足が疲れていた。ぐううっと足を伸ばして疲れを取ろうとするが、ああまずい本当にっこれは筋肉痛なるやつ……。


「ちょっと待っててね。いま疲れに効くお茶とお菓子を出すから」


 シャルルさんはガチャガチャと足の踏み場すらない中を進むと奥の部屋に入っていった。


 ……それにしても……ゴチャゴチャやなぁ。蜘蛛の巣も……部屋の隅のあちこちに貼られていて、あ、蜘蛛いるデカッ!

 掃除をあまりしていないようであちこちの物がホコリを被っている。そのせいだホコリ臭いのは。


 私は話の流れからしてここに住むことになるんだろうか……。それなら掃除もしないとならんやろうな……とそのホコリと蜘蛛の巣まみれの天井を見上げた。

 



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異世界旅行者―元関西在住JKの異世界転移― らい @rairaito

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