10月12日(水) JK、森を抜ける
シャルルさんは何の迷いもなく、ズンズンと森を進んでいく。私には同じような景色にしか見えないし、印か何かがある様子も無いんだけど……何度か来てるとかここの地形に慣れた人……?
そしてその道中話しかけてきた。
「僕は君に強くなって欲しいと言ったよね。家につくまで、それについて話そうか」
「……! はい……」
私がうなずいたことを確認して、彼は話を進める。この話は、かなり重要なものだろう。私が元の世界に帰れるかがかかってる。
「強くなるってのは、まぁ言葉の通りだね。
……身体的にも、精神的にも、これからどんな場所でも生き残っていけるように僕が瑠依ちゃんを鍛える。
その一つがさっき見せたような魔法だよ。君達はきっと興味を示してくれると思うんだけど……うん、そうだね。君たちの世界だとそういう物語もよくあったと聞いている」
魔法、その言葉に心ときめかない学生はそうそういないと思う。超がつくほどの現実主義者ならともかく、この言葉に憧れなかった子どもは居ないだろう。もちろん私も憧れた。
火を操ったり何もないとこから水を出したり、空を飛んだり。そういう現実離れした不思議な力、一時期アニメに憧れて真似して練習したことが懐かしい。黒歴史ですが!!
「私も……使えるようになるんですか?」
使えるかもしれない、という興奮より前に信じられない。
いや、魔法的な力があることはドラゴン見たり、この人が光の帯であの狼捕まえたのもお湯出したのも見てるし「百聞は一見にしかず」ってことで信じられるんだけども、私が使えるかとなると別である。
ていうか本当に今更だけどあの狼どうなったんだろう。後ろ見てないから分かんないけど息絶えた? それとも逃げた?
…………まぁ、今はいいか……。
とりあえず、魔法なんてもののあるこの世界の人なら使えるって言われても……まぁ分かる、てか見たし。
でも私は科学で進んだ、そんな超常的な力が存在しないと言われる世界の住人だ。そんな力使えたら科学者とか黙ってないだろう。
…………いつもなら私が魔法を使えるとか言われたらちょっと信じたくなるのに、妙に今は科学的に物事を捉えてしまう。
何なんやろ、これ。怖いんかな、自分の常識が全て覆されていくのが……。
だから科学っていう自分の信じる常識に縋りたくなってるのかな……なんて、やけに達観した自分も居た。
「使えるよ。条件さえ揃えば」
シャルルさんの見た目によらず低めな、でも優しい声に現実へ引き戻された。
「条件?」
「うん。ええと、魔法っていうのは正式にはマショウソウジュツって言ってね。ああ、
人の持つ力、生命力とかとは別の力を変換して、使うのだけど……まぁつまり……君の常識ではありえないことを起こせる力って思ってもらってた方がいいか。
そしてそれを使う為にはタガを外さないといけない。そのタガを外すことが条件の一つ」
シャルルさんは川を、石の上を飛んで渡りながら言う。荷物重そうだけど軽々と動いてる……すげえ。私もうなかなかに息切れてるってのに……!
私も足を滑らさないようにして後を追う。
こんなところに川があったのか……。あの小川から続いてるとかあるのかな? 全然知らなかった。
「それでそのタガを外すのは店に戻ってからするよ。
後にも言うけれど、その方法は口外禁止だから知っても誰にも教えないように。この世界の常識を変えてしまう代物だからね。
そして条件のもう一つは、感覚をつかむこと。
これは練習あるのみ! 僕が教えるから、頑張ってついてきて。……って言っても、瑠依ちゃんに無理のないペースで進めていくから、そんな神妙な顔しなくても大丈夫だよ。
あ、そこ巣があるから気をつけてねっと……ごめんね!? ちょっと遅かったか!!」
浮遊感。
川を渡り終え、斜面になっている部分を登ろうとしているとき、足場がズルっと無くなった。落とし穴のように、消えたのだ。――と、気づいた瞬間、腕を力強く掴まれ、それとは別の体が浮遊する感覚。
「歯を噛み締めて!!」
その声と同時に私の体は重力を無視して浮かぶ。何かが体を包んでいるようで、かの有名なラピュタの映画みたいに私の体は上昇していた。
その事実に驚愕すると共に体勢を崩すが無重力の様にその場でとどまっている。無重力経験したことないけど!
それはあやめも同じようで私と同じで不思議そうな顔を、いや楽しんでるのか? プカプカと浮かんでいた。
ハッとなり下を見ると、巨大な口が、私を飲みこもうとしているかのように開かれていた。
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