10月12日(水) JK、新たな地へ
「……えっと、本当に行くんですか!?」
「そりゃあもちろん。準備は出来てる? あ、そこの黒い鳥……アヤメちゃんだっけ? 彼女の方も」
修行やらなんやらが何か聞こうとする前に急かされ、なんやかんやリュックに私物(教科書とか制服も一応)詰めてしまい、今はしご前に立っているが……何だコレこっわ……!!
言うならば目の前の全てが闇だった。
カバンのあみあみポケットに、一応あの光る石の欠片入れてるから身の回りは照らせるだろうけど、それでも言い表すなら先は深淵。空だけはいつも通り満点の星がきらめいていたが、その星達は森を明るく照らしてはくれない。
……てかあれ!? いつの間にかあの焚き火消えちゃって……!!
底の見えない崖みたいだ。チラリと後ろを振り返ると、どうしたの? と言わんばかりの表情をした少年が立っていた。
……マジで? 行くの? コレを?
バサバサバサッと羽音と風圧を感じたかと思えば、いつも通り、肩にアヤメは止まってきた。
いきなりなこととその勢いに少しよろめき落ちかけたのを意地で踏ん張る。
あっぶね!?
ヒヤッと冷たいものが心臓を覆ったような感覚に、唇の端がひきつった。
「……よし、じゃあ行こう」
少年は私の隣に立つと、まるで見えているかの様にはしごに足をかける。
チョット待ってマジ!? 私まだ心の準備が……!!
てか君、シャルルさん? くん? ライト持ってないよね!? それで行くの!? 心臓に毛でも生えてんの!?
「あや、アヤメ……」
何となく共感してもらいたくてアヤメに声をかけると、彼女はスリスリと私にその体温を伝えてきた。
ねぇアヤメ……どうしよう、私もこれ行くん……?
「……ああ、そうだった! ごめんね、君には暗いよね!?」
もう闇の底に沈んだ彼の声が聞こえた。すると、ぼっと、その姿が浮かび上がる。光に照らされ……火の玉……!?
いや、違う。
ほんのりと電球のように黄色みを帯びた光の玉が、彼の周りに現れた。
幻想的なその光はふよふよとこちらに浮かび上がりながら分裂し、量を増やし、あたりに散らばっていく。
ふわんっといきなり目の前に現れて、眩しさにきゅっと目を瞑る。顔から首、腕にかけて、柔らかな熱が移動した。赤い残像の残る目で腕を見ると、あの光が私の周りをふよふよと浮遊している。
はしごの先を見れば、あたりに散らばった光がまるで……地上に星空ができてしまったかのようで、現実じゃないようで、美しくて、思わず見とれてしまった。
「とりあえずはそれで見えるかなあ!?」
下から声がして、ふと我にかえりシャルルさんの姿を捉える。
「……あ……はい!! 見えます!!」
「良かった。あ、その光は触っても害はないから安心して!
大丈夫だから、とりあえず降りてきなよ!」
その言葉にツバを飲み込み、すっと息を吸って、止めてから吐き出した。
……よし、行くぞ……!!
――――ザラザラとしたはしごを掴み、1段1段慎重に降る。
……うっ……あとどんだけあるんだ……!!
下を見ないようにしながら、手と足に意識を集中する。と、足が何かに触れた……柔らかい、土だ。
下を見るとちゃんと地面はそこにあって、やっと足をつけた。アヤメ……ちょっと今日重かったよ、もしかして太った!? あ、カラスとはいえレディにそれは失礼か……。
緊張が緩み、安堵の息を漏らす。
こんな夜に初めてだったけど、こっわ!! これまでトイレとか一晩中我慢したことあったけど正解だったわ!! これは無理!!
少し先に立っていたシャルルさんは私の姿を捉えると近づいてくる。そして、私のすぐ目の前に手をかざした。
へ!? ……何……?
「瑠依ちゃん、少しだけ目を瞑って……あぁ、いや? うん、やっぱり開けていてもらえるかな」
そっちの方が後で説明しやすくなるだろうし、なんて呟きながらシャルルさんが目を閉じた。そして、ゆっくりと開く。……何度見てもきれいな色だ。今は光の玉を反射してるのもあって金色にキラキラしている。
「瑠依ちゃん、これからかけるものによって君の目は夜を見ることができるようになる。……今から光を消すからね」
ワッと、これまであたりを飛んでいた光が消え、何も見えなくなる。
暗っ、何も見えない!!
「……落ち着いて、少しの間術式を可視化するから」
ほんわりと、人を照らせるほどではない淡い光の魔法陣のようなものが姿を表す。……少し見えるものがあるだけで、安心感が違う。あとアヤメの体温も。
「渡辺瑠依の視界の暗視化」
その言葉と共に、私の世界は一変した。
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