10月12日(水) JK、初めて人を見つける

 私は、何もできずに固まっていた。


 少年の言葉は分からないし、この状況、どうすればいいんだろ。


 少年の後ろで狼は暴れている。……当たりそうだけど大丈夫なんかな……? 危ないよ……? いや、この人が縛ったんだから実はすっごい強いとか……?


 心臓のバクバクはゆっくりと治まってくる。痛いほどだったから、少し安心だ。……それよりも。


 私は、人に会った、それも私を助けてくれた友好的な人間に。そのことに希望を感じていた。


――もしかしたら、何か知っているかもしれない。

 私を、助けてくれるかもしれない、なんて。


 言葉すら通じないんだからどうすればいいかは分からないけど。


「……えっと……ありがとう、ございます……?」


 通じるわけがないとは分かっていたが、とりあえず感謝の言葉を口にした。感謝は大事だ。

 

 その言葉を聞いた少年はハッとなったように琥珀色の目を見開く……本当に綺麗な目、なんてただただそう思った。虹彩って言ったかな、それが透き通っていて、ベタだけど、宝石みたいだ。


「――サクラ、コ……」


 一瞬、少年の口からポロッとこぼれた言葉が、まるで日本語のように感じられた。


 桜……コ? いや、ただの空耳……?


「……ッ、――――君は、日本人……?」


 ……いや、聞き間違いじゃない……!! これ……日本語だ!


「……は、ハイ……!!」


 もう反射で頷くと、少年はフッとまつ毛を伏せ、「やっぱり……」と日本語で呟いた。


 日本語が分かる……? ってことは日本人……!? 


 それとも異世界人だけど日本人と接したことがある……? 


 にしては発音が上手すぎるやんな……? じゃあやっぱり……。


 少年の容姿は日本人っぽい。と、いっても顔立ちは西洋感もある気がする……混ざってる? ハーフ?  


 肌は黄色系で、服はツリーハウスに入ってたものに近かった。


 ……もしかして、あのツリーハウスの持ち主だったりする……?


「……ごめん、突然で混乱してるよね。ちょっと待ってて、後で話すから」

 


――――なぜか、少年に先導されてツリーハウスに戻った。狼は放置の方向らしく、多分今も暴れ回ってるだろう。

 

「……ああ、食器洗ってくれたんだね、ありがとう。ちょっと待って、簡易的だけどお茶を淹れるよ」


 少年は、背負っていた冒険家っぽいリュックから何かを取り出しながら言う。乾燥した花とティーカップ。ティーカップの方はここの家具とは違い、白い陶器で金の装飾が施されていて……高そうだ。


 …………私、ええ、どうしよう……。

  

 とりあえず進められるがまま椅子に座っちゃったけど、これはどうすればいいんだろう。

 

 ……まずは、整理だ。


 とりあえず、この少年がこのツリーハウスの持ち主だってことは……ほぼほぼ確定だ。様子からして堂々としてるし、慣れているみたいだから。


 問題点はなんで日本語が分かるのか、日本人なのか、そもそもここはどこなのか。……これは幸運なことに言葉が通じるから本人に聞けばいい……と思う。どこからどう見ても……人間だし。


 ……ほんのりと香ばしいような甘いような匂いが漂ってくる。ティーポットからの方からみたいで、そちらを見て目を見開いた。――――宙から、ジャバッと水……いやお湯が流れ出ていた。そのお湯は一滴もこぼれること無くティーポットに集まり、湯気が上っている。


 …………ファンタジーだ……。


 もう、それだけだった。ドラゴンを見た時点でファンタジーなことは察してたけど、どう考えても……これ魔法だ。


 もうここまでくると色々通り越し遠い目をしてしまう。


「……はい、どうぞ」


 目の前の椅子に少年が座り、慣れたような、上品な様子でティーカップに注いでくれる。薄茶色の髪は窓から差し込む夕日に透けて金色に染まっていて……やっぱり日本人っぽくはなかった。お茶も、そんな髪色と同じ金色だ。……ファンタジーあるあるだと、高貴そうな仕草=貴族だとか、中々に高貴な人間、とかだけど服はそこまで……?


 ……あー、と……とりあえず、頂くべき……なのかな……?


「……色々聞きたいこととか、あるよね。でもその前に僕の話を聞いて欲しい」




 

 

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