10月12日(水) JK、明かりを手に入れる

 ガキンッ


 そんな音と同時に結晶が飛び散った。それは深い緑色なのに白く発光していて……割れた塊が私の足すれすれに落ちてきたので反射で避けた。あっぶね……!!


 鉱石ナイフは無事だった。割れたのはこの光る鉱石の方だ。自分でやったのに信じられなくて、その落ちた塊を拾い上げる。


 ……きれいに割れている。断面はツルツルで、より強く光を発しているようだった。模様は大理石みたいだ。手が照らされ、断面から発される光は少し眩しいくらい。

 

 覆うようにして握る。透けた肌が桃色に変わり、指の隙間から光が漏れている。明かりとしては十分すぎる代物だ。


「あ、アヤメ、できた……!」


 小声で結果を口に出すと、彼女はそれを見て洞窟の外へと早足で向かっていった。……あ、もう帰れと。

 ちょっとぐらい一緒に喜んで欲しかったなー……なんて。


 ちょっとガッカリしながらも、とりあえずカラスについていき、またあのドラゴンとの隙間をビクビクしながら抜けて、泉へ出る。空はすこし赤みがかっていた。もう帰らないとまずいな。暗くなる。


 今、明かりが手元にあるにせよ、暗い中はもちろん危険だ。野生動物が活発に動く時間帯。それに木に印をつけているにせよ、迷う確率は格段に上がる。


 足早に帰ろうと足を進めるが、ふとあのドラゴンを振り返った。


 これまでほとんど動くことはなかったあのドラゴン。だか瞬きをしている、つまり生きている。

 もうここまでくると、恐怖とかは薄れてきていた。ただ、そこに在る、そんな存在に思えていた。


 金色の大きな目は景色を反射していて、綺麗だ。そして、どこか寂しげに見えた。……私の勝手な、思い込みだな、きっと。


 視界を前へ戻して、私より先に居るアヤメを追いかける。今は時間がない。アヤメはこちらに飛んでくると、やっぱり肩に乗った。


 ……ていうか君のおかげで服濡れたからかなり寒いんですけど……。


 全身濡れたわけではないが、首元とか主に上の部分が濡れていてひんやりと体を冷やす。……今アヤメが居るから右側だけ暖かいけど。


 ……帰るか。


 私はリュックのあの側面のあみあみになってるポケットに光る石を入れると、鉱石ナイフ片手に元来た道を辿った。


 印はなかなかに分かりやすい。バッテンつけてるから間違えることも無さそうだ。


 …………てゆーか、私肉求めて来たのに……!


 今本題を思い出した。今更だ。もう大樹は見えていた。


 結果的には明かりを手に入れられてかなりの収穫だったけど……。肉ゥ……!!


 思い出してしまったことで余計に欲求が高まる。


 あの旨み、食感…………ッ別のこと考えよう……!! そう、別のこと!! 考えれば考えるほど欲しくなる!! また、また明日探そう……!! うん!


 ……そういえば、あの、ツリーハウスに鳥籠みたいなよく分からんのあったよね? それにあの石入れたらいい感じになるんじゃ……?


 なんて、そんなことを考えながら草をかき分け歩いていると、ガサガサガサッなんて、そんな凄い音がした。


 ……何かが、向かってきてる……!?

 

 そう気がつくのが早いか、アヤメが大声で鳴く。カァァァァッと声が森に響き渡る。ナニカが、姿を表した。


 巨大な……狼!? 


 白い狼だ、と気がついた瞬間、ソレは私に迫り飛びかかってきた。あぁ、ここで死ぬんだ、なんて、心臓が縮む。


 瞬間。


 誰かの声が響いた。


「――――――――!!」


何を言っているかは全く分からない。異国語? だ。

 だがその言葉と同時に細い光の線のような物が何本も白狼へ向かって伸び、その体を拘束する。一瞬の事だった。誰かが私の前に姿を表す。暗いのに、その光の線に照らされキラキラとした薄茶色の髪が印象的だった。


 光の線に縛られた白狼はもがき、暴れているが、手足が動かないため転がることしかできない。唸っている。


「―――――!?」


 私を助けてくれただろう同い年位の少年は、こちらを振り返ると目を見開いた。その色は琥珀色で綺麗だった。


 そして、アヤメが肩から飛び立つ感覚。


 途端に体が温もりに包まれる。――――抱きしめられた、そう気がつくのに時間はかからない。


「……!?」


 もちろん驚いて、反射的に押し返す。その拘束は簡単に解けた。少年のお香のような、そんな香りが体から離れていく。

 

 ……わけが、わからない。


 少し思考が落ち着いてきて、やっと回ってくる。


 私、助けられ、え、抱きしめ……られ、た……?


 本当にわけのわからない状況だ。私がこの世界で始めて見た人間は、コチラを見て、ぼーっとしている。


 ふと、ハッとなったかと思えば、何かをまた喋り始めた。その後ろではまだ白狼はこちらにも被害が及ぶのではないか、ってレベルで暴れている。 


「―――――!」

 

 その言葉は、異世界だから当たり前だが日本語ではない。英語とかでもなさそうで……全く分からない未知の言語。


 何か必死な感じだけど……分からない。

 ……てか、なんで私抱きしめられ……そういう文化!? 海外の挨拶はハグとかそういうノリ……!? この状況で……!?

 

 白狼に襲われかけた、ということもあり心臓はバクバクバクと壊れるんじゃないかってほどに脈打っている。


 ふと、肩から無くなった重みに意識が向いた。


 ……ッアヤメは!?


 空を見上げると、よかった……。アヤメは木にとまって、私達のことを見つめていた。私の視線に気がつくと、肩にとまりにくる。重さが戻ってきたことに……少し安心した。


 

 

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