10月12日(水) JK、叱る

「アヤメ、火傷でもしたらどうすんの!? それにあれアヤメも危なかったんだからね……!?」


 ドラゴンが怖くて大声を出さずに、てか出せないのだが、それでも必死に叱るとアヤメはシュンッと項垂れた。その姿を見てため息をつく。


 ……アヤメ、これまで全然悪戯イタズラとかしてこーへんかったけど、てゆーかむしろ手伝ってくれてたし。でも遊んでほしかったんかなぁ……。それならそれで場所選んでほしかったけど……。


 ションボリする姿に怒りはどこかに行ってしまい、罪悪感すら湧いてくる。


 あー……強く叱りすぎたか? これまでアヤメに対して怒ったこととかないし、ショック受けてるんかなぁ……。


 ウッ……凄い罪悪感が……。


 ……そうだよな、アヤメは構って欲しかったんだよな。私自分のことに精一杯でアヤメのことあんま考えてあげれてなかったかもしれん。

 いつも付き合ってもらってばっかで、助けてもらってばっかで、私からあげれてるものなんてほとんど……。


「ご、ごめんね……? ちょっと強く言い過ぎた。アヤメはいつも頑張ってくれてる、だけどちょっと悪戯したくなっただけなんだよね……? ごめんね……?」


 そう言いながら控えめに頭を撫でる。わ、割と肌触りいい。


 アヤメは少しこちらを向くと、気持ちよさそうに目を閉じた。…………クッ、可愛い……。


 ほんとに人生何があるか分からない。私がこんなにカラスを可愛いと思うだなんて……。


「……じゃあ、もう帰ろっか。てゆーか今何時……て、わからないんだっけ……」


 時計が無いのはほんとに不便だ。スマホはあるけど充電を減らさないように極力電源OFFだし……。

 もしもの時のために、充電は少しでも残しておきたいからね。


 もう帰ろうと声をかけて立ち上がろうとした私のびちょ濡れの服をアヤメが引っ張る。


「ぅえっ、何……?」


 突然の行動に驚く。

 アヤメは私を引っ張ってどこかへ連れて行こうとしてるみたいだった。……圧倒的に力不足だけど。


「……今度はどこ行くんや……」


 私は一応、渋々といった感じでついていく。時間帯が分からないから今太陽がどこにあるかぐらいは外出て確認したかった。

 

……アヤメについていった先にあったのは……鉱石?


 あの光る鉱石をアヤメはつついている。これに何かせえと?


ぴとっと触る。……ひんやりとしてて、熱気のあるこの洞窟内だと心地いい。少しこの熱気にのぼせかけてたから。

 頬をつけるとひんやりとした石肌の感触。……冷た……気持ちいー……。


 ……でも、この石がどうしたんだろ。


 アヤメはまだ鉱石をつついていて、何か言いたげな目でこっちを見ていた。


 ……光る鉱石……光る……明かりにはなるよなぁ……。


――――もしかして、明かりとして持ち帰れってこと……?


 いやいやいやいや、無理だろ!

 

 相手は鉱石である。もちろん硬い。そんな簡単に手に入るわけが……。


 このカラスは私が察したことに気がついたのか、今度は私の手に持つ鉱石ナイフをつついてきて………ちょっ、危ないって……!


 アヤメがどこか切りそうでスッと背中に隠すが……まさか……これを使えって……?



 なんてこと言うんだこの子は。

 鉱石VS鉱石。下手したらこちらの鉱石ナイフが使い物にならなくなる。


「え、マジで……? マジでやれってこと……?」


 アヤメはじっと見つめてくる。ねぇ、マジで……?

 もともとない語彙力ごいりょくがさらに無くなってるのが分かる。

 けどこの選択はそうなるほどにリスキーだ。


 ……このナイフはまだまだ使い道がたくさんある。何より折りたたみナイフよりずっと切れ味がいいし頑丈。相当な品物だ。

 これを……?


 かなりの賭けである。もし成功したら私は明かりを手に入れられるが、失敗したら……。


 ………………いや、アヤメが言うんだ。大丈夫。……多分。


 これまでアヤメの行動に従ってきて、一度も悪い結果になった覚えがない。さっきは悪戯されたけど、アヤメはこういう大事なときにはキチンとした行動をしてくれる……はず。


 私は片手は光る深緑の鉱石に、もう片手には鉱石ナイフを持つ。ナイフの先を鉱石に当ててから――――思いっきり力を込めて振りかぶった。

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