10月12日(水) JK、冒険する

 森の中は鬱蒼と茂り、なかなかに暗い。今は木漏れ日があるから大丈夫だが、しばらくして日が沈むと何も見えなくなるんだろうな、なんてことは容易たやすく想像できた。

 

 そんな中、肩にあるずっしりとした重みが、耳に当たるふわふわとした感触がどれだけ心強いか。


「アヤメ、ほんとにどっか行かないでよ」


 そう言えば、アヤメは当たり前とでも言いたげなムッとした視線を送ってきたので安心してちょっと笑った。


 ……鉱石ナイフで木に印をつけながら進む。これが迷わないために私が考えた方法だ。


 縄で迷子にならないようにする方法はどこかで聞いたことがあるが、それにはとてつもなく長い紐が必要だ。そんな物を私が持っているはずがない。


 そしてヘンゼルとグレーテルみたいにパン……は無いし絶対に食べられるので絶対に食べられないあの毒のある木の実を撒いていこうかな、とかも思いついたが個数がそこまで無いため奥までいけない。


 そこでこの方法を思いついたのだ。私天才だと思う。……ごめんなさい、嘘です私は凡人です。これで私が天才だとしたら世の中の本当に天才と呼ばれる人達は何と言えばいいんだ。超天才か? なにそれダサァ……。


 自分のネーミングセンスの無さに少ししょげつつ奥へと進む。ふと後ろを振り向くが、そこにはどこまでも続きそうな森が広がっていてもうあの大樹は見えない。


 ……行かなくちゃ。


 戻りたくなる衝動を抑えて、私は足を進めた。


 ……肉を食べたいってのはどうしたんだ私、ここで諦めたらこれまで歩いてきたことが無駄になるじゃん。

 

 すー、はー、と深呼吸をする。うん、私は大丈夫。


 そうしてもっと奥へ奥へと進んでいった。








――――しばらくすると、開けた場所に出た。


 あの大樹周りより少し狭いスペースの中にキラキラと日の光を反射する綺麗な泉がある。泉の奥には大きくポッカリと口を開けるように洞窟があって、だけど鍾乳石みたいなものがたくさんあるその洞窟は何故か明るくて神聖に感じた。

 

 ……きれい、そう息を呑んだ。


 苔むしたこの空間はとても空気が澄んでいるようで、ひたすらに心地がいい。水を含んだ苔が雫を垂らすたびにきらりと光り、ぽちゃんと水音をたてる。木漏れ日が優しくて、私は思わずアヤメの方を向いた。


「アヤメ、綺麗だね」


 感動を誰かと共有したかったのだ。


 アヤメはそんな私の心情を知ってるのか知らないのか、肩から降りてスタスタとどこかへ向かっていく。


「ちょっ、アヤメどこいくん!?」


 もちろん追いかける。これでもしアヤメが居なくなってしまったら……なんて考えると泣くどころじゃすまない。それほどまでにこの子の存在は私の中を占めているのだ。


 アヤメの黒い体を追う。どうやら泉を周って……洞窟へ向かってる……?


 なぜそんなことをするのか分からないが、この子のやることはだいたい良い結果をもたらしてくれる。今回もなにか考えがあるのかな。


 洞窟の前につくと、アヤメはあるものの前で止まっていた。


「…………丘……?」


 洞窟の口を塞ぐような丘がそこにあった。……と言っても丘にしては随分と歪だ。頂点に近い場所は草が生えているが、下へ向かうたびにその表面は何というか、ゴツゴツとした茶色い岩みたいな……だけど均等だからウロコみたいな…………ウロコ


 私はなにか、とんでもない事に気づいてしまいそうな気がした。悪寒が走り抜ける。


 ……いや、気づいてしまった。


 私はただ呆然と丘を見上げる。


 アヤメがつんつんと私をつつき、私はアヤメを目で追う。するとアヤメはあるものの前で止まる。

 

丘から突き出すような長い……ゴツゴツとした……

  










「ドラ……ゴン…………」


 思わず口に出してしまった、口に出したくなかった事実。


 その綺麗な金色の双眼は真っ直ぐに私を映していて、逃れられない、なんて悟ってしまった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る