10月5日(水) JK、初期地点へ戻る

――――あの後トイレ周りや大樹の周りをくまなく調べたが、どうやら部屋はここだけのようでこのトイレ以外何も見つからなかった。「……チッしけてんな」……あ、思わず本音が……。


 こ、こんなこと私が本心で言うわけないじゃないですかーあはは!

 ね、だからアヤメ、そのゴミクズを見るような目はやめてくださいキズツキマス。


 アヤメの目が私の言葉と同時に冷たい目に変わった気がして普通にショックを受けた。いや、口に出したのが悪かった。心に留めておくべきだった、なんて後悔。


 ……でも、他にもなにか生活に役立ちそうなものがあったら良かったのになぁ、なんてちょっと残念な気持ちがあるのは本当だった。


 ……あ、でも鉄製のバケツみたいなものが部屋の隅に積まれてた。持ち手は木製で、形はよく見るやつ。サビは少なくて普通に使えそうだ。

 もしかしたらこれで水を沸かしたりもできるかもしれない。

 

 これで沸かせられたら料理とか生活の幅が増える。それは素直に嬉しい。


 ま、増えたとしてもしばらくは果物生でかじっとくつもりなんですけどねー。料理なんてまだまだ先のことだ。


 ……あ、べつに料理できるからね? できるけど今はそれより現状把握をしておきたいってだけだからね? ……ほんとに一体誰に弁解してるんや私……。


 やっぱり相当キてるらしい。まぁ、この脳内トークって精神的に落ち着くし、他人にバレなければしてないと同じなんだから良いとは思うんだけど。特に緊張してるときとかね。


 大樹をあとにして、今度は私が初めてここに来た位置を探そうと大樹との距離を目で図りながら探していた。リスポーン地点……じゃないか、ここは現実、リスポーンなんて都合のいい世界じゃない。……じゃあスポーン地点?


 スポーン地点を探さないといけない。


 ……だいたいここらへんか? 


 一昨日見た景色はもうすでにおぼろげで、私に瞬間記憶能力があったらいいのに! なんて思ってしまう。あ、瞬間記憶能力もいいけどカメラアイって言ったほうがかっこいいかな!?

 なんて、若かりし頃の(といってもたった四年前の)中二病が疼いてしまった。もう卒業できてると思いたい。


 うーん、やっぱここらへんだ。


 おぼろげだが、たんぽぽみたいな葉に鈴蘭みたいな花の咲いた草があったはず。それがここら近くに群生っていうのかな、してるみたいで多分ここ。

 

 あ、そうそう、この金の花粉飛ばす百合っぽい花もあった!

 やっぱりここだ!


「アヤメー」


 呼んでみるとアヤメが草をかき分けて近づいてきた。草に隠れて見えなかったがそこに居たのか。

 

「アヤメは何か分かる? 帰るための手がかりが欲しいんだけど……」


 丸投げ、完全に丸投げだ。

 

 先程のドアの件もあり、私の中でアヤメに有能というレッテルが貼られていた。

 

 いやだって、ここ変な草生えてるだけで普通の草むらにしか見えんし……。


 しっかり調べてはいる、そう調べてはいるのだ。

 ……だがしかし、何か気になるものがあるのかと言われれば無いといえる。

 魔法陣的なものが描かれてたり、変な機械が見つかったりとかそういうこともない。


 アヤメに困ったような顔を向けると、アヤメはコテッと首を傾げた……ように見えた。実際は体ごと傾けている。

 

「……そーかぁ……お前も分からんかぁ……」


 アヤメも分からないとなればお手上げだ。「じゃ、戻ろっか」なんて声をかけてツリーハウスへと戻っていった。


 ほんとに残念だ。何か見つかるかもって思ったのに……。

 

 


 

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