10月5日(水) JK、水車を調べる

――――食料の採集、ほぼ修行だろっていうような苦行の沐浴を終えた私は水車周りの探索を始めていた。


「んー……」


 大樹の木漏れ日を浴びながら、水車周りをじーっと眺める。


 水車は大樹にくっつくように設置されていて、小屋とかそういうものはない。じゃあ、一体なんのための水車なんだ……?

 

 ……水車というものは基本的に小麦をひいたりする為の物だったはず。私一時期、異世界物にハマってて中世ヨーロッパあたりの生活とか調べまくってたから分かる。


 ……ちなみにですが奥様、中世ヨーロッパとかって物凄く華やかなイメージがあるけど、衛生環境最悪なんですって! 路上に自分の排泄物を投げるのは当たり前、ヒールはそれを踏まないために履いてたとか! それにドレスは野グ……これ以上は止めとこうか。てか誰に話しかけとるんだ私。


 ……そんなことはさておき、この水車がなんであるか考えよう。


 ……景観を整えるため……? いやまさか、それだけのためにこんな森の中に建てるとは思えない。


「ねぇ、カラ……そういえばお前、名前つけてなかったっけ」


 カラスの方を見る。カラスはピタッと止まり、ただ私を見上げていた。


 名前ないと不便だよなぁ……。


 私にとってこのカラスはもう同居カラス認定を受けている。ペットじゃなくて同居カラス。これ大事。

 助けてもらってるし、ペットだとなんか私が無理やり押し付けてるみたいでやだし。


「ん……」


 カラスをまじまじと観察した。


 カラス嫌いの私が、まさかこんなにカラスをまじまじと見る機会があるとは思ってもみなかった。


 ……よく見るときれいな羽してるな。


 夕方、住宅地で見るカラスはドス黒い恐ろしい色をしていると思っていたが、よく見るとその羽は黒だけではないことに気がつく。


 ……これが濡れ羽色ぬればいろってやつか。


 黒の上に紫色の光沢が艶々と浮かんでいる。


 ……烏の濡れ羽色、聞いたことがあるがキレイだと思うのは初めてだ。カラスが嫌いだったから、しっかりと見たことがなかった。たしか、日本人女性の髪の色の理想美だったっけ?


 嫌いな割にはよく知ってんなとか思うだろうけど、私いらない雑学はいっぱい持ってるんです。頭はそんな良くないけど。

 ……まぁでも、そのいらないはずだった雑学が今は凄い生きてるんだから、人生何があるかわからんもんねぇ。


 ……カラスを眺める。名前の簡単な付け方は見た目からつけること! 

 意味があるのは大事だけど、今は漢字辞典とかネットで名付け用サイトに行くこともできないし。


 ……あれ、そういえば。

  

「お前、性別どっちなん?」


 ……根本的に、この子オス? メス?


 カラスはじっと見てくる。いや、見られても困(こま)んだけど……まぁ、喋れないから仕方ないか。


「……えっと……オス?」


 カラスは動かない。


「じゃあメス?」


 コクっと頷いた。


 あ、メスなのか。


 ……んー、メスかぁ……。


「アヤメ、アヤメでどう?」


 なんとなく浮かんだ紫の花の名前をテキトーに出すと、カラスはコクっと頷いた。お、一発オーケー、気に入ったのか。そりゃ良かった。


 まさかこんななんとなく出した名前を気に入ってくれるとは思わなかったけど、まぁ気に入ってくれたなら問題は無い。


「じゃあアヤメ、お前は何か気づいたことある? この風車が何のためにあるのか知りたいんだけど……」


 ま、私に分からないんだから分かるはずないかぁ、カラスってたしか4歳児くらいの知能だったはずだし……なんて思いながら問うと、カラスは大樹の方へバサバサバサッと飛んでいった。


 あれ、この反応……。


 私はアヤメについていき、大樹の幹の前で止まる。


「アヤメ、ここに何かあるの?」


 アヤメはつんつんと大樹の苔(コケ)をつついていた。別に食べてるわけではなさそうで、何かアピールしているみたいだ。

 

 だから私もペタペタと大樹に触れた。苔ですごい弾力というか、モファモファしてるというか、特に何もないような気がするんだけど……。


「……あれ?」


 触っていると、取っ掛かりを感じた。……輪っか? 指をねじ込んで苔から輪っかを無理やり引き出す。……もしかして。


 輪っかを思いっきり引っ張ってみる。すると、ギギっと音を立て、苔が破れて扉が開いた。


「扉……!?」


 アヤメ、よく気づいたな!? 


 アヤメの方を見ると、このカラスはいつも通りの無表情でこちらを見ていた。ただ、表情はないが、入らないの? と聞いているように感じた。


 は、入るけど……。




――扉の先を覗く。


 明かりはなくて暗いけど、この形、見たことがある。…………木製だが、これはきっと洋式トイレ。




 トイレあったんかよぉ……!! なんて、昨日のことを思い出して泣きそうになった。


 私女子高校生の尊厳捨ててまでしたのに!! したのに!! こんな近くにあるなんて!!


 うあぁぁ、なんで気づかなかったんだ! なんて後悔する。

 

 ……いや、逆に考えるんだ。そう逆に。


 まだ小の方だけで済んだから良かったと考えよう。大の方だと本当に私のそんげ……なんかこんな事ずっと考えてる私気持ち悪いな。忘れよう。


 ……ていうか本当にトイレだよな。形は角ばってるけどまんまトイレの形だし、流す用のレバーもあるし。


 試しに鉄のレバーを押すと、ジャーと水の流れる音がした。あ、これレバー上げないと流れっぱなしになるやつだ。

 レバーを上げなおすと水が止まる。

 

 よし、これでトイレ問題は解決かな……。


 ……でもこのトイレ電気なさそうだし夜は怖いなー……。基本的に日が沈む前に使うことにしよう、そうしよう。


 上を見ると、よくある木が腐って空洞ができてしまった、みたいなそんな感じの空間を改造したらしいと分かる。床はあるけど壁や天井? は改造してないようだ。そして天井? から、ツリーハウスにもあったような鳥籠のようなものがぶら下がってた。

 

 ほんとにこれ何に使うんだろ……?

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