10月4日(火) JK、アイツと再会する
「ヒィッ!」
思わず声を出し、のけぞる。
手からあの実が地面へ落ち、土の上にいたコオロギのような虫が狙っていたかのように食いついた。
……そして、私を見つめる真っ黒な双眼。そう、あの全く心の読めない…………アイツだ。
あの、カラスだ。
その尖った足で手を叩かれたからか、そこそこ痛い。バサッと羽で顔に空気を送られたさっきの感覚が今も残っている。
な、なぜ……!? なぜここにあのカラスが……!?
……カラスは物言わぬ目でこちらをジッと見つめていた。
このカラスは、割と遠くに飛び去っていったはずだ。なのに、なぜ戻ってきた……!?
……まさか、この実の匂いに釣られて……?
ちょっ、ダメだからね!? これ、私の食料(予定)だからね!? やらんかんな!?
ハッとなり、カラスに取られる前にと赤い実に手を伸ばす。すると……
バサバサバサッ
「イテッ! いててててっ! ちょっ、何すんの!?」
また手を叩かれたと思うと、今度は顔あたりで羽をバサバサされる。抵抗しようと手を振り回すが、見事に避けてやがるコイツ……!!
そして、やっとやめて地面に降りたかと思うと、私の足をつつく。
「だから何!?」
もう恐怖よりも怒りの方が
あのコオロギみたいな虫が、あの赤い実の上で転がっていた。それも、いつの間に
……その逆ハート型の実には、かじられた後。
「…………毒……?」
私がカラスの方を向くと、カラスは頷くかのように首を上下した。
…………じゃあこのカラス……
「私を……守ってくれたの……?」
カラスはまた首を上下して、確かに、頷いた。
…………このカラス、やっぱり私の言葉が分かってるみたいだ。
え、なんで言葉分かんの? なんでその実が毒って分かったの? とか疑問は尽きないが、今は異世界に来たから? 野生の勘? ってことで無理矢理納得しとこう。今は考える時間が惜しい。
「……あ、ありがとう……? ど、怒鳴ったりしてごめん……ね?」
とりあえず困惑気味だがお礼を言う。礼儀大事。
……だけど、まさかあのカラスと意思疎通できるとは思わなかった。
あの夕方アホみたいにカアカア言ったりゴミ漁っとったりするカラスと意思疎通できるとは……
カラスは私のその言葉を聞くと、ふいっと顔の向きを変えて飛び立つ。そして、少し進んだ木の上からこちらを振り向く。これは……着いてこいってことっすか……?
私は、さっき放(ほお)ったナイフを回収すると、恐る恐るカラスに着いて行った。
……こんな状況、誰が想像できただろうか。
目が覚めたらそこは異世界で、あるのはツリーハウスのみ。人は居ない。生きていくにはサバイバルするしかなくて、魚を獲ったり
我ながらめちゃくちゃな状況だな、と苦笑いをする。脳内は白目をむいていた。
……このカラス、いったい私をどこへ連れて行く気なんだ……?
後ろを振り返ると……大丈夫。まだ大樹が見える。
視線を前に戻すと、カラスは木から降りていて、小さな木の前でとまっていた。
「……この実……?」
その小さな木には、5つくらいマンゴーみたいな色の実がついていた。形はザクロに似ている。
「この実は……食べて大丈夫なの……?」
カラスの方を向くと、首をブンブン振って頷いている。お、おう……。ちょっ、君頭振りすぎじゃね、大丈夫?
カラスの同意の激しさにちょっと引きながらも、1つもいで鼻へ近づけるが……匂いはない。しいて言うなら、植物っぽい臭い。甘くはなさそうだが……まぁ、色は綺麗で美味しそうだよな……?
……まぁ、それを言っちゃあ、さっきの実はいい匂いしてなおかつ綺麗な色だったけど、だけど毒だったんだよなぁ。
産毛の生えた皮である。爪を使って皮を破ってめくる。すると……
「……うわぁ……!」
ふんわり、甘い香りが漂った。皮の下には橙色のツヤツヤした実。あまりにも美味しそうに見えて、かぶりつく。
すると、口の中に広がるフルーティな甘み。なにこれ……!! めっちゃ美味しい……!!
ほっぺがとろける美味しさである。
果肉はジューシーでパパイヤに似てる。味は少し独特だがかなりフルーティ、そしてとにかく甘い……!!
……あっ
私はもう一つの実をもいで少し皮をめくって地面に置く。
「えっと、お前も食べる……よな?」
カラスは少し固まったあと、近づいてツンツンとつついて食べ始めた。……あ、やべ、ちょっと可愛いかもって思っちゃったかも。やべ。
我ながらめちゃくちゃチョロいと思う。
「ありがとうね……? こんな美味しい果物のある場所教えてくれて」
果肉を飲み込んで、お礼を言う。
ツリーハウスの時はどっか行って、みたいな感じで拒絶しちゃったが、もうなんか……少し愛着が湧いてしまった。
……本当に私チョロいな。手のひらクルクルーだもの。
カラスは私の目を見つめると、次は別の場所へ向かおうとする。
「あ、ちょっと待って、この実全部収穫してから行くから!」
私は急いで全部の実の茎を捻り切ってリュックへ放りこむと、カラスの後をついていった。
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