10月4日(火) JK、思考する

 ……んー、まぁ、味は……ビミョーだったけど、でもまぁお腹は割とふくれたことですし、探索するかぁ……。

 

 目の前には綺麗に骨だけになった魚と、まだ燃え続ける火。あの食べ終わったガムについては焼却処分いたしました。

 

 ……探索する前に、この火どうしよう。……消す? 


 恐ろしい発想が頭に浮かんできて、ぶんぶんと首を振る。


 やだ、やだやだやだ!! 


 無理! 絶対無理!


 残したい!!


 この火は私が必死で付けた火。


 もう一度あれをするなんて考えたくない。てか手がもう限界です。これ以上やると血が滲んできます。

 

 痛いから、とかそれもあるけど、何より止血する布がない。服を破ってとかはあんまりしたくないし、ハンカチも今使うのはちょっと……。血だから水洗いじゃ落ちないし……。


 私の意志としては、火は残しておきたかった。


 だが


 ……消さないと山火事の恐れがあるのだ。


 一応、何故か草の生えてない大樹の幹の近く、土の上で火は起こしている。幹の近くといえど、凄い近いわけでもない。

 少なくとも火の粉が飛ぶ心配のない距離だ。

 

 ……つけたまんまにする?


 …………こんな時、昔の人はどうやってたんだろう。


 少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。学校で暗記させられた徒然草の一文を思い出す。


 激しく同意。本当に昔の人の教えが欲しい。

 

 ……いちいち自分でつけてたんかな。それともどこかで火をつけ続けてた?


 分からない。そんなこと学校でも習わないし、自分で調べたこともなかった。


 …………残しておこう。


 火は風で消えるかもしれない。雨が降るかもしれない。燃え尽きるかもしれない。そういう自然的な理由で消えたらその時だ。

 ……ただ、自分で消すのはなんだか……嫌だった。


 火もろくにつけれない自分は、とても弱い。

 

 ……そんなこと言ったら、サバイバル環境で自分の力のみで火をつけられる人間が、科学と電気に頼りっきりの日本人の中にどれだけ居るのだろう、って話になるが、まぁ少ないだろう。


 ……私だって、普通にあのまま生きていられたら、こんなことに悩まず、普通に、当たり前のように食にありつけたはずなのだ。


 大人になったとしても、なんとか生きていけただろう。

 少なくとも、こんな一寸先は闇とかお先真っ暗、みたいな状況じゃない。


 ……今更こんなことを考えても遅いか。


 何度も似たようなことを考えちゃってる。だけど、本当に今更なのだ。こんなことをずっと考えてたって時間の無駄。


 今は、目の前のことに集中するべきだ。この生活はとても幸せなものなんだ、なんて家に帰ってから考えればいい。

 

 ……一応、火が燃え移ったら消せるように水筒を常備しておこう。


 まずはツリーハウス内を探索。ある程度はやったはずだけど、タンスとか触れてないし、そして何より衣服が欲しい!


 今の私は体中汗の臭いがする。あの独特の臭い。

 本当に気持ち悪い。沐浴ぐらいならできるかなと思ったんだが着替えがないとそれもできない。


 また同じ制服着るのもなぁ、って感じだし……。


 まぁ、最終手段としてはそれを選ぶんですけど……。

 

 だから、目的は衣服を見つけること。男物でもただの布でもいい。どうにかして服を見つける。沐浴する!


 で、その後はこの周辺の森をちょこっと探索だ。


 迷わないようにこの大樹が見える距離で。……と、言っても迷うほど深く進めないだろうけど。


 体力を考えると、そんなに探索だけに時間を割いてる隙はない、と思う。

 お昼ご飯も夜ご飯もいるし、あくまで目標だ。


 ……お昼ご飯どうしよっかな、またあの魚捕まえる? それとも果物でも探そうか。それか木の実とか。縄文人スタイルでいきましょうかねぇ……?

 

 ツリーハウスのはしごに手をかける。後ろを振り返ると焚き火はまだ元気よく燃えていた。……そういえば、あの枝あんまり焦げてないよな。燃えにくいのかな?


 あんまり木を燃やすという経験がないから分からないのだが、枝の燃えるスピードがかなり遅い気がする。……と、いっても火は割と大きいけど……。


 ……まぁ、こちらからすると好都合、かな?

 いちいち木を補充しなくてもいいなら楽だ。


 そう、ポジティブに考えよう。しっかり考えてもここは異世界、私の常識が通じない可能性の方が高い。

 

 私は脳内から疑問をほおって、はしごを登り始めた。


 

 

 


  


――――「……もしかして、これ、服……?」


 結論から言うと、タンスの中には衣服が入っていた。 

 と、いっても全体的に、そこまで質が良さそうには見えないが。…………うん、着方は大体わかる。


 木や木の実? のボタンつきの服もあれば、紐を通せる服もある。下はズボン、あ、スカートもある。


 ……やっぱり中世前半のヨーロッパ的な世界観なの? それともRPGみたいな感じ……? いや、ファンタジーな世界観ってことは分かったけどさ。

 

 ……とにかく、私の着れる服がある=人間がいるってことだもんね。それが分かって安心した。

 もし、これが化物の家だとしたらたまったもんじゃないし。

 ……いや、もしかしたら人型の化物の可能性も……か、んがえないようにしよう……うん。


 とにかく、これで沐浴はできるわけだ。やった!

 

 

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