10月4日(火) JK、やっと火を起こす
ウオォォォォォッ!
脳内で上がる雄叫び。
私は木に体重をかけるようにしながら、あの硬い枝をより合わせる様にして枝にこすり付けていた。
ヤッバイ、これ割とキツい……!
お腹辺り、そして腕、筋肉が悲鳴を上げている。息がもう荒い。
もうきっと十数分は経っているだろう。
こちらは必死でやってるのに、少しの煙も出ないのはどういうことだ……!
「……あっ!」
…………なんて、煙について言及した途端、ほんのり板に灰色のモヤが。
……これは、もしかして……!
私はもっと気合を入れ、腕を動かす。
悲鳴を上げている腕を無理矢理に、だ。
明日、早ければ今晩にでも筋肉痛に苦しんでいることだろう。
板の方、擦ってる部分から円状に黒く焦げているようだ。
努力の末あって煙の量も多くなっている気がする。
「……ぁ!」
焦げた部分から、小さな火が顔を出していた。
棒を離し、消えないように手で、体全体で風を遮る。
必死。
当たり前だ。これは私の命と同じ。そうだ、命の火だ。
これが消えてしまえば、私は多分、この先生きていけない。食中毒か何かで真っ先に死ぬ。確信できる。
……それに今思い出したが、火に野生動物は近づかないという。これからの生活に火は必要不可欠。
絶対に、死守しないと……!!
そんな私の想いが届いたのか、火はじわじわっと大きくなっていく。
「よぉーし、そうだそうだぁー……
もっと大きくなってくれよぉ……!」
ついに火に話しかける始末。私かなり疲れてるのね。
……あぁっ、そうだ枝! 集めた枝乗っけなきゃ!
枝の山はすぐそば。手を伸ばして枝を掴む。
この板を移動させるより、枝の方を移動させる方が安全だろう。移動させて消えたら私立ち直れない。
ゆっくり消えないように積んでいく。
よし、火が移った! この調子でどんどん大きくしていかんとなぁ……!
少し、希望が見えた気がした。
――――やった……!!
ついに、火は焚き火といえるほどに大きくなった。
私はレジ袋から魚を取り出すと、余った枝にぶっ刺す。
……その枝、地面に落ちてたから汚い? 知ったことか!!
私は! 早くこれを! 食べたいんや!!
もう食べたくてしょうがない。お腹と背中がくっつきそうだ。その様は飢えた獣のよう。JKとしてどうなんだ。
……私もうJK捨てよかな!? 女子高校生なんてただのブランド、この世界でもし生きてくことになるとするなら邪魔にしかならんし! てか、そもそも高校に通えるかも分からないんだからもうJKではないのでは!? ……それはそれでちょっと寂しい気も。
めんどくさいやつである。
魚をぶっ刺した枝を火に近づけて炙る。
あ~……魚の美味しそうな香りがする……!!
火と手との距離が近いから少し熱いが、身を削ってまで起こした火。その熱さすらも愛おしく感じる。やべ、私重症だ。
……その証拠に手はもうボロボロ。
必死でやってたから気が付かなかったが、薄皮がびりっとめくれてる。そして怪我はしてないはずなのだが少しひりひりする。
……まぁ、血が出んかっただけマシだと思うが。
血が出たとしたら止血せんとあかんし、止血できる布とかもないし……。
魚にいい焦げ目がついている。そしてその香ばしい香りが鼻腔を刺激する。
あ~……まだかな、まだかな!?
もう食べてもいいやんな!?
もう先のことは知らん! これで腹壊したときはその時、もう食べる!
魚を少し嗅いだあと、かじりつく。
「あちっ」
当たり前だ。焼きたてだもの。
熱さを我慢しながら、そのホロっとした身を噛みしめる。
「んー! おしい……い?」
……あれ?
…………なんか、ビミョーじゃね?
味わうようにして噛み続けるが、思ってたより美味しくない。
食感は、食感は割といいのだ。何だったっけな、アジをもうちょいホロっとさせたような食感だ。柔らかい。
風味も悪くない。ちょっと独特な風味だけど魚〜って感じがする味。語彙力ないけど。
…………そう、塩だ。塩気が足らんのだ。
魚って食感と風味だけで、塩気が無い。
え、何この残念感。こういうタイプの話って必死に取った魚がありえないほど美味しいってのが王道じゃないの? 現実だから違うの? なにそれハードモード。
塩気が、塩気さえあれば物凄く美味しくなるはずなのに……!
なんとも言えない顔で魚をかじる。
…………あぁ……家帰って、さんまの塩焼き食べたいなぁ……。
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