10月4日(火) JK、火を起こせない

「……うん、いい感じ、かな?」

 

 私の感はやはり当たっていたらしい。

 

 私の目の前には、いい感じに積まれた枝の山。

 大樹の下、あまり草の生えてない部分に積まれたそれは、自分で言うのも何だが、なかなかにそれっぽく出来ていた。


 まぁ、木を積むだけでそれっぽいも何もあるのか、とか言われると痛いんデスケド……。

 

――私の予想通り、大樹の下には草に隠れるようにして沢山の枝が落ちていた。だから準備はバッチリ。ここからが問題、火をつけなければならない。

  

 万一にも山火事にならないように、草からも大樹の幹からも距離は取っている。で、水筒に水を入れているからもしもの時はこれで消火できる。


 ……うん、やってみよう。


 リュックからキシリトールガム一枚とスマホを取り出し、ガムは口に入れた。……あ、甘い……。

  

 私が欲しいのは銀紙だ。これを確か細く切って、電池の両端に当てる……であってたはず!

 

 で、スマホの電池も取り出さないと、えっと……


 カバーを外し、スマホの背面を外す。…………が、


「……これって……」


 瞬間、私の頭を絶望が埋め尽くした。


 ……ネジ。


 ネジが……。


 ネジが、バッテリーの入っているだろう部分を止めている。

 

 ……つまり、プラスドライバーが必要、なのだ。


「……ウソ…………」


 もちろんプラスドライバーなんて持ってない。

 とても小さなネジだ。定規とかで回せないほどに溝の小さな……。

 

 私の計画が、ボロボロと崩れていく。


 この魚、生で食べないといけないの……? いや、その覚悟は私には無い。それに毒がないにしても食中毒になる可能性もあるのだ。

 刺し身の魚はたいてい海の魚。川の魚を使わないことに、何か意味があった気がする。忘れたけど……。


 ……じゃあ、じゃあどうする……!


 頭を働かせる。生食は危険だろう、と言っても食べなければどちらにせよ死ぬのだ。それなら、別の火起こしの方法を探すしか……。

 

 …………やっぱ、摩擦……?


 私の頭の中に、木と木を擦り合わせて火を起こす、あの原始的な方法が浮かんだ。


 確か、枝の先端を尖らせて、木の板に擦りつけてた……気がする。


 だけど、どうしよう……枝はあるけど、木の板なんて……。


 私の頭の中に、あのツリーハウスの家具が浮かんだ。


 ……ダメダメダメ! あれは他人ひとのものだし、そもそもそんなことに使うなんて勿体なさすぎる!


 確かにあのツリーハウスの家具はすべて木製。板という条件は揃っている、が流石に勿体無いし、私の良心が痛む。テーブルとか椅子とか、これから役に立つ物を火を起こすためだけに失いたくない。


 …………そうだ、大きめの枝を割ればいいんだ!  


 そのとき私の頭に浮かんだのは、薪割りの光景だった。

 あれは火を起こすため、ではなく燃やしやすくするために割っていたはずだが、火起こしにも使えるはずだ。とにかくあの方法って、面が真っ直ぐで、地面に木を固定できることが条件のはずだから……。


 ツリーハウスにあった、あの鉱石ナイフを思い出す。


 さすがに折りたたみナイフだと強度、サイズ的にキツイかもしれないけど、もしかしたらあのナイフなら……! 

 

 あの鉱石ナイフ、サイズもそこそこ大きくて、何よりよく切れそうに見えた。

 

 ……勝手に他人の物を使うのは気が引けるが、もう1泊してしまったし、これは生きるために必要なことなのだ。


 ……うん、やるしかない。


 そうと決まれば準備である。


 私はスマホを元の状態に戻し、味のしなくなったキシリトールガムを銀紙で包んで、あの枝の山の近くに置いた。


 これは……後で燃やそ。

















――――しばらくして、私は必要な物を揃えることができた。

 

 そこそこ太い木の枝、真っ直ぐで硬そうな木の枝、鉱石ナイフ。

 

 ぴったりそうな枝を探すのに時間がかかったが、まぁ仕方ない。

 

 私は近くにあった平らな岩に木の枝を置くと、枝の繊維にそって鉱石ナイフの刃を当てた。力をグッと込め、上下に揺らしながら刃をどんどん下へと押し込んでいく。

 

「あ……」


 すると、早くも木が裂けてきた。随分と柔らかい枝のようだ。鉱石ナイフを抜き取って、指を突っ込み、無理やり割く。


 ベキベキベキッ


 断面は少しいびつだが、ある程度真っ直ぐ。


「これでいけるかな……?」


 いや、いけると信じるしかないだろう。

 

 今度は真っ直ぐで硬そうな木の枝を持つ。もう片方の手には鉱石ナイフ。

 次はこの枝を尖らせないといけない。


 美術の授業で鉛筆をカッターで削ったことはあるが、あの容量でやってみよう。

 私はクルクル枝を回しながら、鉱石ナイフで先を尖らしていった。やっぱり硬い。すっごい力いる……! 

  




――――――うん、できた!


 ……結果。無事怪我をすることもなく、2つの道具を作ることができた。ここまでは順調。ついに本題だ。時間はかなり掛かるだろうけど、今度こそは……!

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