10月4日(火) JK、初めて狩りをする

――――お茶を飲み干し、ふうっと大きく息を吐く。そして、ジャバッと水筒に水を入れ蓋をした。

 

 ここから、ここからが問題だ……!

 

 先程考えた方法。ナイフで魚を刺して捕る。

 我ながら脳筋な方法だと思うが、今の私にはこれくらいしか思いつかないのだ。

 

 折りたたみナイフの刃を出し、魚を探す。

 草をかき分け、音をたてないように、魚が逃げないように、慎重に……。

 

 今、私のリュックには厳選したものしか入っていない。だからかなり軽くなった。


 まぁ、教科書とノートがこのリュックのほぼほぼの重さを占めてるからね。逆に、なんでさっき荷物出さずに背負ってたのかが気になるわ。本当に頭になかったんだよな、私。

 

 学校の教科書重すぎ問題。早く解決していただきたい。もういっそのこと、タブレット端末に全ての教材が入ってるとかだったら楽なのに……! 


 教科書だって金かかってるんだろ……!? それなら少し値は張るかもしれんがタブレット端末でもいいじゃないか……! それで生徒の肩こりとかも改善するんだぜ……!?

 

 生徒の肩こりの原因、たいてい学校の荷物のせい説。


 ……なんて、なぁ……。


 もう通えるかすら分からない学校のことを思い出す。


 ……だけど、そのありえんほどの荷物背負ってでも、衣食住に困らず友達と、家族と過ごせたあの時は幸せだった。

  

 大切なものは失って初めて気づくって、本当にその通りだ。


 帰り、たいなぁ……。


 少し立ち止まって俯く。が、顔を上げる。

 

 …………ううん、今は魚捕ることに集中しなくちゃ。


 目にじわっと感じる熱を気にしないようにしながら、私は魚探しを再開した。

 

 

 …………居た!

 

 魚は思いのほかすぐに見つかった。

 

 青い綺麗な魚だ。形は鯉みたいで、大きさは……鯖くらい? そこそこだ。ゆったりと泳いでいるため、まだ獲りやすそうではある。

 

 ……これが獲れれば朝ごはん分は持つだろう。

 毒があった場合については……考えないようにする。そんなこと考えてたら飢え死んでしまう。

 

 川ギリギリまで近づく……よし。気づかれてない。

 

 その魚は澄んだ水の中で優雅に泳いでいる。あまりスピードはない。


 いける……!

 

 私はすっと息を吐き、その魚めがけてナイフを振り下ろした。

 

 ジャバジャバッ

 

 草が擦れる音、水の跳ねる音。周りの小魚達が一気に逃げる。川に魚のものであろう赤い血が帯を作る。

 手には冷たい水の感覚。しばらく暴れ、動かなくなった魚。


「やった……?」

 

 ナイフを持ち上げると、魚がポチャっと川に落ちたので、慌てて持ち上げる。


 ……やった、やった……!!

 

「食料、ゲット……!!」


 私はヌルヌルする魚をがっちり掴み、思わずガッツポーズをした。


 やった! 朝ごはんゲットだぜ!


 テレテテッテッテー、なんて脳内でレベルアップの音が鳴る。

 

 ……そして、思わず泣きそうになった。気がつけば、視界がじわっと歪んでいた。


「……あはは、やった……捕まえられた……」


 …………私は、もしかしたら、飢え死ぬかもしれないとまで考えていた。

 

 私は平々凡々なJKだ。サバイバル経験も、生き残るための知恵も、何も持ってない。

 

 一時期、サバイバルについて興味があって調べたことがあるが、それくらいだ。

 

 キャンプですら、そんなにしたことが無い。


 そんな私が魚を捕まえることができた。ここで生きていけるかもしれない。


 不安が少しマシになり、涙のダムはもう崩壊寸前だったが、無理やり抑えこむ。にじんだ涙を腕でゴシゴシと拭う。


 ……早く、早く焼いて食べないと。で、ここ周りの探索だ。

 もしかしたら、帰る方法が見つかるかもしれない。

 

 頭を整理する。やっぱり、私はこういう状況に陥ったとき、むしろ冷静になるタチらしい。

 

 ……私には、泣いてる時間なんてない。日が暮れるまでにここの探索、昼ご飯、夜ご飯を手に入れないといけない。

 あのツリーハウスもちゃんと探索できているわけじゃないし……。


――――あのツリーハウスには、何語かわからない本、装飾品らしいもの、木製の食器、鉱石ナイフが見つかってる。

 装飾品らしいものがあるなら、衣服もあるかもしれない。


 ……そう、私にはやらないといけないことがいっぱいある。

 泣いてもなんにもならない。苦しいだけだ。

 

 ……次の問題は火を付ける事か。


 えっと……枝を集めて、ガムの銀紙とスマホのリチウムイオン電池で火を付ける。

 ……ネットで調べただけの知識だけど、でも、できると信じるしかない。

 

 私には、この魚を生で食べる勇気は流石にないのだ。たしか川魚って、生で食べるのはあまりよくなかった気がするし……。

 てか、根本的に食べれるかも分からない魚だし……。まぁ食べるしか無いんだけど。

 

「まず、枝を集める……」

 

 自分のやるべき事を口に出す。

 

 枝……この大木の下なら折れた枝とかも多いんじゃないかな。

 風とかに煽られてボキッて感じに。

 だから割と早く見つかるかも。というか見つかって欲しい。私の願望である。

 

 折りたたみナイフを仕舞う、そして魚をそこら辺の適当な石の上に置き、レジ袋に入れようとリュックを開けようとするが……。

 

 アッ、手めっちゃヌルヌルするぅ……!!

 

 と私の手はぴたっと静止した。

 

 ……ヌルヌルしてて当たり前だ。そりゃ魚を鷲掴んでりゃそうなる。そしてプラス血とか混じってるんだから……うん。グロいね。手が血まみれみたいな状態、てか血塗れだ。


 川に手を付けゴシゴシと擦る。すると血が帯のように流れていく。その帯を見ながらふと、自分の奇行に気がついた。


 ……よく考えたら、血塗れの魚掴んでガッツポーズするとか、何やってんだ私……原始人か。

 嬉しかったから思わずやってしまったけど、女子力無さ過ぎだろあれは……。JKとしてどうなんだ……?


 …………


 …………


 ……とりあえず、仕切り直して、枝拾おう……。


 

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