10月4日(火) JK、黒いアイツとエンカウント
……カラスだ。
カラスはカッカッと音をたて、飛び跳ねながらこちらに近づいてくる。
「な、なぜカラスが……」
カラスは特に襲い掛かってくるような様子もなさそうだ。
だが、私は数歩後ろへと下がった。
……実は私、カラスが苦手なのである。
なぜなら、少し、いやかなり、嫌な思い出があるからだ。
――――あれは小学一年生の頃、私はお母さんとルンルン気分で帰路についていた。
背中にはお気に入りのランドセル。頭上にはカアカアと鳴くカラスの声……ここでなんとなく察した人もいるはずだ。
カラスの糞が……私のランドセルにクリーンヒットした。
その後はもう大変。泣きわめく私、なだめる母、カラスは何も知らないかのように空へ飛び立ち……。
幸いなことに防護カバーのおかげでランドセルは汚れはしなかったが……。
私は目の前のカラスに苦い顔を向ける。
ヤツは私にトラウマを植えつけていきよった。
「わわわっ、来るなっ!」
どんどん近づいてくるカラス。後ろへ下がる私。後ろを振り返ると……っもう下がれない。そこに床はなく、空中へと繋がっていた。
カラスは私のすぐそばまで来ると、ピタッと止まる。
「な、なに……」
呟く私、考えの読めない瞳で見つめてくるカラス。数秒が過ぎる。
何だこの図。私にどーしろと
と、カラスは私の足をつっついてきた。
体が硬直する。リアルであるんだねカチンッて固まること。本当に動けない。
カラスはツンツンとつついてくる。痛くはないが、私にとっては恐怖以外の何物でもない。だから必死に頭を回した。
ど、どうするべきか。そうだ! とりあえず、ツリーハウス内に逃げ込もう。戸を閉めたら入っては来れないはず。しばらくしたらどっか行くだろうし……。
今、引き戸は全開、だからこそここまで下がれた。
目の前にはカラス。ああ、塞がってる! 四面楚歌!
だからといって、蹴ったりしたら攻撃されそうだし、私の後ろに地面はない。飛びかかられでもしたら後ろに落ちてお陀仏である。
はしごで下まで……! いや、それまでの動作でカラスを刺激でもしてしまったら……!!
てゆーかそもそも、焦って枯れ葉で滑って落ちそう……!
どの案も否定されていく。カラスはその真っ黒な目で私を見つめている。
「ど、どっか行ってくれよぉ……!」
思わずポロッとこぼれた言葉、それにカラスはピクッと反応した。
そして、ガサガサと枯れ葉を踏み、カラスは方向を変え、私の前からどく。
…………え?
これは好機だ、とツリーハウスへ駆け寄ったが……。
困惑した目でカラスを見つめる。カラスはバルコニーの端、私からかなり離れたところでこちらを見つめていた。
そして、方向を変え、飛び立つ。
「あ、ちょっ……!」
カラスはもう飛び立った後。空を黒色が飛翔する。
……あのカラス、私の言葉……分かってた……?
私のあの「どっか行ってくれ」なんて言葉のすぐ後に飛び立つなんて……。
偶然? それにしては出来すぎてるような……。
「あのカラス……大丈夫かな……」
思い浮かぶのはあの先程見たドラゴンだ。あいつらがもし肉食だったら……。
流石にどんなに苦手なものでも、少しは情が湧く。……あ、あのGの付くやつは別ね、あれはちょっと……。殺すのかわいそうだな〜程度ならあるけど無理です、そこまで私聖人君子じゃございません。殺虫剤振りまきます。
…………
……本当に、あのカラス大丈夫かな……?
自分から追い出しておいて何を言うんだ、なんて頭を振る。
今はそれどころじゃない。
食べ物を確保しないと。
そう、今は私もヤバいのだ。他人……てか他カラス? を心配している余裕はない。
……まず、水を飲もう。で、ついでに水筒に入れよう。
――――実は私、これまでの間、ずっとリュックを背負っていたのだ。寝るときは無意識に外していたが、先程背負って今も持っている。
このリュックすごいフィット感でそこそこの量が入るから便利なのである。……持っているものは教科書、ノート、筆箱、水筒、財布、ゴミ袋用のレジ袋数枚、イヤホン、折りたたみ傘、その他衛生用品などなど……あ、そういえば護身用に折りたたみナイフ持ってたっけ。あと、食べ物系ならキシリトールガ厶、ロイヤルドロップコーヒー味(飴)。
割と色々持っている私に驚く。何かあったとき用に、と詰め込んで居たのがありがたい。
……じゃあ、とにかく、この荷物全て持っておりる必要はないから、教科書とノートはツリーハウスに置いてこう。
で、水を飲む……というか、水筒のお茶飲み干さなきゃ。で、水入れる。
……まだ一日しか立ってないし、お茶大丈夫よね……?
…………まぁ大丈夫と信じましょう! でその後、どうにかしてあの魚捕まえて食べる!
……そのどうにかしてが問題だな〜。ん……そーね、手づかみ! ……で取れるかなぁ? 逃げられない……?
それか、折りたたみナイフでぶっ刺すか。うん、こっちの方が成功率高そう!
それから、生は怖いしどうにかして焼こう。……どうやって? 木に枝をこする……みたいのは聞いたことあるけど私にできる気がしねぇ……。
あ~……一時期サバイバルについて調べてみたことあったんだけどなぁ……! 何やったっけぇ!? 他にも方法あったよな……!?
「ペットボトルに水入れて虫眼鏡代わりに……だっけ? ……いや、ペットボトル持ってねぇし! じゃあマイクラみたいに火打ち石で……どこにあるんだよ火打ち石! ……あ、そうだ電池! 電池と銀紙! ……ガムはあるけど電池ねぇぇ!」
小声で思考を整理するが、どれも否定されていく。
最後の! 最後のやつ惜しいのに……!
電池で動くものなんてたしか私持って……ん? 電池……?
頭の中にある言葉が駆け抜ける。
“リチウム電池とリチウムイオン電池は別物だからな〜。ややこしいけど、多分テスト出すから間違えんようにしとけよ〜!
リチウムイオン電池はスマホにも使われていて……”
リ チ ウ ム イ オ ン 電 池 !
学校で習ったことが初めて実用性あると感じた。
先生……ありがとう……! 毎日カッパだって思っててごめんよ……!!
そうだ、これで火が起こせる……!
ネットで見た方法。ほんとに出来るかは分からないがやるしかない。
私は、早速準備に取り掛かった。
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