10月3日(月) JK、木を登りツリーハウスへ

とどっ、くっ、わけっ、ないっ、やんっ、な!!


 ピョンピョンと飛び跳ねてみるが、手が枝に届くはずもなく宙をかく。届いたにしても枝がバキって折れたらお終いだし、枝に登れたとしてもそこから登るルートがあるかも分からない。

 

 そんなうちにも日はどんどん沈んでいっているようで、空が暗くなり始めていた。……バカなことはやめよう。


「……これどーすんの……」


 まずは観察である。


 木に近づきじっとりと、そりゃまぁなめ回すように見て回る。出っ張りはあるにはあるが、苔(コケ)がすごくて、木登りは……難しそうだ。ズルっと滑るだろう。

 それに出っ張りがあるといっても、そこまで大きなものではなく、足をかけるとなったらギリギリ……。


 それに、さっきの上に登れそうな枝も手が届かないし、届いて登れたとしても、そこからどうやってあの家に向かえばいいか分からない。


 あれ、これって……。


 これは詰んだのでは……? と絶望しかけたが、どうやらそうでもないらしい。よく見ると、木に鉄製のはしごが取り付けられていた。

 木と色が似ているうえ、葉っぱで隠れていたから気が付かなかった。


 ……あの家の主が取り付けたものか。


 赤く錆びているけど、もしかしたら登れるかもしれない。

 

 近づいて、手をかける。鉄の臭いが鼻についた。


 ……ザラザラしているが、脆くなっているわけではないようだ。これなら大丈夫か。


 思い切って足を置き体重を乗せる。はしごは揺れもしないし、音を立てるとかもない。私は静かに上り始めた。


 うー、やっぱ割と高いな……。


 下からでは分からなかったが、この高さ割と怖い。

 

 私は別に高所恐怖症というわけではないのだが、下に見える草むらが日が暮れてきたからか真っ黒に色を変えていて、それが一層恐怖を掻き立てた。

 

 我慢だ、我慢……。


 上に視線を移す。……気がつけば、もうすぐそこに家はあった。


 木製のその家には枯れ葉が沢山のっていて、生活感はない。歪んだ木目、少し空いた隙間……、本当に小屋って感じ。


 人……住んでるんかなあ。


 私ははしごから左手をはなして、バルコニー? テラス? とりあえず家の周りの出っ張ったスペースに手を乗せた。


 体重を手にかけよじ登る。砂もすごいな……。


 黒い制服だから、白くなっている部分がよく分かる。


「……やっぱ、誰もいないんか……」


 落ち葉が溜まっていた所でなんとなく察してはいたが。


 うーむ……これは入っていいやつなんか……?


 ……まぁ、私には入る以外の選択肢はないみたいだが。


 もうあたり一面真っ暗。目の前にあるもの以外何も見えない。

 スマホを取り出して、ライトモードにする。このモード、電気の消耗は激しいけど充電残量はまだある。それに使うとしたら絶対今だ。


 落ち葉を踏み分け扉に手をかけた。引き戸なのか。


 ガタッと何かにつっかえたと思えば、あっさりと開く。


「お邪魔しまーす……」


 私の呟くような声は、静かな小屋の中へと溶けて消えた。


 ライトの先には丸テーブルがあった。椅子は2つ、左手には窓。床には茶色の毛皮の絨毯が敷かれてある。ライトを動かすと、タンス、入ってきたところとはまた違う扉、壁にかけられたオパールのような不思議な色合いのナイフ……鉱石ナイフ? 


 ……なんと質素な部屋だろうか。家具が少ないうえ、置いてある家具すべて木製でガタガタで、手作り感満載だ。そういうデザインかな……? それともほんとに手作り……?


 そしてなんでだろう、とてもきれいだ。外は枯れ葉だらけだったのに室内はホコリ一つない。だけど生活感はない。……むしろ、人がいないから汚れないのか?


「流石にー……絨毯を土足で踏んじゃだめよね……」


 靴を脱いで入ってきた扉近くに置く。

 靴下越しに毛皮のふさふさした感覚が伝わった。


 この感触……。


 私は静かに倒れ込む。柔らかい毛が頬を撫でる。……うちのラグマットもこんな感触だった。


「なんだろ、この状況……」


 そして、家のことを思い出したからか、これからの不安からか……泣きそうになった。目頭が熱い、鼻がツーンとなる。


 どうして私が、とか、これからどーしよ、とかそんな気持ちがグチャグチャになって、苦しい。


 当たり前の感情だろう。気がつけば知らない世界に居たのだ。誰だって不安になる。


 だけど、そんな思いと裏腹に、睡魔は襲ってくるようで、まぶたが重くなってきていた。目を瞑ると涙がこぼれる。


 生暖かい……。


 私は顔を絨毯へ押し付ける。


 このまま寝ちゃおうか……起きたら、元の世界に戻ってるかも……しれないし……。


 ……体が闇に沈んでくようなそんな不思議な感覚に、私は意識を手放した。

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