異世界旅行者―元関西在住JKの異世界転移―
らい
サバイバル編
10月3日(月) JK、状況を把握する
うん、これ夢。絶ぇっ対に夢。
目の前の景色を見て、自分の目が死んでいくのを感じながら、考えた。
「壮大」「巨大」「神秘的」……そんな言葉が似合うような大樹が、ドーンとそこに在った。
とてつもない存在感を放つその大樹。枝は空を覆うように四方八方に広げられ、橙色の光を受け、透けた葉が黄色く輝く。
その下の草はボーボーと茂っていて、そよ風が吹くたびに私の足をこしょばしてくる。
土と花の匂い、ザワザワと葉の擦れる音にコトコトチャプチャプという水車のような音、川の音。
さっきまでいた住宅街とは大違いのその景色。まるで、ファンタジーの世界のように現実離れした景色に、私はただ呆然としていた。
……なんで、なんでこうなったん。
手にはスマホ。インターネットは繋がってない。電話も圏外、18:36と今の時間を伝えている。
充電は86%、日付は10月3日(月)。紛れもない今日の日付だ。
私は、ただ
そう、私はさっきまで住宅街を歩いていた。カラスの鳴き声も、どこかん
だからこそ、この状況を理解できなかった。
私はこの森に来た覚えがない。記憶は……あー……交差点あたりで途切れている。
最悪の状況だ。
記憶もなく、ネットも電話も頼りにならん。
……とゆーか、そもそも見た感じ地球じゃない。
目の前で揺れる透明な草を見る。ほんのり桃色が入っているユリみたいな形の草。揺れるたびに花粉のような金色の粉がふわりと舞う。
透けてる上、キラキラ輝く花粉を飛ばす草……? 見たことも聞いたこともない。そして、他にも見知らぬ植物があたり一面に咲いている。……裏を返せば、知っている植物が一つもないのだ。
似たような形をしていても、何かが違う。たんぽぽみたいなギザギザな葉っぱで鈴蘭みたいな花を咲かせているものもあるし、何かに巻き付いているわけではないのに茎がバネみたいにグルングルンになっているものもある。
明らかに地球ではないのである。
まさか、異世界……?
ライトノベルや漫画ばかり読んでいた私の頭が、そんな答えを導き出す。
「いや、でも、まさか……」
そんなことありえるん……? そう言おうとして、口をつぐんだ。
……違う、ありえるから私は今こんな状況に居るんじゃん。
顔が歪んでいくのを感じた。
「あぁぁあ……私が一体何したって
頭を抱え、思わず口に出した。
感じるのは底なしの不安だ。
いくら異世界ものの作品が好きだとしても、自分で体験するとなると別である。
元の世界に帰れるか分からない。衣食住をちゃんと確保できる自信がない……そんな状況下で素直に楽しめる奴が居るんだろうか。居るとしたらどんだけポジティブ野郎なんだ。
そこまで考えて目を瞑った。ふっと息を吐き出す。
どこからか吹く風が、一つに結んだ髪とスカートをゆらゆら揺らす。
駄目だ、混乱したら。落ち着け、落ち着けぇ私……。今そんなこと考えても意味ない。
こんな状況でも、なぜか頭は冷静だった。
いや、驚きすぎただけなのかもしれない。
何か行動しないと、確実に死ぬ。そう、頭のどこかで理解していた。
……こんな状況だと、まずは衣食住の確保が大切なはず。……第一に優先すべきは、住……つまり寝床。
帰る方法を探すのもありやけど、今はもう日が暮れかけてるから。多分見つける前に日が暮れる……夜になったら何が起こるか予想もつかん。肉食の動物はたしか夜行性が多いから……食われる、なんてことも……。
想像して身震いをした。
……洒落にならんな。気をつけよ。
異世界系あるあるだと、誰か人に助けてもら……うは人居なさそうだしそもそも日本語通じるか分からんし、できそうにないので、洞窟とか木の空洞とか見つけるのが手っ取り早いか。
目の前のこの木……空洞くらいありそう。もしかしたら見つかるか……?
……いや待てよ。そういえば大樹の方向から水車みたいな音するんよなぁ。人居ないって思ってたけど案外いる……?
私はとりあえず大樹へと歩き出した。どちらにせよ、大樹の方へ行くのが正解だろうから。
「にしても……はぁぁ、本当にでっかい木」
直径一体何mあるんだろう。幅だけで見ると……通天閣くらい? あれ、通天閣って直径何mだ?
見た目は広葉樹……
「……水車……!」
そして、木のちょうど背後。私の身長ほどの水車が、カタコトと音を鳴らして回っていた。
……小川が、小川がある!
駆け寄ってみると、とても澄んだ小川が流れていた。見たことのもない魚がゆらりゆらりと泳いでいる。
……そういえば、私、喉からっからだ。
今まで気がつかなかったが、気づいてしまうととことん気になってしまう。少し躊躇したあと、その水を手ですくって顔の近くへと運んだ。
……ひんやりとしていて、指の隙間からこぼれたものがポタポタと草の上に落ちる。
……変な匂いはしないしゴミもない、飲めるかもしれない。それに、そこそこなサイズの魚も居る……見たことないやつだけど。
勇気を出して口に当て、舐めてみる。……うん、無味無臭だ。
もう一度すくい直して、ごくんと飲み干した。喉が冷たい水で潤されていく。
あぁ……美味しい、かも……?
あの水道水独特の味もせず、本当に無味無臭。そして、なおかつ程よい冷たさ。
まぁ……これなら大丈夫……? このあと私腹壊したりせんよな……? ……したらまぁ……そん時はそん時か。
ハンカチで手を拭った。
食と水は、割と大丈夫かもしれない。この泳いでる魚……食べれそうな雰囲気は漂ってるし……。
……いや、今の問題は寝床なのだ。
私がぐるっとあたりを見渡すと、水車はあるのに家はない。
おかしいな……、水車があるなら小屋ぐらいあると思ったんだけどなぁ。火がない所に煙はたたないって言うし、水車なんて人工物を作るくらいなら、近くに水車を活用するための何らかの建物があるのが普通なんだけ……ど。
なんとはなしに、真上を見ると…………あった、家。
「……ツリーハウス?」
私の頭上の枝の上、木にめり込むようにして、その家は建っていた。
どうやって登るんか検討もつかん。が、明らかに家だ。人工建造物だ。木製で、まるでログハウスのような見た目をしている。
……これは、木登りしないといけないパターン? いや、でもこの木登れるん?
私はなんとも言えない困惑した表情で、5mほど上のツリーハウスを見つめ続けた。
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