第13話 台風一過ならぬ、妹一過

「……なんか色々と見苦しいもの見せたな」

 怒り狂った妹によって粉々に粉砕され床に散らばった自身のお気に入りのDVDの残骸ざんがいを、友徳とものりは落ち込みながら片付ける。

「いや、俺こそなんかゴメン。愛利あいりちゃん引き止めることも出来たのに」

 そして親友の片付けを手伝いながら陸斗は謝る。


 自分の失言で愛利が友徳に対して怒ったのだと、少しばかり自分の言動に悔いての発言だった。

 けれど、愛利の長いこと一緒にいる友徳はキッパリと言い切る。

「いやー多分無理だったと思うぞ?」

 避けられなかった事だと。

 陸斗がどんな発言していたところで、愛利が友徳にキツく当たるのは避けられなかった事だと。


「それにほら愛利は、あんな感じだから」

 そう言って、友徳は愛利の方を指差す。

 その指の先には不機嫌そうにベッドに座り、部屋の本棚から取り出した本を読んでいる愛利の姿があった。

 そして、友徳に名指しされたことで愛利はジロリと睨む。

「……今度こそゲーム破壊しようか?」

「それは勘弁。つか、それ俺の本だろ。返せ」

「はいはい、分かりましたよ。貧乳年下美少女が大好きなお兄様」

 兄・友徳からの指示に素直に従う妹・愛利だったが、置き土産的に取り出した本の内容を口に出すという抵抗をするのだった。


 友徳は言われた事に関しては特に反論しようがないのか、否定することも無く

「なっ?可愛げ無いだろ?」

 と再度愛利を指差しながら陸斗に話しかける。


 と、2人のやり取りを黙って見ていた陸斗は一言二言こう言うのだった。

「そりゃ友徳相手だからだろ。俺相手には普通に優しいし」

 と。

「えへへ……!」

 陸斗に優しいと言われたことが嬉しいのか、手を頬に当て顔を綻ばす愛利。

「まぁ愛利は外だと基本猫かぶってるしな」

 愛利が友徳に厳しければ、友徳も愛利に厳しいようで、それは喧嘩が起きやすいだろう。


 すると、友徳言葉が引き金となったのか

「……姉貴みたいにな」

 とボソリと呟く陸斗。

「ん?美海先輩がどうかしたの?」

 先程までの明るい口調が見る影もなくなった陸斗の声に愛利は心配になり、顔を覗き込もうとする。


 だが、それを友徳は遮った。

「あー……すまん愛利ここから先は男だけの話なんだわ」

「えー、せっかく鷹峰たかみね先輩とじっくり話せるチャンスなのに!」

「それは後で作ってやるから。とりあえず今は頼む」

 普段はだらしない兄に、突然深々と頭を下げられ愛利は困惑する。

 しかも、陸斗の様子が変わったのも気になっている様子でこのまま居座ってもおかしくなかった。


 が、思ったよりもあっさりと決着したのだった。

 愛利は立ち上がると同時に友徳に耳打ちする。

「……ついでに後で腹パンさせてよね」

「なんでだよ」

 何故に腹パンなのだろうか。そんな困惑の色が友徳の表情から見て取れた。

「何となく……。ちょっと羨ましいって思ったとかじゃないから!」

「ちょっ、それ答え言ってね!?……って行っちゃったわ」

 言いたいことだけ言うと、愛利は意外にもあっさりと部屋から立ち去るのだった。


 引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、色々と爪痕を残して立ち去る。

 台風一過ならぬ、妹一過とでも言うべきだろうか。


「えっと、大丈夫なのか?」

「あー、うん。大丈夫大丈夫。きっと腹パン1発で気が済むだろうし、それで愛利が満足するならそれでいいさ」

 これから起こるだろ愛利からの暴力予告に、友徳はなんて事ないと言わんばかりに笑い飛ばす。

 友徳が愛利を強く咎めることは無いから、きっと愛利は甘えているのかもしれないが、それでも彼女を受け止めている親友を見て陸斗は


「……お前はいい兄貴だな。俺の姉貴と違って」



 ただただ羨ましく思うのであった。

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