第12話 これもまた兄妹の1つの形

「オラァ!クソ兄貴ィ!!!」

 部屋のドアが開くと同時に響き渡る愛利あいりの怒声。

「なんだ?どうした、愛利?急に部屋に入ってきて。それに頭を掴んでどうした……って痛い痛い痛い!!!!!」

 そしてなんの抵抗も出来ず友徳とものりは顔面を鷲掴みに、つまりはアイアンクローをキメられる。

 小柄な体に見合わず、ものすごい握力を持つ愛利。

 そしてその愛利に顔を掴まれて悶絶もんぜつする友徳。

 その愛利の姿には、部屋着で陸斗を出迎えてしまい恥ずかしがってた姿なぞ見受けられなかった。


「私、鷹峰先輩が来るなんて聞いてないんだけど?」

「そりゃ、さっき電話で知らされたからなぁぁぁあああ!!!!!」

 愛利が友徳の顔を掴む力を強めたのだろうか、友徳は更に悶絶する。

 言い訳1つすらも許さない、と言ったことだろう。


「だったらすぐさま教えなさいよ。そしたらきちんとした服装で鷹峰先輩を迎えられたのに!」

 そう言って、友徳の顔を離し、その離した手で着ている服を触る愛利。

 きちんと可愛らしい格好の部屋着だが、彼女的には陸斗に見せる格好では無いようだ。

 そして、そんな今の格好に不満を覚える愛利に対して友徳は

「いやいや、愛利が服装変えたところで陸斗と何が起きるわけ」

 と悪態つく。

 アイアンクローから逃れることが出来たことで気分が良かったのだろうが、調子に乗りすぎたようで。

「……おいやめろ、蹴りの体勢に入るのやめろ?そのまま一体何を蹴るつもりなんだ!?」

「何って、兄貴が隠してるつもりのエロゲだけど?例えば、本棚の裏に隠し忘れてる辞書の下にあるやつとか、ね?」

「すまん俺が悪かったからそれだけはやめてくれ!」

 どうやら、その発言が愛利の逆鱗に触れてしまったようで、彼女は右足をこれでもか、と言った具合に目いっぱい上げる。

 その状態を見た友徳は慌てて愛利に許しを乞う。

 エロゲを破壊されまいとして、妹に土下座する兄・友徳。


 そもそもどうやって18歳以下は買えないものを何故友徳が持っているのか、そしてその事を何故愛利が知っているのか。

 色々疑問は残るが、何はどうであれこればっかしは妹の逆鱗に触れた友徳が悪いとだけは言える。


 本来はまだ持つべきでは無いものなのだから、やはりそこは覚悟しなければならないだろう。


 だが、それでもエロゲーだけは守りたい友徳の気持ちが通じたのか、足を下ろす愛利。

 その代わりに手近な所に置いてあった縦長の薄い箱を持つのだった。

「初めっからそうすればいいのに。それじゃあこれで勘弁してあげる」

「おい、まさか……嘘だよな?」

 彼女の持つ“ これ”を目にした友徳は、泣きそうな顔をしながら声を震わせる。


 その様子に愛利はニヤリと笑う。

「兄貴が最近お世話になってる、DVDを割るだけで許してあげるってことだけど」

「愛利さん……?冗談だよね……?俺そこまで悪いことした……?」

「私に報告を怠った。それが全てよ」

 そう言い切った愛利は、兄のお気に入りのDVDを割ることでトドメとしたのだった。

 その直後、友徳の断末魔が家中に響いたのは言うまでもないだろう。





「えっと……そろそろ部屋入って大丈夫?」

 そして、一部始終親友とその妹のやり取りを見ていた陸斗は、部屋に入るタイミングを伺っていたのだった。

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